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ヘイトスピーチを許さず、人種差別撤廃基本法成立にとりくもう

「解放新聞」(2018.06.04 -2861)

 「ヘイトスピーチ解消法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律・以下「解消法」)」が2016年6月に施行されて2年を迎える。

 「在日外国人を殺せ」などのプラカードを掲げて、人種差別であるヘイトスピーチ・デモ、街宣がいまだに継続的におこなわれている。法律の施行後、デモの件数は減少しているが、街宣は増加傾向。表現は過激になっている。差別禁止法がないために法的規制はされず、行政機関が許可するなかでヘイトスピーチはヘイトクライム(暴力)へと移行しはじめている。さらに「解消法」や条例制定の動きに正面から対抗する勢力として登場してきた。2017年12月、神奈川県川崎市の公的施設での集会申請時「ヘイトスピーチはしない」としていたが、実際は集会でヘイトスピーチをくり返し、ようすを動画にアップし、差別煽動を継続している。

 2018年2月、ヘイトデモの関係者が在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総聯)中央本部に銃弾を撃ち込み、暴力をともなうヘイトクライムに発展した。

 2016年7月、元在特会(在日特権を許さない市民の会)の候補者が東京都知事選に立候補し、「公職選挙法」に守られてヘイトスピーチをくり返した。都知事選後、在特会は衣替えして日本第一党を結成し、東京都議選や神奈川県内の市議選などでも立候補者を立ててヘイトスピーチを公然とくり返すことを宣言している。

 1995年、日本政府は大幅に遅れはしたが「人種差別撤廃条約」に加入し、「あらゆる形態の人種的差別と闘う」決意を国際社会に表明した。しかし、「条約」の中核である第4条、差別を犯罪として処罰する条項を「憲法の表現の自由と結社の自由の権利が侵害されることを懸念したから」と留保している。

 人種差別撤廃委員会は「ヘイトスピーチは表現の自由で守るべき法益ではなく、処罰すべき犯罪である」(一般的勧告35)と厳しい規制を求めている。2017年11月、自由権規約委員会は「厳しい法的規制を行い、包括的差別禁止法を制定すべき」と強く勧告した。

 国会は「不当な差別的言動」による被害を認め、「ヘイトスピーチは許されない」ことを宣言し、「解消法」を制定した。国、地方公共団体が責任をもって解消に向けたとりくみを推進するとした日本で初めての反人種差別法である。

 「解消法」制定を受けて、法務省人権擁護局に「ヘイトスピーチ対策プロジェクトチーム」が設置され、「ヘイトスピーチ、許さない」のポスターや啓発冊子を作成、配布した。ヘイトスピーチを「不当な差別的言動」の三類型に分類し、参考情報として提示している。三類型とは、危害告知(生命、身体、名誉もしくは財産に危害を加える旨を告知すること)、いちじるしい侮蔑、排除の煽動(地域社会から排除することを煽動すること)である。

 警察庁は「ヘイトスピーチによる違法行為があれば厳正に対処するように」通達を出した。各地の現場では警察の対応に変化が生まれた。「解消法」を意識して、ヘイトデモ・街宣の発言内容をトーンダウンさせ、ヘイトデモは減少した。2016年7月、福岡地検はヘイトスピ-チ・ビラをトイレに貼る行為を「解消法」の趣旨に照らし建造物侵入罪で立件した。

 法務省は人種差別被害調査(外国人住民調査報告書、2017年3月公表)を実施、入居や就職の深刻な差別実態が明らかとなった。また、法務省の「ヘイトスピーチ被害相談対応チーム」によれば、インターネット上の「不当な差別的言動」は増加し、最悪の結果となっている。社会には差別煽動を受け入れる素地があることが明らかとなった。

 「解消法」は、国や地方公共団体に「不当な差別的言動」を解消する施策を求めている。「解消法」成立直後の2016年5月、川崎市は、ヘイトデモをすると宣言した団体の公園使用を不許可とした。市都市公園条例の解釈によって、「解消法」の「許されない違法な言動」によって公園利用に支障が出るとして不許可判断をした。

 2016年6月、横浜地裁川崎支部は在日コリアン集住地域でのヘイトデモ・徘徊禁止の仮処分を認めた。「差別されず、排除されず、平穏に生活する権利は、人格権として憲法13条で保障されている」「不当な差別的言動は人格権を侵害する不法行為である」とした。「解消法」の定義にしたがって差別や人権侵害を認め、「事後的な権利回復は著しく困難である」とし、事前差し止めを認めた。

 地方自治体は独自に相談業務を開始したり、公共施設の利用基準に「不当な差別的言動を行う場合」を不許可とする条項を新設したり(愛知県・東京都江戸川区)、ガイドラインの策定(京都府)や条例化を検討したり(愛知県名古屋市・兵庫県神戸市・東京都国立市・東京都)、人権尊重の社会づくり条例の改正で対応したりしている。

 2018年3月、東京都世田谷区では、国籍・民族を理由として差別や性的少数者への差別禁止規定を盛り込んだ「多様性を認め合い男女共同参画と多文化共生を推進する条例」を成立させた。罰則規定はないが、苦情処理委員会を設置して、被害相談、救済機関としての役割をもたせた。法務省が実施した人種差別被害調査の深刻な差別実態が立法事実となった。

 2018年3月、川崎市人権施策推進協議会は、罰則をともなう差別禁止規定と、インターネット対策の強化を答申に盛り込んだ。また、「公共施設利用許可に関するガイドライン」を策定し、インターネット上の差別書き込みのモニタリングもはじめた。市議会は「人種差別撤廃条例の早期制定」の意見書を採択した。ガイドラインは「解消法」を根拠に、ヘイトスピーチがおこなわれる恐れが認められる場合、施設の利用を制限できる、不許可の判断は第三者機関の意見を聴取して決定するとしている。2016年1月に「ヘイトスピーチへの対処に関する抑止条例」を成立させた大阪市は、2017年6月、ネット上に公開された差別的な街宣活動の動画を条例にもとづいてヘイトスピーチと認定し、削除と掲載者の実名の公表を要請した。削除されたが名前は公表されず、ハンドルネームのみの公表となった。抑止効果は半減した。表現の自由との関係で禁止規定ができないでいる。

 人種差別撤廃委員会は「ヘイトスピーチは表現の自由で守るべき法益ではなく、処罰すべき犯罪である」として厳しい規制を求めている。すなわち、人間の尊厳にたいする犯罪の抑止である。刑法的規制で処罰するだけでなく、民法的規制や行政的規制、人権教育などあらゆるとりくみによって抑止することも提起している。法務省や地方自治体は「根絶すべき社会悪」の立場から大大的かつ継続的に反ヘイトスピーチ・キャンペーンをおこなうこと。法務省が主導し、ヘイトスピーチ解消法推進連絡会議で関係省庁間の協議を活発化させ、「パリ原則」にもとづく国内人権機関設置に向けた方向づけをすること。さらに解消のためのガイドラインを策定すること。ヘイトスピーチ解消を目的とした教育・啓発をより強力に推進すること。警察官・裁判官など法執行に携わる公務員には、人権侵害を禁止し予防する責任を定めた国連の法執行官行動綱領の遵守を強く求める。

 「ヘイトスピーチ解消法は第一歩であって、終着点ではない」(参議院法務委員会決議)ことから、ヘイトスピーチ、差別煽動や不当な差別的取扱いを厳しく規制する包括的な差別禁止をふくむ人種差別撤廃基本法・条例の制定が喫緊の課題である。


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