「解放新聞」(2017.06.12-2814)
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2017年5月10日、狭山事件第3次再審請求の第32回3者協議がひらかれた。検察官は前回の3者協議で下山鑑定、川窪鑑定について反論、反証の方向で検討するとしていたが、下山鑑定については反証を準備していることを明らかにした。検察官は、ほかの新証拠についても反論するとしている。
それにたいして弁護団は、検察官から反論や反証が出されれば、再反論し、裁判所に新証拠の意義と再審開始をさらに訴えるとしている。次回の第33回3者協議は7月下旬におこなわれる。徹底した証拠開示と事実調べを求めて、さらに世論を大きくしていこう。狭山パンフや取調べ再現DVDなどを活用し、あいついで弁護団が提出した新証拠の意義、新証拠によって明らかになった石川さんの無実を学習するとともに、より多くの人に知らせよう。
狭山事件にみられるような自白偏重の捜査、ウソの自白によるえん罪をつくり出す取調べをさらに拡大する「共謀罪法案」に断固反対しよう。
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狭山弁護団は、この間、あいついで重要な新証拠を提出している。
昨年8月に提出された下山鑑定は、自白通りに石川さんの家から発見されたとして有罪証拠となった万年筆が被害者のものではないことを科学的に明らかにした。発見万年筆のインクを事件直後に調べた科学警察研究所の鑑定結果をもとに、被害者が使っていたインクがまったく入っておらず、それとは別のインクだけが入っていたことを指摘している。当時の科警研と同じ方法による実証実験もおこない、被害者のインク(ジェットブルーインク)と異なるインク(ブルーブラックインク)の混合ではなく、異なるインクのみしか入っていないことを明らかにしたものだ。異なるインクが入っていることを補充でごまかしてきたこれまでの裁判所の判断を根底から覆すものだ。
万年筆については、さらに、今年1月に川窪第3鑑定が提出された。昨年、発見万年筆で当時書かれた数字が証拠開示された。川窪第3鑑定は、この記載数字から筆記した万年筆のペン先を鑑定したもので、発見万年筆は細字のペン先(ペンポイント)、脅迫状の訂正文字は中字のペン先であることを専門家の立場から明らかにしている。被害者の万年筆で脅迫状の訂正をし、それを自宅に持ち帰ってお勝手のカモイに置いていたものが自白によって発見された、という寺尾判決の認定の誤りは明らかだ。
下山鑑定、川窪鑑定によって、有罪証拠の万年筆は事件とまったく関係ない偽物といわざるをえない。これは、殺害後に万年筆を奪って持ち帰ったという石川さんの自白はウソの自白であり、犯行現場で被害者の万年筆で脅迫状を訂正したと認定した有罪判決が誤りであることを明らかにしている。さらに、2度の家宅捜索のあとに発見された経過のおかしさや自白の不自然さとあわせて考えれば、警察による証拠ねつ造の疑いを示している。
弁護団はさらに3月に流王報告書を提出した。流王報告書は、土地家屋調査士という専門家が当時の地形も調べて、証拠開示された航空写真を分析して、被害者の鞄を捨てたという石川さんの自白と実際の鞄の発見場所が大きく食い違っていることを明らかにした。自白通り鞄が発見されたという寺尾判決は誤りであることを示している。
寺尾判決は、鞄、万年筆、時計の3物証を、自白にもとづいて被害者の所持品が発見されたとして有罪の根拠としている。第3次再審で、万年筆については、下山鑑定、川窪鑑定によって被害者のものではなく、脅迫状訂正に使われた万年筆でもないことが明らかになり、さらに今回、鞄についても流王報告書で、自白通り発見された「秘密の暴露」とはいえないことが明らかになった。腕時計については、バンド穴の使用状況から被害者が使用していたものでないことが専門家の報告書で明らかにされており、寺尾判決が有罪の根拠とした3物証がすべて崩れたといえる。
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狭山事件の確定判決である2審・東京高裁の寺尾判決は、脅迫状と石川さんの筆跡の一致(石川さんが脅迫状を書いた)を有罪証拠の主軸とし、万年筆、鞄、腕時計という被害者の所持品が自白通り発見された「秘密の暴露」があること、自白は客観的事実と矛盾しておらず、自白は真実であることを有罪の根拠としている。この有罪判決の認定が証拠開示と新証拠によって完全に崩れている。
証拠開示された逮捕当日の上申書などを分析した専門家の筆跡鑑定が、脅迫状は石川さんが書いたものでないと指摘している。とくに開示された取調べ録音テープを分析した森鑑定、魚住第3鑑定が提出され、当時の石川さんが非識字者で脅迫状を書けなかったことを筆記場面の録音という客観的記録から明らかにしていることは重要だ。「当時の石川さんはある程度国語能力があった」「筆跡の違いは書くときの環境によるもの」などとごまかしてきたこれまでの裁判所の判断を根底からつき崩している。
万年筆をはじめとする3物証がとうてい自白通り発見された「秘密の暴露」といえないことが新証拠によって明らかになっている。
石川さんの自白はつくられた虚偽自白であることが開示された取調べ録音テープで明らかになっている。
有罪判決の誤りは新証拠によって明らかだ。「鑑定人尋問をおこない、狭山事件の再審を開始せよ」の世論を大きくしよう。
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証拠開示を求める闘いも続いている。第3次再審請求では、これまで187点の証拠が開示され、そのなかから無実の新証拠がいくつも発見された。下山鑑定や森鑑定などこの間の新鑑定はすべて開示された証拠資料をもとにしている。無辜の救済という再審において証拠開示は必要不可欠である。
この間弁護団は、被害者が持っていたという「手帳・財布」「身分証明書」に関する証拠の開示、脅迫状の宛て名「少時」に関する証拠の開示、石川さんが自白をはじめる前後の心身状態についての捜査書類やカルテの証拠開示などを求めている。しかし、検察官は、この間の3者協議で、弁護団の要求する証拠開示は「必要性」「関連性」がないとして応じていない。捜査で集められた証拠資料は、検察官の独占物ではないはずだ。一方当事者の検察官が開示の必要性を判断し、弁護団には、手持ち証拠に何があるのかさえ知らされない(証拠のリストさえ見せない)という実態はあまりに不公平・不公正である。昨年の刑訴法改正では再審における証拠開示の議論があり、今後検討することも附帯決議として国会で確認されている。再審における証拠開示を保障する立法を求めていくことも重要だ。えん罪をなくし司法民主化を求める運動と結びつけて狭山闘争を闘おう。
石川さんがえん罪を訴えて54年、再審を求めて40年にもなる(第1次再審請求は1977年8月)。狭山事件では、この40年間の再審請求で一度も事実調べがおこなわれていないのだ。足利事件では警察のDNA鑑定のやり直しがされ、布川事件や袴田事件の再審請求では証拠開示がすすみ、鑑定人尋問がおこなわれ、再審が開始された。狭山事件でも、証拠開示と事実調べをおこなうよう求めていこう。全国各地で、取調べDVDや狭山パンフ、パネルを活用し、新証拠の学習・教宣をすすめよう。
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