「解放新聞」(2018.04.30 -2857)
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安倍政権への支持率が急落している。「働き方改革」での裁量労働制導入の根拠としたデータのねつ造、森友学園に関する公文書の改ざん、イラク派兵での日報隠蔽(いんぺい)、加計学園問題でのメモ発覚、財務省事務次官のセクハラ発言など、まさに、ごまかしと隠蔽、居直りが続くなかで、当然ながら、安倍政権への不信、不満が増大している。これまでの不祥事、疑惑では、報道コントロールで問題の拡大を抑えてきたこともあった。しかし、今回ばかりは、新聞やテレビなど多くのマスメディアが、政権や与党内からの批判もあり、安倍首相や麻生財務大臣、厚生労働省、財務省などの対応を厳しい姿勢で報道している。
しかも、防衛省統合幕僚監部の3等空佐が、防衛省のイラク日報隠蔽問題を追及している民進党参議院議員に「国民の敵」と暴言を吐いたことも問題になっており、文民統制(シビリアンコントロール)が、安倍政権のもとで機能していないことが明らかになった。まさに、憲法改悪を強行し、戦前回帰の反人権主義、国権主義の政治をすすめようとする安倍政権の本質を露呈する不祥事、疑惑が噴出している。
この間、安倍政権は集団的自衛権容認の閣議決定を強行し、「戦争法」「特定秘密保護法」や「共謀罪」など、米国に一方的に追従する「戦争をする国」づくりに向けた動きを強め、自衛隊明記をめざした憲法改悪をすすめてきた。また、中国との関係を悪化させ、朝鮮半島の緊張激化のなかでも圧力、制裁一辺倒の強硬姿勢を続け、南北朝鮮や米朝の首脳会談が合意されるなどの国際情勢の変化のなかで、国際的な孤立をますます深めている。
われわれは、こうした安倍政権のもとで、憲法改悪を阻止し、差別と戦争に反対する闘いをすすめるとともに、部落解放・人権政策確立に向けてねばり強くとりくみをすすめてきた。
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2016年12月に公布、施行された「部落差別解消推進法」は、こうした中央実行委員会と全国の都府県実行委員会が一体となってすすめてきた活動の大きな成果である。国内人権委員会の創設を中心にした人権侵害救済制度には否定的だった安倍内閣では、個別人権課題である「障害者差別解消法」「ヘイトスピーチ解消法」や「部落差別解消推進法」が制定されてきた。さらに、与党内では、アイヌ民族や性的少数者(LGBTQ)に関する法的措置も検討されている。
このように厳しい政治情況のなかでも、それぞれのとりくみが成果をあげている。われわれも、「部落差別解消推進法」の具体化に向けたとりくみに全力をあげるとともに、こうした個別人権課題の法的措置にかかわって、その問題点や積極面を共有し、差別禁止をふくむ包括的な人権侵害救済制度の確立をめざそう。とくに、日本政府が批准している国連の各人権関係条約委員会から、たびたび厳しい勧告を受けている、国内人権委員会の創設に向けた課題は喫緊のとりくみであることをふまえ、協働の活動を強化しなければならない。
また、この間の個別人権課題での法律の施行後、多くの問題点が指摘されている。「障害者差別解消法」では、法の周知がいまだに不十分であることが指摘されている。法律が規定している「不当な差別的取り扱いの禁止」や「合理的配慮の提供」という点でも、いまだに「特別扱いはできない」「先例がない」など、法内容への理解不足による対応が報告されている。さらに、自治体には努力義務となっている「対応要領」は、7割ほどの自治体が策定しているものの、「障害者差別解消支援地域協議会」の設置は5割程度の状況である。当事者団体であるDPI(障害者インターナショナル)日本会議では、法律を活かすための建設的対話の必要性を強調し、当事者参加を基本にしながら、法律の活用をめざすとしている。
「ヘイトスピーチ解消法」でも「適法に居住している本邦外出身者」という限定や罰則規定がないなどの不十分点が指摘されている。法律制定後、ヘイトデモにたいする警察の対応の変化や、自治体での公共施設の使用に関する条例制定、ヘイト裁判判決など、抑止効果も報告されており、ヘイトデモは減少傾向にあるものの、国政選挙や自治体選挙に立候補し、「公職選挙法」を悪用して、ヘイトスピーチをくり返す日本第一党などの活動も続いている。最近の朝鮮総聯中央本部への発砲事件などでも明らかなように、公然と差別や暴力を煽動するヘイトスピーチを断固許さず、協働した闘いをすすめよう。
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5月22日に、部落解放・人権政策確立要求第1次中央集会を開催する。この間、「部落差別解消推進法」の具体化に向けて、全国で法律の周知にとりくんできた。「部落差別解消推進法」は、今日でも部落差別が厳しく存在し、社会悪であるこの部落差別のない社会の創造に向けた国や自治体の施策の推進を明記したものであり、法律の周知は、そうした制定の意義を広く訴える活動であり、ひき続きとりくみをすすめていく必要がある。
また、相談体制の充実や教育・啓発の推進の課題では、多くの自治体で「国の指示、動向をふまえて」という消極的な姿勢が目立っている。こうしたことから、集会後の政府交渉では、各省の「部落差別解消推進法」にたいする姿勢を明確にさせ、具体化に向けた施策推進を強く求めていかなければならない。とくに法務省は、「部落差別解消推進法」の具体化に向けて、各省の課題を明確にして要請するようなとりくみもなく、各省まかせの消極的な姿勢であり、しっかりとした役割を果たしていない責任は大きい。
部落差別の実態に関する調査については、「有識者会議」の取りまとめをふまえて、実施に向けた検討がすすんでいる。実態調査は国の事業となっているが、自治体の協力なしには実施できないことは明らかである。この調査が部落差別の実態を正確に把握できるように、自治体の積極的な動きをつくり出す必要がある。今後とも国や自治体にたいして交渉や要請行動を強めていこう。
さらに、自治体では、部落問題の解決に向けて、国や自治体の役割分担をふまえながら、部落解放・人権行政の積極的な推進が必要であることが再確認されてきた。しかし、施策の具体化にあたっての財源確保の問題もあり、なかなか全国的な動きになっていないのが現状である。中央本部は、全国知事会などに、自治体が国への要望をまとめ、財源確保に向けて積極的に働きかけるように要請している。兵庫県たつの市や愛知県津島市では、この「部落差別解消推進法」制定をふまえての条例が制定され、福岡県小郡市でも条例が改正された。
こうした全国でのとりくみ成果を積みあげながら、第1次中央集会に結集し、「部落差別解消推進法」の具体化のとりくみをすすめよう。
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