「解放新聞」(2019.08.05-2918)
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参議院選挙が終了した。
全体の議席では、自民党は単独で過半数をとることができず、公明党の議席と合わせて、与党として過半数の議席を獲得した。しかし、選挙前に争点にすると明言していた改憲問題では、改憲の国会発議に必要な3分の2の議席は、改憲に積極的な日本維新の会の議席を合わせても届かなかった。そもそも自民党の獲得議席は、改選前から9議席も減らしているのである。
「自公勝利」などという報道が一部にあったが、議席を減らす結果となって、勝利などあり得ない。自民党機関紙『自由民主』でさえ、1面の見出しは「政策実行力を信任」としている。また、同紙の「結果検証」でも「選挙区、比例代表ともに堅調な戦い」との評価である。今回の参議院選挙での大きな争点は、安倍首相が応援演説でくり返したように、任期中の改憲を強行するための3分の2の議席を維持できるかどうかであった。議席を減らし、改憲勢力の3分の2の議席数を維持できなかったことは、人権や平和の確立、民主主義の実現をめざす政治勢力の闘いが一定の成果をあげたものといえる。
選挙区での闘いでは、1人区での勝敗が注目されたが、前回の11議席にはおよばなかったものの、野党統一候補が10議席を獲得した。とくに、推薦候補として支援した新潟・長野・滋賀・大分のほか、自民党が2議席独占を狙った広島でも推薦候補が当選を勝ちとった。また、愛知では、推薦した国民、立憲の2候補とも当選、そのほか埼玉・神奈川・静岡・福岡でも推薦候補が当選、沖縄では、辺野古新基地建設反対の候補が当選し、あらためて沖縄県民の新基地建設反対の民意がはっきりと示された。
比例区では、推薦した小沢まさひと(JP労組)、岸まきこ(自治労)、みずおか俊一(日教組)、もりやたかし(私鉄総連)、吉川さおり(情報労連/NTT労組)、吉田ただとも(社民党前党首)の6候補が当選した。この間、中央委員会での推薦決定および都府県連ごとの支援地域の確認以降、各候補の教宣物の配布や支援集会、支部訪問など、選挙戦での支持拡大のとりくみに感謝したい。
なお、れいわ新選組の比例区から重度障害者と難病である筋萎縮性側索硬化症(ALS)患者の2候補が当選した。本会議場の改修などがおこなわれることになっているが、委員会審議、意思表示や議決の方法など、さまざまな工夫が必要である。社会や政治の多様性を具現化する方向での支援を強めていこう。
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安倍首相は、憲法改悪のための改憲勢力の議席確保とみずからの首相4選を実現するために、衆参同日選挙も視野に入れながらの政治日程をすすめてきた。とくに、米国とイランの緊張緩和を「仲介」するとした6月のイラン訪問では、逆に米国追従の政治姿勢を批判され、しかも訪問中に、ホルムズ海峡で日本企業タンカーが砲撃され、かえって米国との緊張が高まるなど、自画自賛する安倍外交も失敗に終わった。
また、6月下旬に大阪で開催されたG20(金融世界経済に関する首脳会議)では、米国第一主義の姿勢を崩さない米国のトランプ大統領の主張によって、自由貿易の原則維持では一致したものの、反保護主義の文言が首脳宣言に盛り込まれなかった。G20直後には、トランプ大統領は、韓国の文在寅大統領とともに、板門店で朝鮮労働党の金恩正委員長と会談したが、安倍首相には事前に知らされず、安倍外交の失敗が続いた。
さらに選挙直前には、老後の生活資金について「厚生年金だけでは2000万円が不足」「老後のために投資を」とした金融庁審議会の報告書をめぐって、麻生太郎・金融担当大臣(財務大臣)が「政府のスタンスと違う」と表明、受け取らないとしたことに批判が集中した。報告書そのものは麻生担当大臣が諮問したものであり、厚生労働省の分析にもとづいて試算した結果である。
そもそも公的年金と投資制度の活用は、安倍政権の方針でもある。「人生100年」「生涯現役社会」として、公務員の定年延長などを先行的に検討しているが、実態は、年金支給時期の引き延ばしや、支給額の削減など、年金制度の破綻をごまかすための措置に他ならない。安倍政権のもとでは、年金給付額を減らし続ける一方で、年金積立金を資金として株価を高騰させるために株式市場に投入している。アベノミクスが成果をあげているかのように、株価をつり上げる資金としているわけで、今回の年金制度の破綻も、すべてアベノミクスの失敗がその背景にある。
われわれは、こうした安倍政権のいのちや生活をないがしろにし、差別や貧困、格差を拡大、固定化する反人権主義、国権主義の政治を変革するために、今回の参議院選挙のとりくみの成果をふまえ、闘いをさらに前進させよう。
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参議院選挙後、安倍首相は改憲の国会発議に必要な3分の2の議席を得られなかったにもかかわらず、あくまでも憲法改悪をめざすことを明言している。任期中の改憲としつつ、党規約を無視した首相4選も視野に入れながら、そのためだけに、年内にも国会解散―総選挙を強行する可能性もある。
今回の参議院選挙では、48・80%という低い投票率の問題が指摘されている。50%未満の投票率は、95年の参議院選挙の44・52%につぐ、過去2番目の低投票率である。しかも、10代の投票率が31・33%とかなり低い数字である。次代を担う若者の低い投票率は、この間の選挙でも同様である。有権者である自分たちがこれからの社会のありようを選択する権利でもあり義務でもある。若い世代の選挙への無関心は大きな社会問題である。
さらに若い世代の安倍政権にたいする支持率が比較的高いという調査結果もある。現状に満足しているのか、自分ひとりだけの投票では政治は変わらないとの思いがあるのかもしれないが、生活と深く結びつく政治のあり方に関心をもってもらう工夫も必要である。
こうした若者の社会や政治への無関心が、ヘイトスピーチのような差別や暴力の煽動を許すだけでなく、インターネット上での画面のなかだけで飛び交う差別情報を面白半分で拡散するなど、安倍政権のもとでの差別排外主義の台頭の下支えにもなっている。
先の安倍首相のイラン訪問時の日本企業などが運行するタンカー砲撃にたいして、米国は「有志連合」として日本にも参加を要請している。憲法違反の「戦争法」にもとづく自衛隊の派兵を許してはならない。今回の参議院選挙で示されたものは、安倍政権のもとでの憲法改悪には反対という有権者の意思である。
今回の参議院選挙の成果をさらに積みあげ、人権と平和の確立、民主主義の実現をすすめる政治勢力の結集に向けて、部落解放運動も大きな役割を果たすことができるように全力で闘いをすすめよう。
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