「解放新聞」(2019.08.12-2919)
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参議院選挙が終わり、安倍首相が争点とした改憲については、改憲勢力の3分の2の議席確保を阻止することができた。しかも、自民党は9議席を減らし、単独での過半数も維持できなかった。1人区である全国32選挙区でも、新潟や秋田、岩手のほか、滋賀、大分、沖縄など10選挙区で野党統一候補が当選した。
とくに沖縄での勝利は、県知事選や衆議院3区補選と同様に、辺野古新基地建設反対の民意があらためて示された。政府は新基地建設をただちに断念すべきであり、われわれも沖縄の闘いに連帯して、さらにとりくみを強めていこう。
今回新たに議席を確保した新政党であるNHKから国民を守る党の立花孝志・代表は、東京都葛飾区議会議員時代に、インターネット上の動画で部落問題でのヘイトスピーチをくり返してきた人物である。この間、統一自治体選挙でも候補者を出し、東京都内の区議選では17人が当選している。こうした差別排外主義勢力が改憲推進役として、安倍政権と結託することも警戒しなければならない。さらに、統一自治体選挙では日本第一党の桜井誠(本名・高田誠)・党首などが、神奈川県川崎市内をはじめ、各地で「公職選挙法」を悪用して、在日コリアンを攻撃する悪質なヘイトスピーチを続けた。
この間、こうした選挙演説での差別言動にたいしては、われわれも全国大会などで論議をすすめ、「部落差別解消推進法」や「ヘイトスピーチ解消法」の制定をふまえて、法務省や総務省への要請を続けてきた。法務省は、本年3月に「選挙運動、政治活動等として行われる不当な差別的言動への対応について」とした事務連絡を通知し、選挙活動や政治活動の自由の保障は最大限認められるべきであるが、ヘイトスピーチなどが「選挙運動等として行われるからといって、直ちにその言動の違法性が否定されるものではありません」との見解を示し、総務省もまた、国会審議のなかで、そうした趣旨をふまえて対応すると答弁した。また、公明党も内閣官房長官に申し入れするなど、一定のとりくみの前進があった。
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今回、香川県では参議院選挙の立候補説明会で、県人権・同和政策課が、この法務省事務連絡とあわせて、3月に法務省人権擁護局調査救済課長名で出された「インターネット上の不当な差別的言動に係る事案の立件及び処理について」の2通の文書を配布し、内容を説明した。これは香川県連がとりくみをすすめてきた県議会議員選挙での選挙公報差別事件をふまえて、県人権・同和政策課が県選挙管理委員会との協議をすすめてきたものである。
各都府県連でも、こうしたとりくみを先進例として、人権担当部署や選挙管理委員会への申し入れをすすめ、選挙運動などでの「公職選挙法」を悪用した差別言動を許さない活動を拡げていこう。
さらに、昨年12月の法務省人権擁護局調査救済課長名で出された「インターネット上の同和地区に関する識別情報の摘示事案の立件及び処理について」に関しては、鳥取ループの「部落探訪」にたいする削除に向けたとりくみのなかで、全国的に活用していかなければならない。法務省の説明では、全国の法務局などへの「部落探訪」の削除要請は、都府県にまたがる事案として、東京法務局で集約して対応するとしている。
東京法務局は、16年12月に「全国部落調査」復刻版の出版企画にたいして、鳥取ループに説示をおこなっている。「部落探訪」は、この「全国部落調査」復刻版にもとづいて、未指定地区や事業未実施地区をふくめた全国の被差別部落のようすを撮影して、インターネット上で動画などで拡散しているのである。東京法務局は説示を無視したこの差別行為にたいして、より厳しい措置をとるのは当然のことであり、放置することは許されない。
「インターネット上の同和地区に関する識別情報の摘示事案の立件及び処理について」では、これまでの個人を特定しなければ人権侵害として削除要請しなかったものを特定の地区を被差別部落とするインターネット上の情報を削除要請の対象とするように対応を見直したものである。われわれは、法務省にたいして、「部落探訪」への厳しい措置をひき続き強く要請するとともに、総務省へもプロバイダーへの指導の強化や、メルカリでの差別図書や壬申戸籍の売買のような事案についても申し入れをしている。「部落差別解消推進法」制定をふまえた実効性のある措置がとられるように、さらにとりくみを強化していこう。
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「部落差別解消推進法」の具体化に向けて、全国で条例制定のとりくみがすすんでいる。都府県段階では、「奈良県部落差別解消条例」をはじめ福岡県や東京都でも条例が制定された。また、東京都国立市の「平和人権基本条例」や和歌山県湯浅町の「部落差別をなくす条例」など、市町村段階でも条例制定がすすんでいる。一部でこうした条例に反対する動きがあるが、鳥取ループ・示現舎などの部落差別を公然とおこなうような悪質な差別言動を放置することはできない。
「部落差別解消推進法」は部落差別がいまだに存在していることをふまえ、部落差別が許されない社会悪であることをあらためて明らかにしたものである。もちろん「部落差別解消推進法」制定によって、部落問題がすぐに解決するわけでないのは当然である。われわれは「部落差別解消推進法」を具体化することで、部落差別はもちろん、すべての差別を許さない社会の創造に向けたとりくみをすすめていかなければならない。「部落差別はもう解消した」「部落差別を固定化する」などと、厳存する部落差別と向き合えず、部落差別を放置するような無責任なことは許されない。
今日、安倍政権のもとで、貧困と格差の拡大固定化がすすんでいる。一方、その根源に目を向けることなく、インターネット上の差別言動やヘイトスピーチのように、部落民や在日コリアン、障害者などにたいして公然と差別や暴力を煽動することでしか、みずからの不満や不安を解消することができない社会情況が生み出されている。インターネット上の差別情報への対応は、部落解放運動にとって重要な課題である。自治体でのモニタリング活動を全国的に拡げることが必要である。また、今日の若者たちに、部落差別の実態とともに、部落解放をめざす、生き生きとした活動を情報発信するとりくみを強めよう。
われわれは、こうした差別排外主義の台頭を許さず、いっさいの諦観を拒否し、差別糾弾の闘いを強化し、部落解放運動を大きく前進させるために奮闘しよう。
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