「解放新聞」(2019.04.15-2903)
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「令和」である。
4月1日、官房長官が発表した新元号は、「万葉集」を典拠にしたもので、元号が日本で著述された書物(国書)から引用されたのは初めてであるらしい。天皇制の存続を何よりも願う勢力に忖度した、安倍首相が国書を典拠にすることに固執したとの報道もある。しかし、今日われわれが使用している漢字もひらがなも中国を発祥としている。また元号は中国の文化でもある。大平内閣時代の1979年に閣議決定された元号選定の要領によれば、漢字2文字ということにもなっており、そもそも漢字表記であることが定められているのである。日本古来の独自の文字、たとえば「万葉仮名」を元号として使用、表記できるはずもない。
今回、政府が新元号を選定するなかで検討した6つの案が報道されている。国書からは「令和」のほかに「英弘」「広至」、中国の古典(漢籍)からは「万和」「万保」「久化」だとされている。安倍首相は「万葉集」を選んだ理由として「天皇や皇族、貴族だけでなく、防人(さきもり)や農民まで、幅広い階層の人々が詠んだ歌が収められ、我が国の豊かな国民文化と長い伝統を象徴する国書」だとしている。
また、それぞれの元号案には、どれにも、なにがしかの意味があるらしいが、安倍首相は新元号「令和」について、梅見の宴席で詠んだものであることから「厳しい寒さの後に春の訪れを告げ、見事に咲き誇る梅の花のように、一人一人の日本人が明日への希望とともに、それぞれの花を大きく咲かせることができる、そうした日本でありたいとの願いを込め」決定したとの談話を発表した。
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しかし、一般に「令」は上から下に「命令」するときに使用する文字であり、安倍首相談話にある「人々が美しく心を寄せ合う中で文化が生まれ育つという意味」と理解するには無理があるのではないか。まさに「美しい国」をめざすとして、憲法改悪と「戦争をする国」づくりをすすめる安倍政権の願望を強く反映した新元号である。
国書からの引用にこだわり、新元号制定で天皇による国民統合をすすめる安倍政権の政治利用に断固反対しよう。とくに元号はその天皇一代のものであり、必然的にわれわれの生きる連続した時間を切断し、天皇による均質な時間と空間の支配を強制しようとするものである。「平成」から「令和」という時間の切断になんら歴史的必然性はない。さらに5月1日の新天皇即位にさいして、公的施設での日の丸掲揚を指示する自治体もある。われわれは、この間、行政文書での元号の強制に反対し、卒業証書などへの西暦併記にとりくんできた。また、教育現場での日の丸掲揚や君が代斉唱にも反対してきた。天皇制の強化につながる国旗・国歌の強制を許さないとりくみを強化しよう。
君が代・日の丸の強制反対は、かつての侵略戦争への反省と深くつながっている。昭和天皇のもとで、侵略戦争が遂行されたことは、まぎれもない歴史的事実である。中国や朝鮮半島をはじめアジア近隣諸国での日本軍の野蛮な行為による甚大な被害、東京や大阪をはじめとした空襲と、沖縄地上戦での多くの民間人の犠牲など、そのすべての戦争責任を軍部におしつけることで、敗戦後も天皇制を存続させてきた。さらに敗戦後の新憲法のもとで与えられた象徴天皇の地位にあることで、昭和天皇は戦争責任と謝罪からあらかじめ排除されることになったのである。しかも、新憲法による象徴天皇制のもとで、この国の民衆全体が戦争責任と謝罪を曖昧にしたまま、敗戦後70余年を経過させてしまったこともまた厳しく反省しなければならない。
今日、従軍慰安婦に関する「河野談話」や戦後50年の「村山談話」さえ否定する安倍政権の体質は、こうした天皇制のあり方、民衆の心理と強く結びついているのである。われわれは、こうした敗戦後の大衆の心性と、全国水平社の戦争協力の問題などを批判的に総括し、天皇の役割強化や天皇制の政治利用にたいして反対する広範なとりくみをすすめていこう。
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初代天皇といわれる神武天皇などの神話時代のことはともかく、天皇を万世一系として、国体(政治構造)の不変性を政治的に権威づける意図が強く主張されたのは、やはり明治天皇以降である。それは、国民統治のためであり、当時の列強諸国との対立から戦争へと向かうための必要な存在であり、制度であった。明治政府が1871年に出した穢多非人の呼称と身分を廃止するという「解放令」もまた、形式的には天皇による身分差別からの解放であると同時に、実際は国家権力による国民統合の措置であったために、部落問題が解決することはなかったのである。
侵略戦争であった第2次世界大戦でも、昭和天皇のもとで国民総動員がすすめられ、「天皇の赤子(せきし)」として、多くの若者が犠牲になった。全国水平社もそうした時代のなかで戦争協力を余儀なくされたのである。こうした痛苦の歴史を総括し反省するなかで、敗戦後の部落解放運動は、差別と戦争に反対する闘いをすすめてきたのである。
われわれ部落解放運動のとりくみ方向は鮮明である。解放の父として慕われた松本治一郎委員長が「貴族あれば賤族あり」として、新憲法のもと参議院副議長時代に天皇の神性を否定し、カニの横ばいを拒否したように、天皇と天皇制を無化していくことが求められているのである。
今回の天皇代替わりは、生前退位ということもあり、新元号などによる祝賀キャンペーンが続き、平成天皇の被災地訪問や「護憲発言」などをとりあげることによって、天皇個人を賛美する風潮も強まっている。こうした象徴天皇制を今後も存続させようとする、われわれをふくめた現代社会のなかの日常性と思想性を問わなければならない。
5月1日の新天皇即位やその後に皇位継承儀式とされる宗教儀式としての大嘗祭などをめぐって、祝賀ムードのなかですすめられるであろう、天皇と天皇制の強化や政治利用を許さない広範なとりくみをすすめよう。
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