「解放新聞」(2017.08.07-2822)
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「部落差別の解消の推進に関する法律」は、「部落差別が存在するとともに、情報化の進展に伴って部落差別に関する状況の変化が生じている」との認識を示し、部落差別の解消に向けて国や地方自治体が施策を講じる責務を有することを明らかにしており、教育および啓発について、「地域の実情に応じ、部落差別を解消するため、必要な教育及び啓発を行う」と規定している。
文部科学省は、「人権教育及び人権啓発の推進に関する法律」の施行(2000年)、「人権教育・啓発に関する基本計画」の策定(2002年)をふまえて、「人権教育の指導方法等に関する調査研究会議」を設置し、3次にわたり「人権教育の指導方法等の在り方について(とりまとめ)」(第1次2004年、第2次2006年、第3次2008年)を示し、人権教育の全国的な普及をはかってきているが、これまでのとりくみ状況調査の結果では、地域格差や校種間格差、学習内容や学習分野に偏りがあることなど課題が明らかになっている。
「地対財特法」終了以降、部落問題にかかわっては、学校での部落問題学習、教職員養成課程をはじめ大学での履修、教職員の研修など、全国的にとりくみが低調になっているのが現実である。
昨年12月、文部科学省は、人権教育の普及とさまざまな人権課題に対応した人権教育のあり方などの調査研究をひき続いておこなうために、「学校教育における人権教育調査研究協力者会議」を設置した。
文部科学省にたいして、「部落差別解消推進法」、「障害者差別解消法」、「ヘイトスピーチ解消法」など個別人権課題の解決をめざす法律と立法事実をふまえ、部落差別など具体的な個別人権課題の歴史と現実にそくした個別的視点からのアプローチにもとづく具体的な教育実践について調査研究をおこない、全国的な普及をはかることを求めていかなければならない。地方自治体にたいしては、人権教育・啓発に関する基本方針や指針の見直しを求めよう。
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また、人権教育の課題として、重要かつ喫緊の課題が「部落差別解消推進法」が指摘する「情報化の進展」にともなう、「状況の変化」への対応である。
今日、スマートフォンの急速な普及により、子どもや若者の多くが、インターネットやSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を情報を得るための手段として活用している。ネット上には、史実や現実を無視した虚偽情報や差別や偏見を煽る情報が大量に発信されており、部落解放同盟も、鳥取ループ・示現舎を相手にした、「全国部落調査」復刻版出版事件裁判闘争のなかで、ウェブサイトからの削除を求めてとりくみをすすめている。
日常的にこうした差別情報に接する子どもや若者が差別意識を刷り込まれ、在日コリアンにたいするヘイトスピーチやヘイトデモ、公人による差別発言、生活保護受給者や障害者にたいする誹謗・中傷など、社会的弱者やマイノリティにたいする差別と偏見、憎悪と排斥に満ちた反社会的言動を支持し、擁護するなど見過ごせない状況も表出している。
人権教育で差別や人権侵害にたいする科学的認識を育むと同時に、ネットなどの情報を鵜呑みにせず主体的・批判的に情報を読み解く力を培うとりくみをすすめ、差別煽動に対抗できる人権教育の内容と手法を構築していくことが重要な課題である。
さらには、「進路保障は同和教育の総和」といわれてきたように、人権教育の推進と充実を求めるとりくみと同時に、学習環境など子どもたちの置かれている状況を改善するために、さまざまな教育支援制度のあり方に関して、「人権としての教育」を基盤とする条件整備へと抜本的改革を求めていかなければならない。
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「聖域なき構造改革」をスローガンに掲げて強引におしすすめられた小泉構造改革と称される経済政策と社会保障の切り捨ての結果、貧困と格差が拡大再生産され、しわ寄せの多くが社会的弱者を直撃した。
当然ながら、社会の差別構造は、子どもたちの生活と成長の場である家庭の経済格差としてあらわれ、いま、「子どもの6人に1人が貧困」という状況が生み出されている。低学力や虐め、問題行動など、今日、子どもの問題とされる事象の多くは、過分に政治の責任によるもので社会問題として捉えられるべき課題であり、政治の責任で解決がはかられるべき課題である。
しかしながら、「自己責任」論が蔓延する安倍政権は、社会問題であり政治課題である事柄を、個人の努力不足や家庭の責任に転嫁し、「教育再生」という言葉を金科玉条のようにくり返し唱え、「一億総活躍社会」の実現に向けて、「選別」、「排除」、「分断」など能力至上主義、差別排外主義を基調とした教育内容への見直しや教育制度の多様化など、教育体制の再編をすすめている。
民主党政権時代に、国際人権A規約の具体化措置として導入された「高校無償化」は、政権交代により支援金への一元化や所得制限が導入されるなど、「すべての意志ある高校生等」の学びを支援する権利保障という所期の理念から大きくかけ離れ、意図的に朝鮮学校を排除する差別政策と化している。
いま、日本社会は、すべての子どもたちに公平・平等に保障されるべき公的な修学支援制度を、社会的差別の発動装置として機能させ、人権救済機関がいまだ存在しない日本で、本来、「人権の砦」としての司法が、その差別政策を追認するという愚行をおこない、世界に恥をさらしている。
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また、奨学金制度の拡充といいながらも、「教育ローン」と揶揄される返済が必要な貸与制奨学金の拡充を優先してきた結果、莫大な借金を背負って社会に出る若者たちが続出している。ようやくにして来年度より、低所得者層を対象に、「進学の後押し」とするために給付制奨学金が本格的に導入されるが、不十分な予算措置であるがために、後押しとするには低額であり、利用できるのは本来給付制奨学金を必要とする学生のうち3分の1でしかなく、なおかつ、「高い学習成績」など厳しいハードルが課されている。低所得者層の間に、激烈な競争と深刻な分断をもたらすことは想像に難くない。
さらに、来年度より、「特別の教科 道徳」が「教科」として完全実施される。そもそも、道徳の教科化には、現行憲法に反する復古主義的な内容が子どもたちに強制されるとして批判があり、学校現場からも「教科」化による「評価」にはなじまないと、「教科」化に反対する意見が多く存在している。にもかかわらず、安倍政権は、1948年に日本国憲法や「教育基本法」に反するとして、衆・参両院で、それぞれ排除・失効が決議された「教育勅語」について、「憲法や教育基本法に反しないような形で教材として用いることまでは否定されることではない」との答弁書を閣議決定し、現行の憲法秩序を遵守し擁護する意思のないことを明白にした。
「人間」を「人材」、「財源」を「投資」といいかえ、教育の営みを経済成長戦略の手段としか考えない政治と対峙し、子どもたちの成長と学びを支える制度を、時の政権による庇護や恩恵的な対策ではなく、「人権としての教育」を基盤とする政策立案や制度改革など抜本的な見直しを求めながら、権利保障のための制度として、かちとっていかなければならない。
すべての子どもたちの存在を認め、成長と学びを支援する共生社会の実現に向けて、教育を基軸に、部落解放・人権政策確立に向けたとりくみをすすめていこう。
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