「解放新聞」(2018.05.14 -2858)
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狭山事件は、この5月23日で不当逮捕から55年を迎える。部落解放同盟中央本部は4月25日、拡大中央狭山闘争本部会議を開催して狭山事件第3次再審闘争の現状を分析し、当面のとりくみとして5月23日に、東京・日比谷野音で「狭山事件の再審開始を求める市民集会」を開催することを確認した。狭山事件第3次再審では証拠開示が実現し、狭山弁護団は、証拠開示にもとづいて197点にのぼる新証拠を提出したが、なかでも「下山鑑定」と「福江鑑定」は、石川一雄さんの無実を証明する決定的な新証拠だ。2つの鑑定書を武器に、事実調べ、再審開始を裁判所に迫ろう。今度こそ再審開始を実現するため、5・23狭山市民集会に全国から結集しよう。
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あらためて「下山鑑定」と「福江鑑定」の核心を整理してみよう。「下山鑑定」の核心は、一口にいえば、石川さんの自宅「カモイ」から発見されたという万年筆には、被害者が使っていたインクの成分がまったくふくまれておらず、「万年筆は被害者のものではない」ことを科学的に明らかにした点にある。
狭山事件では、被害者の所持品である万年筆が石川さんの自白どおり自宅のカモイから発見され、これが有罪の決定的な証拠とされてきた。ところが発見された万年筆については、起訴後に科学警察研究所の荏原秀介・技官がおこなった鑑定(荏原第1鑑定)では、被害者が使っていたインク瓶や被害者の日記の文字のインクと異なるという結果が出ていた。しかし、これまでの裁判はこの鑑定を証拠として調べず、万年筆は被害者のものとされてきた。
これにたいして弁護団は、再審請求で、被害者の日記、事件当日に書いたペン習字浄書などを新証拠として提出し、インクの違いは万年筆が被害者のものではないことを示すものだと主張した。しかし、第1次、第2次再審で裁判所は、事件当日に被害者が級友のインク、あるいは下校後立ち寄った狭山郵便局でカウンター備え付けインク(ともにブルーブラックインク)を入れた可能性があるとして再審請求を棄却した。しかし、被害者が当日書いたペン習字浄書はブルーブラックインクではないし、家に帰れば自分のインク瓶があるのに下校途中で違うインクを補充するなど考えられない。
さらに2013年7月、裁判所の証拠開示勧告にもとづいて、被害者のインク瓶が開示された。そのインクは、従来その色から「ライトブルー」とよばれていたが、当時販売されていた「ジェットブルー」という商品名のインクであることがわかった。
そこで下山鑑定人は、ブルーブラックとジェットブルーのインクの違いをもとに実証的に荏原鑑定を精査・検証した結果、石川さん宅から発見された万年筆には、ジェットブルーインクの成分は微量も混じっておらずブルーブラックインクのみであったことを明らかにした。これは、発見万年筆は被害者のものではないこと、つまり誰かがねつ造したものだということを示すものであるが、それだけではない。被害者を殺害したあと、万年筆を奪って自宅に持ち帰り、お勝手の入口に置いていたという狭山事件の根幹となる石川さんの自白そのものを崩す決定的な事実を明らかにするものである。
そもそも証拠の万年筆発見の経過には、大きな疑問がもたれてきた。石川さんが逮捕された5月23日、再逮捕の翌日の6月18日とそれぞれ10数人の刑事が2時間以上かけておこなった家宅捜索では万年筆は発見されなかった。その万年筆が、3回目の捜索では簡単に発見された。発見場所のお勝手入口のカモイは高さ175・9センチ、奥行き8・5センチしかなく、ベテラン刑事らが家宅捜索で見落とすとは考えられない。万年筆発見のもととなった石川さんの書いた略図も、改ざんの疑いが明らかになっている。このように万年筆発見は疑問だらけだったが、そのうえに今回の下山鑑定である。下山鑑定によって、「万年筆は被害者のものではない」ことがくっきりと科学的に証明された。
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いっぽう、今年の1月15日に提出された東海大学情報理工学部の福江潔也・教授によるコンピュータを使った筆跡鑑定(福江報告書)の核心は、人間の勘や経験を頼りにしたこれまでの筆跡鑑定とはまったく違い、計測をすべてコンピュータ自身が自動的におこなった結果、99・9%の確率で別人の書いたものであることを明確にした点にある。
これまでの筆跡鑑定は、基本的には文字の特徴やくせなどをていねいに見きわめ、同一人物が書いたものかどうかを判断する方法がとられてきていた。そういう意味では鑑定人の勘と経験に頼っていた。
ところがその限界を突き破る新しい鑑定方法が登場した。それが福江教授のコンピュータ解析による筆跡鑑定だ。その原理は、文字のズレを測定して数値化し、その数値を比較することで同一人物かどうかを判断するという方法だ。具体的には、文字をスキャンして大きさをそろえたうえで、各文字の画線の始点と終点を指示し、コンピュータが自動的に筆跡上の測定点を決めて読み込み、字形の情報を座標として数値化し、データとして取り込む。そのうえで、筆跡のズレの量を計測し、文字の形がどのぐらい相違しているかを数値として把握するという方法をとる。
福江教授は、狭山事件の脅迫状と石川さんの書いた上申書2通と手紙2通のなかから4つの文字「い・た・て・と」を抽出してコンピュータで解析した。その結果、脅迫状は99・9%の確率で石川さんとは別人の書いたものであると判定された。
人間の勘や経験を頼りにしたこれまでの筆跡鑑定とはまったく違った、コンピュータを使った最新にして科学的なこの筆跡鑑定において99・9%の確率で別人の書いたものであることが明確に証明された。これは文字どおり、IT時代の科学の勝利といっても過言ではない。見た目で同一人物と判断してきたこれまでの筆跡鑑定は、この鑑定によって完全に崩れた。
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えん罪で殺人犯にデッチ上げられ、人生のほとんどを獄中で過ごした男たちの日常生活を追い、失われた青春を取り戻すように生きる狭山事件の石川一雄さん、足利事件の菅家利和さん、布川事件の桜井昌司さん、故杉山卓男さん、袴田事件の袴田巖さんの5人の友情と連帯を描いた映画「獄友」のロードショーが東京・ポレポレ東中野で3月24日からはじまった。映画のなかで桜井さんは、「自分たちは不運だったけれど不幸ではない」と語り、理不尽な獄中生活を懐かしそうに語り、笑い飛ばす。映画は評判になり、全国各地の常設館で上映されている。また、自主上映会が狭山事件の支援団体を中心にして各地で開催される。映画では、再審が開始されないのは狭山事件だけであることが強調され、狭山事件の一日も早い再審開始に向けて支援が訴えられている。
狭山第3次再審闘争が12年を迎えるなかで、弁護団は197点の新証拠の論点の整理に着手した。弁護団は追加の新証拠を作成、提出したうえで鑑定人尋問を強く裁判所に求めていく予定だ。第3次再審請求はいよいよ大詰めを迎える。「下山鑑定」「福江鑑定」は、有罪判決を突き崩す決定的な新証拠だ。全国の支援者は、さまざまな場で情宣活動にとりくむとともに学習会や集会をひらき狭山事件への支援をよびかけよう。映画「獄友」上映運動にとりくみ、えん罪・狭山事件の真相を訴えよう。狭山パンフやパネルを活用し、全国各地で「下山鑑定」「福江鑑定」の情宣活動を大大的にくり広げ、石川無実、再審開始の声をあげよう。5・23市民集会への結集をよびかけよう。
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