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新証拠の学習・教宣を強化し、
狭山再審を求める世論を大きくしよう

「解放新聞」(2018.11.19-2883)

 狭山事件再審弁護団はことし、重要な新証拠をあいついで提出した。1月には、石川さんと脅迫状の筆跡は同一人ではないことを客観的、科学的に明らかにした福江潔也・東海大学教授によるコンピュータによる筆跡鑑定を提出した。福江鑑定の方法は、コンピュータを使って文字を重ね合わせたときのズレ量を計測することで、筆跡の相違を客観的に数値化し比較するものだ。脅迫状と石川さんの書いた上申書や手紙にくり返し出てくる「い、た、て、と」の4文字を対象として、筆跡の相違度(ズレ量)を計測したところ、個人内の書きムラでは説明できない大きな相違度があり、別人の書いたものと判定するのが合理的と結論づけている。有罪判決が根拠にした警察の従来の筆跡鑑定と異なり、鑑定人の主観が入らない客観的な鑑定によって、石川さんが脅迫状を書いた犯人でないことが明らかになったといえる。

 7月には、京都府警察本部科学捜査研究所の元技官の平岡義博・立命館大学教授による鑑定意見書2通、証拠開示された捜査報告書などを新証拠として提出した。狭山事件の有罪判決は、死体発見現場から約125メートルの麦畑で発見されたスコップは石川さんがかつて働いていたI養豚場から盗んで死体を埋めるのに使ったものであるとして客観的な有罪証拠とした。その根拠は埼玉県警鑑識課のスコップ付着の土壌と油脂の鑑定である。平岡意見書は、スコップ付着土壌に死体発見現場付近の土と類似するものがあったという埼玉県警鑑識課の鑑定の結論は誤りであると専門家として指摘している。また、警察の鑑定からはスコップ付着物に油脂があったというだけで、I養豚場で使われていたスコップであると特定できないと指摘している。有罪判決の根拠となった証拠のスコップが死体を埋めるのに使われたものとも、I養豚場のものともいえないことが長年、警察の捜査で土の分析の研究と実務を担ってきた元科捜研技官の科学的な分析で明らかになったことは重要だ。スコップに関する新証拠は、被差別部落にたいする見込み捜査がおこなわれ石川さんが狙い打ちされたことを示している。

 8月には、下山進・吉備国際大学名誉教授が作成した鑑定書(下山第2鑑定)が提出された。下山第2鑑定は、蛍光X線分析装置を使ってインクにふくまれる元素を分析することで、石川さんの家から自白通り発見されたとして有罪の重要証拠とされた万年筆が被害者のものではないことを科学的に明らかにしている。

 下山第2鑑定は、事件当時に発見万年筆で書いたとされる数字が添付された調書が証拠開示されたことを受けて、下山鑑定人が、この発見万年筆で書いた数字、被害者が事件当日に書いたペン習字浄書のインク、被害者が使用していたインク瓶のインクなどについて蛍光X線分析をおこなったものだ。蛍光X線分析は、物質にX線をあてるとふくまれる元素に固有のエネルギーの蛍光X線が発生することを利用して、物質にふくまれる元素を分析するものである。その結果、被害者が使っていたインク瓶のインク、被害者が事件当日に書いたペン習字浄書の文字インクからは金属元素のクロムが検出され、一方、発見万年筆で書いた数字のインクからはクロム元素が検出されなかったのである。

 この検査結果は、被害者が事件当日まで使っていたインクが石川さん宅から発見され有罪証拠とされた万年筆に入っていなかったことを示している。

 これまでの裁判所の決定は、発見万年筆のインクが被害者が使用していたインクと違うことについて、別のインクを補充した可能性があるとして、被害者のものでないとはいえないとしてきたが、別インクを「補充」しても元のインクのクロム元素が検出されなくなることはない。下山第2鑑定は、インクにふくまれる元素の違いから、発見万年筆が被害者のものではないということを明らかにした決定的な新証拠である。

