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主張

 

「種子法」廃止に反対し、地域で新たな仕組みをめざし、
食の安全と部落の農業を守るとりくみをさらに強めよう

「解放新聞」(2019.02.11-2894)

 「種子法」が、昨年3月末に廃止された。正式には「主要農作物種子法」といい、1952年に制定されたもので、戦後の食糧難という時代背景を受け、おもに主食であるコメ・大豆・麦の安定生産・供給を目的に、種子の生産や審査などの処置をおこなうことが法律の主旨である。この法にもとづき「奨励品種」の選定権限も国から地方自治体に移譲されたことで、その地方の気候や風土に合った品種の研究・試験、改良や生産をおこなえるようになったのである。そして、各自治体は、国の財政的支援を受け、品種によっては10年以上の時間をかけ品種の改良・研究をすすめ高品種、安価で安全な「種子」を生産者に提供してきた。

 そうした状況のなか「もう役割は終わった」と廃止が決定されたのである。しかし、「種子法」廃止の経緯や理由、さらにその後の影響を危惧する学者や有識者も多く、生産者からも批判と不安があがっている。

 2016年9月、政府の規制改革推進会議で農政の転換が決定され、翌年の3月にわずか12時間の審議で「種子法」廃止が決定された。発案からたった6か月でのことである。廃止の提案理由は「奨励品種の選定が各自治体の影響を受けた品種に偏っている。民間の参入にとってアンフェア(不公平)な状況を改善するとともに、民間との協力により、自由な競争力を高め、より良い農産物の生産を図ること」としている。

 より優れた農産物を生産するためには、長期の研究や試験が必要とされる。しかし現状では、国の支援を受けた自治体の方が民間企業より圧倒的に有利で、さらに奨励品種の決定権も自治体が握っている。これでは自由な競争ができないとするものだ。また、民間企業のもつ技術力との連携がすすめられることにより国際的競争力が高まり、さらに優れた農産物が生産できる。このことによって農家の収入も増加するというものだ。良いことずくめの廃止提案理由に、一見すると一理あるようにもみえるが、そう簡単なことではない。

 ことの根幹は「規制改革推進会議」にある。安倍政権の「戦後レジームからの脱却」という主張を軸に設置され、アメリカなど諸外国からの要求を具体化する役割であり、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)参加への準備でもあった。TPPは、各国のさまざまな規制を廃し、参加各国の自由な経済活動を実現することが狙いであり、その重要なターゲットの一つが「農業」で、「種子法」の廃止がTPP参加のパスポートだといわれていたのである。つまり、廃止理由にあげられていた「民間企業の参入」とは、現実的には外資系企業を指していることは周知の事実である。

 現在の世界の種子・肥料・農薬にかかわる市場の状況をみると、アメリカを主体とする多国籍企業が全体の7割を占めており、こうした状況に近年、世界各地で反発がおきている。「自国の農業(食料)が、アメリカの企業に支配されている」というのがその理由だ。たとえば、「種子」を使用する農家が農産物の一部を種子として保存し、つぎの年に使用しようとしても、それは特許などの関係でできなくなり、毎年新たに種子を購入しなければならない。また、肥料や農薬も同様に、こうした状況に付随してくるのである。しかも、多くの農業者の収入が増加したのかというと、こうした経費がかさみ、「以前より厳しい状況に追い込まれている」というのがアメリカの企業にたいする反発の背景にある。

 つまり、政府のいう「民間企業との連携で農家の収入が増える」という事実はなく、種子を生産・供給する企業、とくにアメリカの企業だけが儲かるという状況になる可能性が大である。

 もう一つの重要な問題がある。諸外国でおきている多国籍企業への反発には「食の安全性」がある。種子、肥料、農薬を提供している企業は、モンサント社に代表される化学薬品会社である。とくに、モンサント社は「遺伝子組換農作物」で世界をリードしている。このモンサント社が掲げる「世界食糧支配戦略」とは、遺伝子操作の種子による世界の食糧の支配なのであり、現在、遺伝子操作によるさまざまな農産物がつくられ世界中に流通している。日本の場合、これまで「種子法」が一定の歯止めの役割を果たしてきていたが、廃止によって、これらの「種子」が大量に押し寄せる可能性が大きいのである。

 また、これは「種子法」に規定されている「主要農作物(コメ・大豆・麦類)」に限ったことで、野菜などの場合は、すでに外国産の「種苗」が大量に流通しているのが現状である。また、食料自給率でみると、現在「37%」といわれている。しかし、米食は100%自給だといわれるが、米食離れも指摘されていることを考慮すれば、食卓に並ぶ「食」の大部分に安全性への危機感をもつのは当然のことだ。ちなみに、モンサント社は、ベトナム戦争で米軍が使用した「枯葉剤」の製造企業だ。日本には、こうした多国籍企業の資本下にある企業や代理店が多数存在している。

 日本の国土はけっして広いとはいえないが、農地や水をふくめ、じつに多様な風土や気候が存在している。そして、多くの農家は、それぞれの条件に合わせた農産物の品種を守り、改良や工夫を重ねてきた。さらに戦後、「種子法」にもとづいて自治体も本腰を入れ支援し、多くのブランドを生み出し、同じ品種でも産地によってまったく違う特徴や個性をもつ農産物をつくり出してきた。しかし、「種子法」の廃止によって、財政上の理由もふくめ、これまでのようなとりくみができなくなり、全国各地にある農業試験場などの研究機関の存在が危うくなるのである。そして、画一化した農産物が広がり、コメだけでも全国に300種類あるといわれている品種が消滅するとさえいわれている。さらに、さきに指摘したように食料の「自給率」や「食の安全」についても重大な問題がある。また、種子などの価格転嫁による「生産コストの問題」も指摘されているのである。

 「種子法」の廃止は、いうまでもなくこれまでの農業へのとりくみを否定し、私たちの食料の安全と安定供給に決定的な影響を与えるもので、TPPもふくめ日本の農業を多国籍企業に売り渡すという暴挙である。
 こうした安倍政権・政府の姿勢にたいし、北海道・埼玉・長野・滋賀・兵庫をはじめ自治体では「種子法」に代わる条例の制定や独自のシステムをつくり、これまでのとりくみの継続や新たなルールづくりをすすめている。しかし、「種子法」廃止にそった形で早早に種子の保存・研究などの業務を民間委託する方向を打ち出している自治体もある。また、こうした状況のなかで、野党ばかりか自民党の一部でも「一度は賛成したけど、よく考えれば」と「種子法」の復活の声があがっているのである。

 農水省は「種子法の廃止に伴って、これまでのとりくみを直ちに止めるということはない」といってはいるが、これもTPPのなかで「主要5品目は、当面守った」とする見解と同様に、法的根拠がないなかで先行きの担保があるわけではない。

 こうした状況をふまえ、日本の農業と生産者、食の安定供給と安全という視点での消費者、さらには部落農家をはじめ零細農家を守るという立場で、TPPとともに「種子法」の廃止に強く反対しなければならない。

 同時に、全国の各自治体に「種子法」の趣旨をふまえた具体的な対策を強く迫っていく必要がある。

 私たちや私たちの子や孫たちが「枯葉剤でも枯れない農作物」を口にするわけにはいかないのである。

 

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