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初開催の地、鹿児島での第40回全国人権保育研究集会を成功させよう

「解放新聞」(2017.12.18-2839)

 先の衆議院総選挙では、各党とも公約に「待機児童解消」や「教育無償化」など子育て負担の軽減策をとりあげた。自民党が幼児教育無償化を公約の柱にしたこともあり選挙後、制度設計の議論が急速にすすめられている。衆議院解散時に急きょ打ち出された「幼児教育・保育の無償化」だが、「無償化より、保育士の待遇改善で待機児童解消を図るべきだ」との声があいつぐ。

 11月17日の安倍首相所信表明演説では、「人づくり革命」として「幼児教育の無償化を一気にすすめます。2020年度までに、3歳から5歳まで、すべての子どもたちの幼稚園や保育園の費用を無償化します。0歳から2歳児も、所得の低い世帯では無償化します。待機児童解消をめざす安倍内閣の決意は揺るぎません。本年6月に策定した「子育て安心プラン」を前倒しし、2020年度までに32万人分の受け皿整備をすすめます。(中略)子育て、介護など現役世代がかかえる大きな不安を解消し、わが国の社会保障制度を、お年寄りも若者も安心できる「全世代型」へと、大きく改革してまいります。女性が輝く社会、お年寄りも若者も、障害や難病のある方も、誰もが生きがいを感じられる「1億総活躍社会」をつくりあげます。再来年10月に引き上げが予定される消費税の使い道を見直し、子育て世代、子どもたちに大胆に投資していく。消費税による財源を、子育て世代への投資と社会保障の安定化とに、バランス良く充当することで、財政健全化も確実に実現してまいります」と明言した。

 安倍首相肝いりの年間2兆円の経済政策パッケージ(12月8日閣議決定)に幼児教育・保育の無償化策が盛り込まれた。認可の幼稚園、保育所、認定こども園の3〜5歳の全児童の費用無償化と、幼稚園は公定価格を上限に支給。0〜2歳は当面、住民税非課税世帯を対象に、障害児通園施設も無償化とし、19年4月から一部をスタート、20年4月から全面的に実施するとしている。認可外の保育施設の対象範囲や支給上限、預かり保育や延長保育の支援などの結論は先送りされた。待機児童の解消へ、20年度末までに32万人分の保育の受け皿の整備や、保育士の賃金は今年度の引き上げに加え、19年4月からさらに1%(月3千円相当)を引き上げ。また18年度までに約30万人分の放課後児童クラブを確保。社会保険の事業主拠出金を3千億円増額し、企業主導型保育事業と保育運営費にあてることを盛り込んだ。

 貧困と格差の深刻化を背景に子育て世帯に教育費負担が重くのしかかる今日、それらの負担軽減政策は重要だ。しかし無償化によって待機児童のいっそうの増加が懸念される。4月時点の待機児童数は2万6081人、隠れ待機児童数は、およそ6万9000人。厚労省は3月、待機児童の正確な実態把握のため待機児童の定義を見直し、育休を延長しても復職の意思がある場合は待機児童にふくめる新定義を来年度から全面的に適用する。新定義で来年度の待機児童数は大きく膨らむだろう。無料なら預けたいという保育ニーズが増え、待機児童問題が深刻化する可能性が大きい。そもそも20年度末まで3年先送りにした待機児童解消策が保育施設32万人分の整備目標で十分なのか、潜在的な需要を見誤っているのではないだろうか。

 待機児童対策として企業主導型保育事業による事業所内保育施設の入所制限の撤廃や認可保育所の基準引き下げも検討中だ。従業員の子ども以外の利用定員枠は、総定員の半数が上限。従業員の子どもが定員枠を使い切らず空きが出る施設もあり、市区町村に認可保育園利用を申し込み、保育の必要性が認められた子どもは枠をこえ受け入れられる方向で検討されている。事業所内保育施設は認可外の位置づけだが、一定基準を満たせば認可並みの国庫補助が受けられる。従業員には仕事と子育ての両立、企業には福利厚生の充実、人材確保と利点があるが、保育士の配置基準が認可保育所より緩いことや、設置に市区町村が関与しないといったことから安全性の確認が十分とはいえない。

 昨年3月、国は保育士配置や保育スペースの独自基準をもつ自治体に国基準までの引き下げを要請したが、ほとんどの自治体これを拒否。11月には政府の規制改革推進会議が「国を上回る基準を設けている自治体に待機児童が多い」と指摘、自治体関係者や保育所事業者が基準緩和を議論する協議会設置を答申した。手厚い独自基準をもつ市区町村が基準を下げやすくする仕組みを導入、都道府県ごとに協議会で国基準への統一を決め、対象自治体が一斉に引き下げる想定。5年前の税・社会保障一体改革では保育士の配置を手厚くし「保育の質」を高めるとしていたが、目先の待機児童減らしのために「保育の質」の低下が懸念される。

 来年4月から「国旗・国歌に親しむ」ことが明記された「保育所保育指針」「幼稚園教育要領」「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」が施行される。国は日の丸・君が代を強制するものではないとするが、これまでの教育現場での学習指導要領にもとづいた国旗・国歌の強制・義務化と同様の事態になることが懸念される。指針の改定、待機児童解消、保育・教育無償化など保育制度が転換期にあるなか、増加し続ける児童虐待や貧困問題など子どもをとりまく状況は厳しい。保育政策の動向を把握し、家庭や地域、保育・教育の現場、行政、企業が一体となり、子どもの状況や課題を共有しすべての子どもの豊かな育ちを保障する保育政策実現へとりくみをすすめなければならない。

 1月13、14日に第40回全国人権保育研究集会を鹿児島でひらく。初日のオープニングでは、宮内礼治・鹿児島県連書記次長が長胴太鼓の仮張り実演をおこなう。全体会では、社会福祉法人 白鳥会 児童養護施設「慈光園」の白鳥浄子・園長が「慈光園でくらすということ」を、奈良県人権保育研究会の大寺和男・会長が「「人権保育とは」〜慈光園の取り組みから学ぶこと〜」と題した特別講演を予定。2日目の8つの分科会では各テーマにそった実践報告、第9分科会「人権保育入門」では解放保育・人権保育運動の歴史に学び、その継承・発展をめざし学習講演にとりくむ。

 初開催となる鹿児島の地で、すべての子どもの生きる権利とその成長を保障するとりくみとしてすすめてきた解放保育・人権保育運動の原点を確認するとともに、全国各地の実践に学び、議論と交流を深め、解放保育・人権保育運動の活性化をめざす方向を明確にしよう。さらに、家庭、地域、保育所や幼稚園・こども園、小・中学校との連携をすすめ、すべての子どもの育ちを豊かに支えていく子育て運動の輪を拡げ、解放保育・人権保育運動を大きく前進させよう。


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