「解放新聞」(2019.05.13-2906)
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狭山事件再審弁護団は4月1日、再審請求の新証拠として、原聰・駿河台大学教授と厳島行雄・日本大学教授による「狭山事件における捜索・差押に関する心理学実験」と題する鑑定書(原・厳島鑑定)を提出した。原・厳島鑑定は心理学者が探索についての実験をふまえて、狭山事件における証拠の万年筆の発見経過の疑問を指摘したものである。
狭山事件では、被害者の万年筆が自白にもとづいて石川さんの自宅から発見されたとして有罪の証拠とされた。しかし、万年筆が発見されたのは事件後2か月近く経過した6月26日で、警察はそれ以前に2度にわたって石川さん宅の家宅捜索をおこなっていた。
しかも、3回目の捜索で万年筆が発見された場所は、石川さんの家のお勝手場の入口の鴨居の上で、床からの高さ175・9センチ、奥行き8・5センチという場所であった。このような場所に万年筆が置かれていたとしたら警察官らが家宅捜索をおこなったときに見落とすとは考えられないと、当初から弁護団は指摘していた。しかし、東京高裁の有罪判決は、「(発見場所の)鴨居は背の低い人には見えにくいから捜索の際に警察官らは見落とした」とし、これまでの再審を棄却した裁判所の決定でも「明るさや見る位置によっては見えにくい(場所なので見落とした)」「鴨居は見落とすような場所」などとして、万年筆の発見経過に疑問はないとされた。
狭山事件は警察庁長官が辞任し、国会でもとりあげられ、埼玉県警はじまっていらいといわれた大事件だ。家宅捜索では県内の各警察署から経験を積んだ警察官が集められ、石川さんを逮捕した5月23日の1回目の捜索は12人の警察官で2時間17分、再逮捕の翌日の6月17日の2回目の捜索では14人の警察官が2時間8分もかけて捜索をおこなっている。とくに2回目の家宅捜索では、目的物として鞄、腕時計、万年筆、財布が具体的にあげられている。徹底した家宅捜索がおこなわれたことは明らかだ。
有罪判決の通り、自白によってはじめて万年筆が発見されたというのであれば、こうした警察の捜索がおこなわれたにもかかわらず、そのときに鴨居の上の万年筆が発見されなかったということになる。
今回提出された原・厳島鑑定では、狭山現地に復元された石川さん宅のお勝手場を使って大学生による探索実験をおこなっている。お勝手内に、鴨居の上の万年筆をふくめてボールペン、財布、大学ノート、腕時計の5点を置いておき、被験者の大学生に警察の捜索マニュアルにもとづいて捜索のやり方を事前に説明したうえで、5点を探すという心理学実験である。その結果、12人の大学生全員が30分以内に鴨居の上の万年筆を発見した。実験に参加した大学生は身長が170センチ以下で、狭山事件の内容について知らないことを確認している。家宅捜索の経験もない素人の大学生でも探索という行為で30分以内に鴨居の上の万年筆を発見したという実験結果をふまえれば、狭山事件で、1、2回目の警察官による捜索時に鴨居の上に万年筆があったにもかかわらず発見されなかったということを合理的に説明できないと鑑定書は結論づけている。
この実験結果は、「鴨居の上は見えにくい場所なので捜索時に万年筆が発見されなかった」というこれまでの裁判所の判断が誤っていることも示している。目的の物を探すという行為をおこなっている場合、見えにくい場所かどうかは問題ではないからだ。
狭山事件で実際におこなわれた捜索では複数の警察官が、逮捕した被疑者の家を、万年筆を探す目的をもって2時間も探している。1、2回目の家宅捜索のときに鴨居に万年筆があったとすれば警察官らが発見していたはずであり、発見されなかったということは、このとき鴨居に万年筆はなかったといわざるを得ない。事件当時、家宅捜索に従事した警察官らに弁護団が面会調査をおこなったところ、「(捜索時に)鴨居に手を入れて調べたが何もなかった」「あとから万年筆が発見されたと聞いて不思議に思った」という証言も明らかになっている。
