「解放新聞」(2019.06.03-2909)
【奈良】 「まさかこんなに大きな置土産をいただけるとは思ってもみなかった」と、インターンとして博物館に受け入れたドイツ人留学生のヨハネス・バレンティン・コーフさんの功績に驚きを隠せないでいるのは、水平社博物館の駒井忠之・館長だ。
水平社博物館が彼をインターンシップとして受け入れたのは、2月26日のこと。受け入れを決める前、ドイツ語はいうまでもなく、英語のできる職員もいないなか、また日本に来てまだ半年ということもあり、日本語があまり流暢には話せない彼とどのように会話を楽しむか、それがもっとも不安だったという駒井館長だったが、それでもインターン先が決まらずに困っていた彼に、手を差し伸べずにはいられなかったという。それから3月末までの約1か月間、彼に依頼した仕事は、水平社博物館のリーフレットやホームページのドイツ語訳と、水平社が世界で報じられた記事の発掘だった。
ドイツ語、英語、フランス語、スペイン語を使いこなす彼は、博物館の一室でそれらを駆使して、世界中の図書館や資料館、データベースを手当たりしだいに調査。数点でも発見されればと考えていた駒井館長の予想を大きく裏切り、彼が発見した記事は約40件にのぼった。まさに世界を股にかけて調査を展開した彼によって、アメリカ、フランス(旧フランス領インドシナふくむ)・スペイン・ドイツ・オーストリア・イタリア・スイス・アイスランド・カナダ・オーストラリア・ニュージーランド・コロンビアで報じられた記事が発見され、それらは博物館の財産となった。
会話に一抹の不安を抱いていた駒井館長だったが、片言の英語と電子辞書という便利な道具のおかげで心を通わせることができたとのこと。マグロとキツネそばが大好きだという彼に、博物館からお土産として箸をプレゼントしたそうだが、「ハイデルベルクに帰ってしまった彼の置土産はよりグレイトで、わらしべ長者の気分だ」と、うれしさを顔に滲ませていた。
発掘された記事の多くは1927年から1928年に掲載されたもので、内容は北原泰作の天皇直訴事件に関するものだった。今後の翻訳と研究が待たれる。
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