万年筆のでっち上げを暴いた新証拠「下山鑑定」を大大的に情宣し、事実調べ、再審開始をかちとろう
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まず、この間の3者協議の流れを追ってみよう。10月21日付けで、弁護団が求めていた万年筆関連の当時の捜査資料1点が開示された。内容について今後精査することにしているが、弁護団の粘り強い証拠開示請求のとりくみの成果である。
弁護団は10月31日、被害者の財布や手帳に関する証拠の開示を求めて再度意見書を提出した。そもそも狭山事件は、自白やそれを根拠にした有罪判決では身代金誘拐事件とされているのである。被害者はチャック付きの財布と身分証明書の入った手帳をもっていたが、捜査段階で発見されていない。真犯人によって奪われたと考えられるが、石川さんの自白では「財布は盗っていないし知らない」となっており、身分証明書の入っていたのは「三つ折り財布」で、家にもって帰る途中で「紛失」したとなっている。身代金を取ろうという犯行で、財布は盗っていないし知らないという自白は不自然だ。
ところが、この財布・手帳の自白のおかしさについて寺尾判決は、石川さんが真実を語っておらず、燃やすなどして証拠を隠滅した疑いがあるとして、無実を示しているとはいえないとしたが、万年筆や時計の場所を「自白」しているのに、財布と手帳の存在や処分についてしゃべらないというのはきわめて不自然だ。ここには大きな疑問が存在している。第3次再審で開示された取調べ録音テープでは、石川さんは「財布のことは知らない」とくり返している。また、財布と手帳を混同しているという「無知の暴露」がはっきり浮かびあがった。弁護団は、こうした立場から財布・手帳についての捜査資料の証拠開示勧告を求めた。被害者の財布や手帳に関する証拠開示はきわめて重要なものであり、その関連資料を調べることは、自白の信用性とえん罪の真相を解くうえで重要な意味をもっている。
またこの日、弁護団は、埼玉県警の証拠物一覧表(証拠金品総目録)を開示するよう意見書を提出した。証拠物の一覧表について、検察官は埼玉県警などの証拠物一覧表(証拠金品総目録)は開示した東京高検の領置票と同じものであり、この領置票に載っている証拠物が、現時点で捜査機関が保管する証拠物のすべてであるので、開示の必要性はないとの主張をくり返した。弁護団は証拠物ないし客観的証拠はできるかぎり開示するべきものという原則にたって、すべての証拠物の一覧を客観的に確認できるようにあらためて主張した。
証拠開示の闘いは続いている。証拠開示を求める声をさらに大きくしよう。
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2016年11月2日、東京高裁で第30回3者協議がひらかれ、弁護団は8月に提出した「下山鑑定」の重要性をあらためて強調した。「下山鑑定」は一口にいえば、証拠とされてきた万年筆が「被害者のものではない」ことを科学的に明らかにしたもので、石川さんの無実を証明する決定的な新証拠だ。
狭山事件では、これまで被害者の所持品である万年筆が石川さんの自白どおり自宅のカモイから発見され、これが犯人であることを示す決定的な証拠とされてきた。発見された万年筆については、起訴後に科学警察研究所の荏原秀介・技官がおこなった鑑定(荏原第1鑑定)では、被害者が使っていたインク瓶や被害者の日記の文字のインクと異なるという結果が出ていた。しかし、2審、上告審の裁判ではこの鑑定は証拠として調べられず、石川さん宅から発見された万年筆は被害者のものとして有罪判決が確定した。
これにたいして弁護団は、再審請求で、被害者の日記、事件当日に書いたペン習字浄書などを新証拠として提出し、インクの違いは万年筆が被害者のものではないことを示すものだと主張した。しかし、第1次、第2次再審請求の棄却決定は、発見万年筆のインクが、被害者の級友のインクや狭山郵便局のカウンター備え付けのインクと「類似する」という荏原技官の追知鑑定(荏原第2鑑定)をもち出して、当日に被害者が級友のインクあるいは下校後立ち寄った郵便局でカウンター備え付けインク(ともにブルーブラックインク)を入れた可能性があるとして棄却した。
しかし2013年7月、裁判所の証拠開示勧告にもとづいて、被害者のインク瓶が開示された。このインクは、従来その色から「ライトブルー」とよばれていたが、当時販売されていた「ジェットブルー」という商品名のインクであることがわかった。
そこで下山鑑定人は、ブルーブラックとジェットブルーのインクの違いをもとに実証的に荏原鑑定を精査・検証した結果、石川さん宅から発見された万年筆には、ジェットブルーインクは微量も混じっておらずブルーブラックインクのみであったことが明らかになった。これはどういうことを意味するのか。発見万年筆は被害者のものではないこと、つまり誰かがねつ造したものだということを示すものだ。それだけではない、被害者を殺害した後、万年筆を奪って自宅にもち帰り、お勝手の入口に置いていたという狭山事件の根幹となる石川さんの自白そのものを崩す決定的な事実を明らかにするものだ。
そもそも証拠の万年筆発見の経過には、大きな疑問がもたれてきた。石川さんが逮捕された5月23日、再逮捕の翌日の6月18日とそれぞれ10数人の刑事が2時間以上かけておこなった家宅捜索では万年筆は発見されなかった。その万年筆が、3回目の捜索では簡単に発見された。発見場所のお勝手入口のカモイは高さ175.9センチ、奥行き8.5センチしかなく、ベテラン刑事らが家宅捜索で見落とすとは考えられない。万年筆発見のもととなった石川さんの書いた略図にも改ざんの疑いが明らかになっている。
また、石川さんの家から発見された万年筆が被害者のものであることを客観的に裏づける証拠もまったく存在しない。有罪判決は、被害者の兄の「書き具合が似ている」というあいまいな証言などをあげているだけである。被害者の万年筆に級友のインクや狭山郵便局のインクを被害者が補充したということも誰かが見ていたわけでもない、たんなる推測にすぎない。このように万年筆発見は疑問だらけだったが、そのうえに今回の「下山鑑定」が新証拠として提出されたのだ。
11月2日の3者協議で、弁護団は「下山鑑定」の重要性をあらためて説明した。これにたいして、検察官は、「下山鑑定について反論する方向で検討している」と回答するにとどまった。検察側がどのような反論をおこなってくるのかは予想できないが、「下山鑑定」の大きな特徴は、当時の科警研の検査結果という動かせない事実から証拠万年筆に被害者のインクの痕跡がないことを明らかにしている点にある。つまり警察の質料そのものが新証拠の根拠になっているということだ。検察がこれにどう反論するのか。弁護団は、検察官の反論が出されれば、再反論をするとともに「下山鑑定」の意義を、さらに裁判所に主張していくことにしている。
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「下山鑑定」は、有罪判決を突き崩す決定的な新証拠だ。「下山鑑定」による万年筆のでっち上げの暴露で狭山再審はいよいよ大詰めをむかえた。東京高裁は鑑定人の尋問などの事実調べをおこない、狭山事件の再審を開始せよ。全国各地で「下山鑑定」の情宣活動を大大的にくり広げ、石川無罪、再審開始の声をあげよう。狭山パンフや取調べ再現DVDを活用し、「下山鑑定」や取調べテープについて学習・教宣を深め、事実調べ・再審開始と証拠開示をかちとろう。
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