「解放新聞」(2017.04.17-2807)
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来年度から施行される「保育所保育指針」が3月31日に公示された。「保育所保育指針」は保育所での保育内容の基本原則として1965年8月に策定されて以降、1990年、2000年、2008年に改定され、今回4度目の改定となる。現行の保育指針施行後、2015年4月から子ども・子育て支援新制度が施行されたこと、0〜2歳児を中心に保育所利用児童数が大きく増加していること、子育て世帯での子育ての負担や不安、孤立感が高まるなかで児童虐待件数が増加していることなど、保育をめぐる状況が大きく変化したことに対応するための改定とされている。改定の方向性としては、①乳児・1歳以上3歳未満児の保育に関する記載の充実、②保育所保育における幼児教育の積極的位置づけ、③子どもの育ちをめぐる環境の変化をふまえた健康および安全の記載の見直し、④保護者・家庭および地域と連携した子育て支援の必要性、⑤職員の資質・専門性の向上としている。
また、「保育所保育指針」だけでなく、「幼稚園教育要領」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」も改定される。公示された指針、要領は、それぞれの3歳以上児の保育の「ねらいと内容」の記述が同一の文章となっている。これまで、3歳以上児の保育内容については「保育所保育指針」と「幼稚園教育要領」の間で調整をおこなっていたが、同一の文章になることはなかった。
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今回の改定では、現行の保育指針にはない、「国旗・国歌に親しむ」ことが明記された。
「第2章 保育の内容」の「3.3歳以上児の保育に関するねらい及び内容」の「(2)ねらい及び内容」項目で「ウ.環境」に関する「(イ)内容」に「⑫保育所内外の行事において国旗に親しむ」、「(ウ)内容の取扱い」で「④文化や伝統に親しむ際には、正月や節句など我が国の伝統的な行事、国歌、唱歌、わらべうたや我が国の伝統的な遊びに親しんだり、異なる文化に触れる活動に親しんだりすることを通じて、社会とのつながりの意識や国際理解の意識の芽生えなどが養われるようにすること」としている。厚生労働省は、「国旗掲揚や国歌斉唱を強制するものではない」としているが、この間の教育現場での学習指導要領にもとづいた「日の丸・君が代」の強制・義務化と同様の事態になることが懸念される。
「国旗に親しむ」という記述は、現行の幼稚園教育要領にすでに記載されているが、それを偏狭な愛国心教育や人種差別などと結びつけた幼児教育実践の動きもある。国旗・国歌についてはさまざまな考え方があり、押しつけるものではない。「国」が何であるかもわからない幼児の段階からすり込もうとする、安倍政権のめざす「愛国心」を育成する教育の制度づくりの強行は、自分で考え自分で判断するといった子どもの主体性を育てる点でも大きな問題である。本来、愛国心などというものは育成するものでも、強制するものでもなく、さまざまなことを知り、経験するなかで自然に芽生えていくものである。
さらに、保育所に多文化・多国籍の子どもが入所する事例が増えている現状からも、さまざまなルーツを尊重し、多様性のある保育が求められる今日、現行の保育指針の「外国人など、自分とは異なる文化をもった人に親しみを持つ」という記述が削除され、「国旗・国歌に親しむ」と記述されたことは、多民族・多文化共生の理念に反する。しかも、保育指針改定の意見をとりまとめた有識者委員会の複数の委員からは「国旗と国歌に関する議論は一切なかった」との話もでている。厚生労働省は「幼稚園や認定こども園との幼児教育の整合性は、委員会で認識が共有されている」と説明するが、議論もなく整合性をはかるためだけに明記し、「日の丸・君が代」の強制による学校現場の混乱を保育所にまで拡げる今回の改定は許されない。
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私たちは、すべての子どもの豊かな育ちを保障する解放保育・人権保育運動をすすめていくなかで、2月14日に改定案が公表されて以降、国旗・国歌の記述の削除を求め、厚生労働省のおこなう「保育所保育指針の全部を改正する件」に関する意見募集への意見送付にとりくんだ。意見公募のなかには「伝統や文化に触れる」観点での賛成意見もあったが、国旗・国歌の記載について「削除してほしい」「押しつけにならないようにしてほしい」との意見が多く寄せられた。意見募集終了後は、全国人権保育連絡会とともに、「保育所保育指針への国旗・国歌の強制につながる記述の削除を求める署名」活動もおこなっている。
「保育所保育指針」は施行までの1年間の周知期間に入っているが、継続して「国旗・国歌」の記述の削除を求めていかなければならない。関係団体とも連携を強化し、「教育勅語」を教材化することを否定しない安倍政権による保育現場への「日の丸・君が代」の強制・義務化につながる保育所保育指針の記述削除に向け、署名活動に全力でとりくもう。
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