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狭山再審開始とえん罪をなくす司法改革へ
映画「獄友」上映運動にとりくもう

「解放新聞」(2018.03.26 -2852)

  去る3月12日、福岡高裁宮崎支部(根本渉・裁判長)はいわゆる大崎事件について、鹿児島地裁の再審開始決定にたいする検察官の即時抗告を棄却し再審を開始する決定をおこなった。再審開始決定は、弁護側が提出した新証拠によって、そもそも原口さんらによる殺人事件ではなく失血性ショック死による死亡という事故であったとして再審を認めている。明白なえん罪、デッチ上げだったのだ。決定後、弁護団や支援者、さらには日弁連や刑事法学者、えん罪当事者らがあいついで抗告しないよう求め、検察庁に強く要請したが、福岡高検、最高検は、再審開始を取り消すよう求めて最高裁に特別抗告した。

 えん罪を39年にわたって叫び続けている再審請求人の原口アヤ子さんは90歳である。2度にわたって再審開始決定が出され、今回は事件ではなく事故だったとして3度目の再審開始決定が高裁で出されたのである。検察官による抗告は理念上も人道上も断じて許されない暴挙というほかなく、強く抗議したい。

 2009年に足利事件で東京高裁がDNA再鑑定を実施、菅家利和さんは無実が明らかになり釈放され、再審が開始された。隠されていた取調べの録音テープも開示され、検察官の違法な取調べも明らかになった。そのとき、最高検察庁は「検察の理念」を発表し、「(検察官は)あたかも常に有罪そのものを目的とし、より重い処分の実現自体を成果とみなすかのごとき姿勢をとってはならない」「被疑者・被告人等の主張に耳を傾け(る)」と書いていた。これは検察批判をかわすだけのウソ、方便だったといわざるを得ない。

 袴田事件、松橋事件、湖東病院事件などでも裁判所の再審開始決定にたいして検察官が抗告し、再審裁判が始まらないまま長引いている。多くの場合、請求人が高齢であることを考えても、検察官の抗告は人道上も許されない。再審開始にたいする検察官の抗告は諸外国でも認められておらず、再審における証拠開示の保障とともに、再審開始決定にたいする検察官の抗告を禁止する再審法(刑事訴訟法の一部)の改正が急務といわねばならない。国会議員に狭山事件の真実、えん罪がいかに人権侵害であるかを訴え、通常国会で再審法改正の運動をすすめよう。

 狭山事件の確定有罪判決は、客観的証拠として7つの情況証拠、万年筆など3物証の発見(犯人しか知らないことが自白で判明したとする「秘密の暴露」)、自白の信用性を有罪証拠としてあげている。客観的な有罪証拠の「主軸」とされたのが脅迫状の筆跡である。有罪判決は「脅迫状の筆跡が石川さんの筆跡であること」すなわち筆跡が一致することが自白を離れて有罪証拠の主軸だというのだ。その根拠は、埼玉県警鑑識課や科学警察など警察側の3つの筆跡鑑定である。しかし、これら警察の筆跡鑑定は、類似点だけをあげて同一人の筆跡とするだけの誤った鑑定であり、石川さんが正しく書けていない平仮名の「ま」などを鑑定対象からはずすなど恣意的な鑑定である。

 それにたいして、弁護団は第3次再審請求で専門家による筆跡鑑定を多数提出し、石川さんが脅迫状を書いていないことを明らかにしている。とくに第3次再審請求では裁判所の勧告もあり、逮捕当日に石川さんが書いた上申書や石川さんが字を書いている場面が録音された取調べテープなどが証拠開示され、新たに専門家による鑑定が多数提出されたことは重要である。こうした開示証拠によって、脅迫状と石川さんの筆跡・国語能力の相違はいっそう明らかになっている。

 魚住和晃・神戸大学名誉教授による一連の鑑定は、高精度でスキャンされた画像をもとに筆跡の特徴を分析し、固有の筆癖の相違を明らかにして、石川さんが脅迫状を書いていないことを立証している。また、遠藤織枝・文教大学教授による鑑定などは、漢字の使用、句読点の使用、ひらがな表記、作文能力などさまざまな点で脅迫状と石川さんの国語能力が相違していることを明らかにしている。

 森実・大阪教育大学教授による鑑定や魚住第3鑑定は、当時の石川さんが非識字者で脅迫状を書けたはずがないことを、取調べの録音という客観的な事実をもとに明らかにしている。

 そして、コンピュータによる画像解析の方法を使った新たな筆跡鑑定である福江報告書は、脅迫状と石川さんの筆跡のズレ量が、一般的な同一人が書いた場合の筆跡のズレ量、書きムラでは説明できないほど大きく相違することを客観的に明らかにしている。書き癖の相違、国語能力の相違、コンピュータが客観的に計測した字形の相違など、あらゆる角度から筆跡の相違が明らかにされ、石川さんが脅迫状を書いていないことが立証されているといえる。

 脅迫状は犯人の残した唯一といっていい物的証拠である。それが、あらゆる角度から石川さんと結びつかないことは、直接に石川さんの無実を証明しているといえよう。

 有罪判決が有罪証拠の主軸としたものが崩れているのであるから、すみやかに鑑定人尋問をおこない、再審を開始すべきである。

 再審請求を棄却したこれまでの裁判所の決定は、筆跡の相違を認めながら、「字は書くたびに違う」として筆跡の違いをごまかしてきた。しかし、開示された取調べ録音テープで石川さんが筆記している場面からは、取調べで書いた字が正しく書けていないのは、書く環境や心理といった書字条件によるものではなく、当時の石川さんが部落差別によって文字を奪われた非識字者であったからだということがいっそう明らかになっている。筆跡・脅迫状にかかわる新証拠の学習をすすめ、石川さんの無実を広く訴えよう!

 次回の三者協議は5月中旬にひらかれる。5月には狭山事件は事件発生から55年を迎え、5月23日には、石川さん不当逮捕55か年を糾弾し、再審開始を求める市民集会がひらかれる。全国各地においても、狭山パンフや取調べDVD、狭山事件のパネルなどを活用し、下山鑑定、コンピュータによる筆跡鑑定、識字能力鑑定、取調べ録音テープを分析した心理学鑑定など、弁護団が提出した新証拠について、学習・教宣を強化し、狭山事件55年をアピールするとりくみをすすめよう。狭山事件をはじめえん罪と闘う当事者の姿を描いたドキュメンタリー映画「獄友」の上映運動をすすめ、狭山事件の再審とえん罪をなくす司法改革を訴えよう。

 東京高裁第4刑事部(後藤眞理子裁判長)に、鑑定人尋問などの事実調べをおこない、再審を開始するよう求める世論を大きくしよう!


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