万年筆については、昨年、下山第2鑑定が提出され、蛍光X線分析による元素の分析で、石川さんの家から発見された万年筆には被害者が事件当日使っていたインクが入っていないことが科学的に明らかにされている。万年筆は被害者のものではない疑いもあるのだ。これらの新証拠を総合的にみれば、万年筆は自白によってはじめて被害者の所持品が発見された「秘密の暴露」とはとうていいえないであろう。自白通り万年筆が発見されたことで、自白が真実であり、石川さんが犯人であることを示すとした有罪判決には明らかに合理的疑いが生じている。東京高裁第4刑事部(後藤眞理子・裁判長)は、弁護団が提出した新証拠を総合的に評価し、狭山事件の再審を開始すべきだ。
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2019年4月22日、東京高裁で第39回三者協議がひらかれ、東京高裁第4刑事部の後藤裁判長と担当裁判官、東京高等検察庁の担当検察官、弁護団からは中山主任弁護人、中北事務局長をはじめ14人の弁護人が出席した。弁護団は、原・厳島鑑定の意義を説明し、万年筆の疑問について下山第2鑑定などの新証拠を総合的に検討するよう求めた。弁護団は足跡に関する新証拠を今後提出する。一方、検察官は、下山第2鑑定にたいする反証を8〜9月頃に提出するとしており、弁護団としては、検察側から新証拠にたいする反証が出されれば全面的に反論するとしている。次回の三者協議は9月上旬の予定だ。
弁護団はこの間、福江鑑定、下山第2鑑定、平岡鑑定、齋藤指紋鑑定、原・厳島鑑定など重要な新証拠を提出している。提出された新証拠は221点にもおよぶ。第3次再審ではなんとしても鑑定人尋問を実現し、再審開始をかちとらねばならない。そのためにも、これらの新証拠について学習・教宣を強化し、石川さんの無実と有罪判決の誤りをより多くの市民に広げていくことが重要だ。
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狭山事件が発生し石川さんがえん罪におとしいれられて56年が経過する。なぜ無実の石川さんがえん罪におとしいれられたのかをもう一度考えたい。事件後、死体発見現場近くで発見されたスコップが被差別部落出身のIさんの経営する養豚場のものと発表され、被差別部落の青年に捜査の的がしぼられていった。そして、そのなかから石川さんが狙い打ちされ別件で逮捕、「脅迫状と筆跡が一致」などと大大的に報じられ、1か月後取り調べで犯行を認める自白をしたとされた。有罪判決は、捜査にも取り調べにも問題はないとした。
しかし、新証拠によって、スコップがIさんの養豚場のものとも死体を埋めるために使われたものとも特定できないことが明らかになった。石川さんに脅迫状を書いたことを自白させ、筆跡が類似するという鑑定結果が恣意的につくられていったことも新証拠で明らかになっている。証拠開示された取調べ録音テープやそれを分析した心理学者の鑑定によって、石川さんが自白を強要され、ウソの自白がつくられていったことも明らかになった。部落差別にもとづく見込み捜査によって、石川さんが狙い打ちされ、えん罪におとしいれられていったことを忘れず、なんとしても石川さんのえん罪を晴らすべく再審実現に向けた闘い、反差別・人権の闘いの強化をはかりたい。
石川さんが不当逮捕されて56年を迎える5月23日には午後1時から東京・日比谷野音で狭山事件の再審を求める市民集会がひらかれる。多くの皆さんの参加をよびかけたい。また、各地でも集会や学習会、街頭宣伝をおこない、56年におよぶえん罪の真相と石川さんの無実を訴え狭山事件の再審開始を求める世論を広げよう! 映画「獄友」の上映運動をすすめよう! えん罪をなくすための司法改革を求めていこう
とくに再審における証拠開示の保障や再審開始決定にたいする検察官の抗告を禁止することを盛り込んだ再審法の改正を国会に求めていこう!
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