「解放新聞」(2018.07.09-2866)
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2013年に自主運営がはじまって5年、15年に裁判闘争を闘うようになって3年、リバティおおさかは正念場を迎えている。そもそも1982年に部落解放同盟大阪府連合会を中心として、労働組合、民主団体、企業、大阪府、大阪市などの協力によって運営母体の財団法人が設立され、85年にリバティおおさかは「大阪人権歴史資料館」と銘打ち、日本で唯一の “人権に関する総合博物館” として開館した。1995年に常設展示をリニューアルして「大阪人権博物館」と改称し、さらに2005年には “人権の21世紀” に対応するため展示をふたたびリニューアルした。リバティおおさかは差別撤廃と人権確立に向けた人権教育・啓発に大きな役割を果たし、開館から33年間で総利用者数はおおよそ165万人を数え、国内外から高い評価を受けてきた。
このようなリバティおおさかの意義と役割を尊重して、開館当初から大阪府と大阪市は運営費の大半を占める補助金を支出してきた。しかし、2008年に橋下徹・大阪府知事が誕生し、10年に大阪維新の会代表となって翌11年には大阪市長に転じて、同日選挙で誕生した大阪維新の会の松井一郎・大阪府知事とともに大阪市政・府政を担うようになると、人権行政は大きく後退するようになった。そして2012年には橋下市長が松井知事とともにリバティおおさかを視察し、みずからが大阪府知事在任時に承認した展示であるにもかかわらず「子どもたちが夢や希望を持てる内容となっていない。私の価値観に合わない」と否定し、13年度から補助金を一方的に廃止した。リバティおおさかが大阪での人権教育と啓発の重要な拠点であり、大阪府と大阪市がこれまで人権行政に果たしてきた役割を考えると、補助金の一方的廃止は人権行政の大きな後退である。
そこで、リバティおおさかは自主運営のため、新たに賛助会員(サポーター(個人))と寄付者(スポンサー(団体・個人))を募り、困難な自主運営の道を歩むこととなった。また33年間で培われたネットワークを駆使して、共催を中心とした質の高い展示を開催し、運営を継続してきた。自主運営6年目を迎えたリバティおおさかはきわめて厳しい状況におかれているが、多方面からの協力と支援を得ることによって事業と運営を継続させている。部落解放同盟も全国的に自主運営への支援をよびかけ、カンパ活動と利用促進の両面からリバティおおさかを支援してきた。しかし、それでも資金的には苦しく、辛うじて運営できているにすぎず、存続の危機を打開したとはいえない状況にある。
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さらに大阪市は、2014年にはリバティおおさかが使用している市有地の使用料を要求してきた。リバティおおさかが話し合いを求めたにもかかわらず、まったく応じることなく、2015年7月に橋下徹・大阪市長はリバティおおさかを運営する公益財団法人を強引に提訴するという暴挙に出た。その内容は、①リバティおおさかの建物を取り壊し、使用している大阪市有地を明け渡すこと、②2015年4月から市有地の明け渡しまで、1か月あたり約250万円を支払うこと、というものであった。これは地方自治体である大阪市がみずからも出資した財団を提訴するという、全国的にもまれにみる不当かつ理不尽な行為にほかならない。
2015年10月からはじまった口頭弁論で、被告となったリバティおおさかは、①建物の取り壊しと市有地の明け渡しはリバティおおさかの廃館を意図したものである、②市有地は地元の部落住民が部落差別の撤廃と教育の向上のために寄贈したという歴史的経緯を無視したものである、③リバティおおさかの意義と役割を否定するだけでなく大阪市がすすめてきた人権行政の責任を放棄したものである、と主張した。まさに、この裁判で問われているのは、人権行政を推進する責任を負っている原告の大阪市であることを強調したものである。
2017年まで11回の口頭弁論がひらかれたが、大阪市は人権施策の一環としてみずから補助金を交付してきたにもかかわらず、公益財団法人であるリバティおおさかに公益性はないとの見解さえを示すようになり、その論理は破綻していることがますます明確になってきた。現在、裁判は口頭弁論から非公開の進行協議へと移っているが、リバティおおさかは現在地での運営と事業の存続を求め、ねばり強い交渉を続けている。しかし大阪市の対応はひじょうに厳しく、今後の展開は予断を許さない状況にある。わが同盟はリバティおおさかの裁判闘争を注視し、リバティおおさかの必要性を広く訴えて支援をしていく必要がある。7月14日には、リバティおおさかと「リバティおおさか裁判を支援する会」によって、存続のための集会も予定されている。
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リバティおおさかでは2018年5月から特別展「絵図と被差別部落-都市大坂のコスモロジー-」が開催されている。テーマを変えながら継続している企画展では、「とことん平和主義!」日本国憲法展シーズン2が6月28日まで、7月11日からは企画展「“家族” のカタチ、 “性” のアリカタ」日本国憲法展シーズン3が、また、太鼓の演奏会や「なにわリバティまつり」など、地域で地道に活動する市民団体などとの協働による多彩な催しも予定されている。これらをふまえると、リバティおおさかは部落解放運動だけでなく、被差別マイノリティの解放運動、差別と抑圧をなくして人権を擁護する多様な活動にとっても、大きな意義を有する施設であるといえる。
今日、朝鮮半島情勢が好転しつつあるとはいえ基本的に東アジア情勢は不安定であり、それにともなって政治の極端な右傾化や偏狭なナショナリズム、差別排外主義などが日本に蔓延している。またグローバル化を背景とした新自由主義政策によって格差拡大と社会的排除も進行し、ネット上での新たな差別も横行するなど、日本の人権をめぐってはきわめて厳しい状況にある。
しかし、2016年には「障害者差別解消法」、「ヘイトスピーチ解消法」、「部落差別解消推進法」があいついで施行され、差別の解消と人権の確立のための施策に一定の前進がみられるのも事実である。このような状況のなかで、差別撤廃と人権確立という目的を掲げたリバティおおさかの意義と役割は、ますます大きく重要である。正念場を迎えたリバティおおさかの裁判闘争と自主運営のため、いっそうの支援を同盟員と共闘団体に強く訴えるものである。
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