「解放新聞」(2017.08.28-2824)
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第33回3者協議が7月24日にひらかれ、東京高裁第4刑事部の植村稔・裁判長と担当裁判官、東京高等検察庁の担当検察官、弁護団からは、中山武敏・主任弁護人、中北龍太郎・事務局長、横田、青木、近藤、平岡、福島、山本、小島、河村、指宿、高橋の各弁護士が出席した。
この間、弁護団は、財布・手帳関係、脅迫状宛名の「少時」関係、犯行動機関係、自白の経過関係(自白する前後の石川一雄さんの健康状態を示す資料)の証拠開示を求めてきた。いずれも、提出された新証拠、とくに開示された取調べ録音テープによって明らかになった事実にもとづいて必要性を示して求めてきたものだ。
今回の3者協議で、裁判所は、犯行動機関係の証拠物4点については開示を勧告した。これらは、2015年に開示された領置票(東京高検にある証拠物の一覧表)で存在が明らかになった証拠物である。開示されれば、弁護団は精査することにしている。
動機などにかかわる証拠物4点の開示が勧告されたことは弁護団の粘り強いとりくみの成果であるが、そのほかの弁護団が求めた手帳や財布関係、自白直前の石川さんの健康状態に関する証拠の開示勧告はなされなかった。これらの捜査資料は取調べ録音テープで浮かびあがった自白の疑問をさらに深める証拠であり、開示が必要だ。今後も証拠開示の課題が残っていることを忘れてはならない。
再審請求で弁護側への証拠開示の保障は絶対に必要だ。再審請求では新証拠が必要となっているのだから、新証拠発見の可能性がある以上、検察官手持ち証拠を弁護側が利用できるように保障することは再審制度の理念からいっても当然だろう。そして、実際に免田事件や布川事件、東電社員殺害事件など、これまでの再審無罪の事例のどれをみても、証拠開示が真相解明の重要なカギとなっているという事実もある。昨年、通常裁判で証拠一覧表を弁護側へ交付する制度を導入する刑訴法改正がおこなわれたが、附則で再審での証拠開示制度を今後検討することが盛り込まれた。再審での証拠開示制度の立法化を幅広い運動で求めていこう。
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7月3日に検察官は下山鑑定にたいする反証の意見書を提出した。検察官の反証意見書は明らかに誤っており、下山鑑定の否定にはなっていない。弁護団はこの反証意見書について徹底的に反論するとしている。わたしたちはもう一度、下山鑑定が明らかにした新事実と意義を学習し、広く伝えていくことが重要だ。
下山鑑定は、事件当時、科学警察研究所のおこなった検査結果をもとに、発見万年筆(自白どおり石川さんの家から発見され、被害者のものとして有罪証拠とされた万年筆)に被害者の使っていたインクが入っていなかったと指摘している。実証実験をおこない、わずかでも混在しているインクが検出されることを実証実験で確認したうえで、科警研の検査では、発見万年筆のインクに被害者が常用していたインクの成分が検出されていないからだ。当時の警察の鑑定結果が、証拠の万年筆が被害者のものではないことを示しているというのだ。これは重大なことである。殺害後、被害者の万年筆を持ち帰り、カモイに置いていたという自白が虚偽であることを示すだけでなく、偽物の万年筆が石川さんの家から発見されること自体が捜査の不正、ねつ造の疑いを示しているからだ。
そもそも、当時字を書くことのなかった石川さんが万年筆を家に持ち帰ってカモイに置いていたという自白そのものが不自然であるし、十数人の刑事が2時間以上かけて捜索した後に、事件から2か月近くたって、お勝手入口のカモイから発見されたというのである。あまりに発見経過が不自然だ。そのうえ発見万年筆には、石川さんの指紋も被害者の指紋もない。
再審請求では、1回目の家宅捜索をおこなった元刑事が「カモイを調べたが何もなかった」と証言し、カモイ上の万年筆が見えないはずがないという科学的鑑定も出された。第3次再審請求では、証拠開示された取調べ録音テープなどから、万年筆発見のさいに石川さんが書いたという図面に改ざんがなされ、自白どおりお勝手入口のカモイから発見されたようにつくり出されたことも明らかになっている。
狭山事件の再審請求を審理する東京高裁第4刑事部は、鑑定人尋問をおこない、こうした万年筆にかかわる疑問を下山鑑定と総合的に検討し、再審を開始すべきである。
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第2次再審・特別抗告棄却決定(最高裁第1小法廷・2005年)は、万年筆発見場所は「視点の位置や明るさによっては見えにくい場所」「意識的に捜すのでなければ見落とすような場所」などとして、3回目の捜索で発見されたことを不自然ではないとした。実際にカモイの現場検証もおこなうことなくこのような認定が40年間もくり返され、再審請求が棄却されているのだ。
弁護団はこの間あいついで新証拠を提出している。証拠開示された取調べの録音という客観的事実をもとに、石川さんが当時非識字者であり、脅迫状を書けたはずはないことを明らかにした森鑑定、魚住鑑定も重要だ。有罪判決が証拠の主軸とした脅迫状を石川さんが書いていないことは明らかだ。
また、取調べ録音テープでは石川さんが犯行内容を何も知らず、脅迫状の当て字も死体の状況も説明できていないことが明らかになった。犯人ではないがゆえの「無知の暴露」や「非体験性」があらわれているのだ。石川さんの自白調書は客観的事実とも食い違い、ねつ造されたものであることが浜田鑑定や脇中鑑定など心理学者の鑑定によって明らかになっている。
次回の3者協議は10月中旬にひらかれる。9月には全国狭山活動者会議・住民の会交流会を開催し、弁護団の報告を受けるとともに当面のとりくみを確認する。また、10月31日には東京・日比谷野音で、狭山事件の再審を求める市民集会が実行委員会の主催で開催される。全国各地で狭山パンフや取調べDVD、パネルなどを活用し、下山鑑定をはじめ新証拠の学習会や多くの人に広げるための集会にとりくみ、石川さんの無実と鑑定人尋問などの事実調べを訴えていこう。
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