「解放新聞」(2018.01.29 -2844)
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弁護団は1月15日に、コンピュータによる筆跡鑑定などの新証拠5点を提出した。第3次再審請求で提出された新証拠は197点になった。提出された新証拠は、福江潔也・東海大学教授によるコンピュータによる筆跡鑑定2通、魚住和晃・神戸大学名誉教授による筆跡についての意見書、石川さんが5月21日に上申書を書いたさいに立ち会った警察官の報告書3通(昨年証拠開示されたものをふくむ)である。
福江鑑定は、脅迫状と石川さんの書いた上申書(1963年5月21日付けと同年5月23日付けのもの)および手紙(1963年9月と10月のもの)を検査対象として、コンピュータによる筆者の異同識別をおこなったものである。その結果は、99・9%の識別精度で、脅迫状と上申書および手紙は別人が書いたものであるというものだ。
福江報告書の判定方法は、長年の研究にもとづく最新の科学的なもので、コンピュータを使って文字を読み取り、字形の情報を数値化し、文字を重ね合わせたときのズレ量を計測するもの。筆跡の相違度が客観的に数値化され比較できる。具体的には脅迫状と上申書・手紙にくり返し出てくる「い、た、て、と」の4文字を対象として、すべての筆跡の組み合わせについて相違度(ズレ量)を計測したところ、個人内の書きムラでは説明できない大きな相違度があることがわかった。研究室の筆跡データベースにある多数の筆跡サンプルをもとに同一人か別人かを判定する識別境界のズレ量(相違度)がわかっているが、脅迫状と石川さんの文書の筆跡の相違度はそれを大きく上回るものであり、99・9%の識別精度で別人の書いたものと判定するのが合理的と結論づけている。福江報告書は、警察の従来の筆跡鑑定と違って、コンピュータによって計測、判定されており、ひじょうに客観的だ。福江報告書によって、有罪判決の決め手の証拠となった脅迫状は石川さんが書いたものではないことが最新の科学的方法によって明らかになったといえる。
魚住意見書は、石川さん逮捕の根拠のひとつとされた警察の筆跡鑑定の中間回答が誤っているうえに、ひじょうに恣意的であると指摘したもの。警察は5月21日に石川さんの家で上申書を書かせたうえ、県警鑑識課で鑑定させ、わずか1日で同一人の筆跡という中間回答が出され、それを根拠に逮捕状を請求、5月23日に逮捕している。上申書を書かせた警察官の報告書には「筆跡が酷似している」などと犯人と決めつけた内容が記載されている。明らかに石川さんを狙い打ちし、筆跡が同一という筆跡鑑定を急いでつくらせて強引に逮捕し、自白をせまるという予断に満ちた不当な捜査だったことが明らかだ。狭山事件の捜査に問題はなかったとした有罪判決の誤りが明らかになったといえる。
弁護団はすでに、取調べ録音テープの分析もふまえて、当時の石川さんが非識字者で脅迫状を書けなかったことを明らかにした森鑑定、魚住鑑定も提出している。第35回三者協議後の記者会見で石川さんは「学校に行けず、当時は読み書きができなかった私が脅迫状を書けるはずがない。その通りの鑑定が出た。一日も早く再審を認めてほしい」と訴えた。新証拠の学習をすすめ、より多くの人に石川さんの無実をひろげよう。
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2018年1月22日、東京高裁第4刑事部の後藤眞理子・裁判長と担当裁判官、東京高等検察庁の担当検察官、弁護団からは、中山主任弁護人、中北事務局長をはじめ12人の弁護人が出席し、狭山事件の第35回三者協議がひらかれた。昨年12月22日付けで東京高等裁判所第4刑事部の裁判長が交代し、新たに就任した後藤裁判長のもとではじめての三者協議だった。
弁護団は、1月15日に提出した福江報告書、魚住意見書などの新証拠について説明。福江報告書については、コンピュータを使って客観的に計測、判定された科学的な鑑定で、99・9%の識別精度で脅迫状と石川さん自筆の上申書、手紙とは別人の書いたものであることが明らかになったと説明。中山主任弁護人は、第3次再審請求では、多くの証拠が開示され、それらをもとに新証拠を提出しており、筆跡などの鑑定を裁判所にじっくり検討していただきたいと強調した。
次回の三者協議は5月中旬にひらかれる。後藤裁判長が鑑定人尋問などの事実調べをおこなうよう、世論を大きくしていかねばならない。5月には狭山事件は事件発生から55年を迎え、5月23日には、石川さん不当逮捕55か年を糾弾し、再審開始を求める市民集会が予定されている。3月には全国狭山活動者会議・住民の会交流会をひらき、弁護団の報告を受けるとともに、当面のとりくみを協議する。
狭山パンフや取調べDVD、狭山事件のパネルなどを活用し、下山鑑定、コンピュータによる筆跡鑑定、識字能力鑑定、取調べ録音テープを分析した心理学鑑定など、弁護団が提出した新証拠について、学習・教宣を強化し、狭山事件55年をアピールするとりくみを全国各地ですすめよう。
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第3次再審請求では、これまでに191点の証拠開示がなされているが、この間の三者協議で、弁護団は自白や万年筆などの疑問にかかわるとして証拠開示を求めたのにたいして検察官は「必要性がない」「関連性がない」として開示に応じていない。また、裁判所の勧告もあり、東京高検の証拠物一覧表が開示されたものの、埼玉県警などで作成された証拠物リストの開示には応じていない。今後も証拠開示の課題が残る。
再審請求で弁護側への証拠開示の保障は絶対に必要だ。再審請求では新証拠が必要となっているのだから、新証拠発見の可能性がある以上、検察官手持ち証拠を弁護側が利用できるように保障することは再審制度の理念からいっても当然だろう。そして、実際に、免田事件や布川事件、東電社員殺害事件など、これまでの再審無罪の事例のどれをみても、証拠開示が真相解明の重要なカギとなっているという事実もある。昨年、通常裁判で証拠一覧表を弁護側に交付する制度を導入する刑訴法改正がなされたが、改正刑訴法の附則で再審での証拠開示制度を今後検討することが盛り込まれた。再審での証拠開示制度の立法化を幅広い運動で求めていくことが重要だ。また、再審開始決定が出された袴田事件、大崎事件、松橋事件などで検察官が抗告し、再審裁判がはじまらないまま長引いている。いずれの再審請求でも請求人が高齢であることを考えても、検察官の抗告は許されない。再審開始にたいする検察官の抗告は諸外国でも認められておらず、再審での証拠開示の立法化、再審開始にたいする検察官の抗告の禁止など、再審法(刑事訴訟法)の改正が急務といわねばならない。通常国会で再審法改正の運動をすすめよう。
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