 再審請求では、有罪判決に合理的疑いを生じさせる新証拠を発見したときに再審を開始するとされている。狭山事件で確定有罪判決となっているのは1974年10月31日に東京高裁(寺尾正二・裁判長)のおこなった無期懲役判決である。これがいまも石川一雄さんにえん罪の「みえない手錠」をかけている。この寺尾判決から44年が経過した。寺尾判決以降、多くの無実の新証拠が明らかになったが、第1次、第2次再審請求ではまったく事実調べがおこなわれなかった。

 寺尾判決は有罪の根拠として、筆跡が一致する、現場の足跡が石川さんの家の地下足袋と一致する、死体を埋めるために使われたスコップはI養豚場のもので石川さんが盗んで使った、犯人の血液型はB型で一致する、犯人の音声、目撃証言、犯行に使われた手拭いは石川さんの家のもの、などといった7つの客観的な証拠が石川さんと犯行との結びつきを示しているとしている。そのうえで、鞄、万年筆、腕時計など被害者の所持品が自白通り発見されたことを「秘密の暴露」(犯人しか知らないことが自白で判明した)として自白が信用できる根拠としてあげ、さらに、自白は客観的事実と矛盾しておらず信用できるとしている。
 弁護団は、こうした有罪判決の論点を整理したうえで、これを突き崩す新証拠を提出してきている。弁護団は、有罪判決の誤りを完膚なきまで明らかにするべく、脅迫状の指紋の不存在、死体を芋穴まで運んだという自白の不自然さ、万年筆の捜索・発見経過の不自然さ、足跡などに関する新証拠を準備しており、提出していくことにしている。

 一方、検察官は、福江鑑定について反論の意見書を提出した。弁護団は、再反論を準備している。さらに、検察官は、スコップに関する平岡鑑定についても反論を提出するとし、下山第2鑑定にたいしても反論を検討するとしている。弁護団は今後、これらの検察官の反論にたいしても徹底的に再反論するとともに、鑑定人尋問などの事実調べを求めていくことにしている。

 福江鑑定、下山第2鑑定、取調べ録音テープなどの新証拠によって、石川さんの無実が明らかになっている。東京高裁第4刑事部(後藤眞理子・裁判長)は、鑑定人尋問などの事実調べをおこない、狭山事件の再審を開始すべきだ。次回の三者協議は12月におこなわれる。石川さんの闘いと弁護団の活動を支援するとともに、新証拠の学習・教宣を強化し、狭山事件の再審を求める世論をさらに大きくしていこう。

 下山第2鑑定が検査した発見万年筆で書いた「数字」や被害者のインク瓶、ペン習字浄書はすべて証拠開示されたものである。福江鑑定の資料の逮捕当日に石川さんが書いた上申書も47年目に開示されたものだ。2010年に開示された取調べ録音テープによって、ウソの自白がつくられていったことや当時の石川さんが字が書けなかった非識字者であり脅迫状を書けなかったことが明らかになった。第3次再審での重要な新証拠は証拠開示で新たに発見されたものといえる。足利事件、布川事件、東電社員殺害事件、東住吉事件などこの間、再審無罪判決が相次いだ。いずれもえん罪で無期懲役判決を受け、長い獄中生活を強いられた。きわめて重大な人権侵害といわざるを得ない。これらの再審事件でもえん罪を晴らすきっかけとなったのは検察官手持ち証拠の開示であり、裁判所の事実調べである。再審での証拠開示がいかに重要かを示している。再審での証拠開示の法制化は刑訴法改正のさいに国会の附帯決議で検討するとされた。

 また、袴田事件や大崎事件、松橋事件、湖東病院事件などで再審開始決定に検察官が抗告を申し立て再審がはじまらないまま長い時間が経過していることに批判の声が大きくなっている。再審での証拠開示の保障、再審開始決定にたいする検察官の上訴の禁止などをふくむ再審法(刑事訴訟法の一部)改正が国会で審議されるよう求めたい。

 石川さんをはじめ、えん罪と闘う当事者の姿と思いを描いた映画「獄友」の上映運動をすすめ、狭山事件の再審とえん罪をなくす司法改革を訴えよう。

 

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