「解放新聞」(2017.07.31-2821)
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2017年7月7日、核兵器を非合法化する核兵器禁止条約が、国連本部でひらかれた条約制定交渉会合で採択された。国連加盟193か国中124か国が投票に参加し、うち122か国が賛成、オランダ1か国が反対に回り、シンガポールは棄権した。
日本原水爆被害者団体協議会は、昨年4月から、核兵器禁止条約制定と核兵器廃絶を求める国際署名運動を展開し、条約の交渉会議に合わせて、国内外から集まった約300万筆の署名を提出した。広島、長崎への原爆投下から間もなく72年、被爆者の訴え、願いが市民やNGOを動かし、ついに多くの国を巻き込み、核兵器禁止への大きな一歩となった。
条約の内容は、核兵器の使用や開発、実験、製造、保有だけでなく、使用をちらつかせる脅しも禁じた画期的な国際条約文書である。
しかし、課題も山積している。米英仏露中の核保有5か国と、インドや朝鮮などの実質的な核保有国、米国の「核の傘」に依存する日本や韓国、ドイツなどは、この交渉に参加していない。原爆投下による世界で唯一の被爆国である日本は、昨年10月、核兵器禁止条約に向けた交渉を2017年に開始するよう求める決議案の採択時には、棄権ではなく反対に回った。
広島、長崎の被爆者は戦後、体験をとおして被害の実相と核兵器の非人道性を訴え続け、核廃絶を求めてきた。今後、各国の署名手続きがはじまり、批准国数が50か国に達して90日後、条約は発効する。いずれにせよ、核なき世界の実現に向けて、新たなスタートが切られた。日本もふくめ、核保有国に条約批准の働きかけを強め、各国に「核と人類は共存できない」との世論を喚起し、核兵器廃絶運動を強化しなければならない。
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東日本大震災・福島第1原発事故から6年が経過した。原発の廃炉作業の目処も立たず、いまだ8万人近くの人びとが避難生活を余儀なくされ、補償や健康、地域社会の復興など、さまざまな課題が山積している。
今村復興大臣(当時)は、4月4日の記者会見で記者から、自主避難者が無償住宅提供を打ち切られ、困窮していることに関して国の対応を問われ、「自主避難者が福島に帰れないのは本人の責任である。基本は自己責任。裁判でも何でも、やれば良いではないか」と発言した。さらに、同月25日、自身が所属する派閥のパーティーでの、「東日本大震災の復興は着着と進んでおります。(中略)まだ東北で、あっちの方だったから良かったんですが、これが、もっと首都圏に近かったりすると、莫大な、甚大な被害があったというふうに思っております」という2度目の失言により、辞任した。
また、福島第1原発事故で横浜市に自主避難した児童(当時)が「賠償金あるだろ」といわれ、ゲームセンターなどで総額150万円支払わされる、といういじめ問題が発生した。しかし、子どもを守るべき市教育長が市議会で、これを「いじめと認定できない」とした。被害生徒による抗議の手紙、全国からの非難の声に、ようやく教育長はいじめと認定し、謝罪した。
こうした被災者への人権侵害が続くなか、安倍政権は、年間被曝量20㍉シーベルトを切ったとする被災地への住民帰還を強制し、事故をなかったことにしようとしている。また、新規制基準を満たすための原発の補強工事に多額の費用を投下し、事故後に停止を余儀なくされた原発の再稼働をすすめている。いまだ事故の収束の見通しすら立たずに長期にわたる避難生活を強いられ、生活や就労、健康、住民差別などの問題をかかえている被災住民に寄り添うとりくみが求められている。
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2011年3月11日の東日本大震災と福島第1原発事故以降、全原発が停止しても電力不足はおこらず、企業活動への影響もほとんどみられなかった。
しかし、2013年9月の大飯(おおい)原発運転停止から約2年間続いた「原発ゼロ」は、2015年8月川内(せんだい)原発1号機の再稼働で終了した。この間、伊方(いかた)原発3号機、高浜原発3、4号機が再稼働しており、安倍政権は、脱原発の民意を無視し、「原発=安全」「再稼働ありき」の姿勢を貫いている。安倍政権は、2030年代の原発ゼロをめざすとした民主党(当時)政権の政策を否定し、原発依存度を20~22%に設定した。
2014年のエネルギー計画の基本には、使用済み核燃料の再処理によって得られるプルトニウムを高速増殖炉で利用する「核燃料サイクル計画」を位置づけている。日本は現在、国内外に48トンものプルトニウムを保有しており、長崎型原子爆弾に換算すると約6000発に相当する。
しかし、現実には再処理工場の稼働は目処が立たず、高速増殖炉「もんじゅ」は1995年のナトリウム漏れの事故以降、事故や点検漏れなどの不祥事があいついだ。先が見通せないなか、年間200億円ともいわれる多額の維持費用に私たちの税金が浪費されてきた「もんじゅ」の廃炉が、昨年末ついに決定した。
重大事故の再発を前提として、国民の人格権や生存権を侵害する「憲法違反の原発再稼働」にたいし、あらゆる市民・団体と連携し、再稼働阻止に向けた運動を全国で展開しよう。
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6月15日、参議院本会議で自民、公明、維新が、「共謀罪」法案(「組織的犯罪処罰法」改正案)の審議を打ち切って採決を強行し、可決された。本会議に先立ち、法務委員会での「中間報告」という異例の手法を駆使してまで強引に法案の成立をはかった。
こうした政府・与党による強行採決は、議会制民主主義をふみにじる強権的な国会運営であり、断じて許してはならない。
この間、政府は、2013年の「秘密保護法」、2015年の集団的自衛権行使を盛り込んだ憲法違反の「戦争法」の強行成立、さらに、2016年には「盗聴法・刑事訴訟法」の改悪を通じ、「戦争できる」国づくりをすすめてきた。そして、今回の「共謀罪」法案は、1925年に制定された「治安維持法」と同様の内容をふくんでおり、「戦争できる」国づくりに向けて、社会の監視を強め、これらに反対する発言や活動を委縮させ弾圧するものだ。
この間、私たちは、「戦争をさせない1000人委員会」や、「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」に結集し、さまざまなとりくみを展開してきた。これからも平和と人権、そして民主主義を守り、安倍政権を退陣に追い込む闘いを強化しなければならない。
こうした状況のもと、8月4~6日の被爆72周年原水爆禁止世界大会・広島大会、8月7=cd=a1229日の被爆72周年原水爆禁止世界大会・長崎大会が開催され、8月15日には被爆と敗戦から72年を迎える。
私たちは、「戦争をさせない1000人委員会」や「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」に積極的に参加し、原発再稼働を許さず、脱原発とすべての核兵器廃絶にとりくみ、核と戦争のない平和な21世紀を実現しなければならない。そして、すべての市民と連帯し、「戦争法」廃止、憲法改悪阻止に向け、全力でとりくもう。
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