「解放新聞」(2018.09.03-2873)
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2016年4月17日に東京地裁に提訴してから「全国部落調査」復刻版出版事件裁判は2年半を迎えようとしているなかで、裁判の争点と証拠の整理をおこなう弁論準備が8月13日におこなわれた。この日は、弁護団の4人と原告を代表して片岡副委員長が出席した。弁護団は、「全国部落調査」復刻版の地名に関連して、原告が戸籍等を提出すると、相手側(被告、鳥取ループ・示現舎。以下、鳥取ループ)がそれらをすべてインターネットに掲載し、部落リストのようなかたちとなって新たな被害を発生させる恐れがあることから、公証人による証明(公正証書)を通じて提出する方法を裁判所に申請し、証明方法を裁判官に説明した。また、弁護団は同日、鳥取ループの準備書面にたいする反論の準備書面を裁判所に提出し、鳥取ループの差別性を厳しく弾劾した。裁判は、公証人の証明や原告の陳述書提出にまだ時間がかかるため、つぎの口頭弁論や証人尋問は年を越す見通しになったが、部落差別を助長拡散させる鳥取ループを徹底的に糾弾する闘いを広げよう。
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今回、弁護団は二つの準備書面を提出した。これまでの裁判で、弁護団は一貫して、差別情報がいったんネットに掲載されればあっという間に拡散し、それを取り消すことは容易ではなく、未来にわたって人権侵害の発信源になり続けることを主張してきたが、鳥取ループは、また開き直って「全国部落調査」復刻版出版とネット掲載を正当化する主張をくり返した。
鳥取ループは、準備書面で「確かにインターネット上にも虚偽の内容や差別的な内容が多数あるが、インターネットは誰しもが情報の受け手と送り手の両方になれるという特徴があり、誤った情報に対して反論することが容易であるし、それを受けて記事を訂正することも出版物に比べて容易である」と、みずからがおこなっている行為を棚に上げて、他人事のようにみずからの行為を正当化した。
これにたいして弁護団は、「身元を明かすことなく(あるいは偽って)情報を発信することができるインターネットは、誰の制約もチェックも受けることがないまま、玉石混交の情報に多数の者が接することができる状態が作出されるところをその特質とする」とのべたうえで、「さまざまなSNSが発達した現在は、その内容の正誤を問わず、一定の層に受け入れられやすい傾向を持つ情報が、短時間に拡散」し、「そこから、デマや偏見や差別的な情報・言辞が圧倒的な量で発信されるとともに拡散され、・・・偏見が内面化され、固定化されることが生じる」とあらためてインターネットの危険性を指摘した。また、インターネットによって、ほとんど抵抗感なく「簡単な検索で実質的な身元調査を行うことができたりすること」を指摘したうえで、現に生じている被害だけではなく、これから先、子どもや孫の世代にまたがって差別が継続され、また差別にたいする不安感が増大していくと批判した。
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ところで弁護団はこれまで、「深刻な人権に対する侵害を産み出す、就職差別や結婚差別の前提には、すべて『身元調査』があり、それは一覧的に部落の地名と場所などをリストアップしたものによって行われる」と主張し、「差別にしか利用できないリストを作成し、それを利用可能な状態におくこと自体が差別の助長に直結する」と主張してきた。これにたいして鳥取ループは、部落に住むだけで差別されるということは「デマ」であるとのべ、土地差別は存在しないと主張してきた。鳥取ループは、「『差別身元調査』と言うが、何をどのように調べて、どのような基準で部落出身者を判断できるのか」とのべ、身元調査なるものは解放同盟が勝手につくった「根拠のない『デマ』 『虚偽情報』」だとのべて、身元調査そのものを否定した。そのうえで鳥取ループは、「出身地が部落なら部落民というような妄言を論破し、部落について「質が高く、正しい」情報を知ることはむしろ望ましい」と、「全国部落調査」の利用を推奨しているのである。
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昨年7月、原告側の仮差押え申立てにたいする決定で、横浜地裁相模原支部は、「全国部落調査の内容を、不特定多数の者に広く知らしめようとする行為は、債務者に差別助長の意図があるか否かにかかわらず、実際には差別意識の形成、増長、承継を助長する結果となるであろうことは明らかであるし、そうなれば、差別意識や差別的言動を撲滅しようとしてきた国家やこれに添う活動をしてきた個人や組織の長年の努力を、大きく損なうこととなりかねない」と、鳥取ループの行為は「差別意識の形成、増長、承継」であることをきっぱり指摘した。
裁判は、双方の主張がほぼ出揃い、このあと原告の陳述書の提出をふまえて証人尋問がおこなわれる。現在、248人の原告の陳述書の作成作業をすすめているが、弁護団はこのなかから複数の原告の証人申請をおこない、証人が証人台に立って、鳥取ループの行為がいかに極悪非道の所業であるか、いかに部落差別を拡散助長するものかを裁判官に訴える準備をすすめている。
裁判はいよいよ核心に迫る段階に入る。「全国部落調査」復刻版出版事件裁判は、全国の部落出身者とその子孫を差別から守る闘いであり、部落差別をなくすために努力してきた国や地方自治体、企業、宗教団体、労働組合などの長年の成果を守る闘いである。全国各地で裁判報告会や学習会を開催し、支援運動を広げよう。
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