「解放新聞」(2019.08.26-2920)
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6月25日付けで最高裁判所第1小法廷(小池裕・裁判長)は大崎事件の第3次再審請求で、鹿児島地裁、福岡高裁宮崎支部で出された再審開始決定を取り消し、再審請求を棄却する決定をおこなった。この最高裁の暴挙にたいして私たちは強く抗議する。
1979年に鹿児島県大崎町で男性の遺体が自宅の牛小屋の堆肥のなかから発見された。男性は3日前に酒に酔って自転車ごと用水路に転落し、道路上に倒れているところを近所の人が助けて家に運んだが、その後は行方不明だった。警察は近親者の犯行として男性の兄、その妻だった原口アヤ子さんら4人を逮捕した。原口アヤ子さんは一貫して犯行を否認したが、懲役10年の有罪判決が確定し、満期出所後に再審を請求した。第3次再審請求で鹿児島地裁は2017年6月、再審開始を決定。検察官が即時抗告したが、2018年3月に福岡高裁宮崎支部も再審開始決定を維持した。これにたいして検察官が最高裁に特別抗告を申し立てたのだ。今回の決定は検察官の特別抗告には理由がないとしながら、職権で調査するとし、地裁、高裁の再審開始決定を取り消し、高裁に差し戻すのではなく、みずから再審請求を棄却するという前例のない決定だ。地裁、高裁の決定は、いずれも鑑定人の尋問をおこない、それぞれ詳細な認定をしたうえで再審開始を認めたが、今回の最高裁決定は全文で14㌻、そのうち理由はわずか5㌻というもの。検察の特別抗告に理由がないというなら棄却し再審開始を確定させるべきだし、事実調べもせずに新たな認定をして再審請求を棄却する決定をするというのは手続き的にみてもあまりに不公平・不当ではないか。
地裁、高裁の再審開始決定は死因を転落による出血性ショックとした弁護側の法医学鑑定である吉田鑑定を再審理由としていた。この吉田鑑定について最高裁決定は、吉田鑑定人は死体を直接検分しておらず、遺体解剖時の写真から鑑定しているとして証明力がないとしている。しかし、このようないい方をすれば再審請求で別の法医学者が新たな鑑定をしても意味がないことになる。再審請求の新証拠のハードルを不当に高くしており、「疑わしきは被告人の利益に」という刑事裁判の鉄則を再審においても適用するとした最高裁の判例に反していることは明らかだ。また最高裁決定は吉田鑑定について「死亡時刻」の検討が不十分として否定しているが、そもそも吉田鑑定は争点であった「死因」を鑑定したものであり、最高裁は1年あまりの審理期間で「死亡時刻」という論点について弁護側の意見も聞かず鑑定人の尋問もしていない。最高裁は事実調べをしないというのなら、みずから棄却決定をおこなうこともできないはずだ。新証拠の証明力に疑問があるというなら高裁に審理を差し戻せばいいのであって、こうした再審開始決定の根拠となった新証拠の否定は「決めつけ」「不意打ち」であり許されない。一方で最高裁決定は殺害時刻を「午後11時」とし、被害者はそれまで生きていたとしたうえで、死体遺棄した犯人は殺害をした犯人であると決めつけ、死体を堆肥に埋めた犯人は原口アヤ子さんの親族以外に「想定し難い」と断定的に認定しているが、根拠は何も示されていない。また有罪の根拠となった共犯とされた人たちの自白についても「信用性は相応に強固なもの」などと書かれているが具体的な説明は何も書かれていないのだ。最高裁は今回の決定をいち早くホームページに掲載しているが、国民に納得のいく説明をつくした決定とは到底いえない。一方的な決めつけでえん罪ではないと宣告しただけであり、このような決定がまかりとおるならば、多くの再審も認められなくなるであろう。誤った裁判から無実の人を救うためにある再審制度は人権の制度である。今回の決定を出した最高裁判事や調査官たちは一貫して無実を叫び続ける92歳の原口アヤ子さんの姿を見たことはあるのだろうか。人権感覚がまったくないといわざるを得ない。今回の最高裁決定が第1小法廷の判事全員一致の決定である。私たちは、国民審査で×を付けるだけでなく最高裁のあり方を批判し改革を求める必要がある。
今回の最高裁決定にたいしては、日弁連だけでなく各地の弁護士会による抗議の会長声明が出され、多くの新聞の社説が批判している。また刑事法学者92人がただちに抗議声明を発表している。これらは今回の最高裁決定の問題の重大性を示している。私たちは、大崎事件の最高裁決定に強く抗議するとともに、再審の逆流を許さず、狭山事件の再審開始を求める闘いをさらに強化し、司法のあり方、再審のあり方を変える運動を幅広くすすめていかなければならない。大崎事件弁護団は最高裁決定を許さず第4次再審請求を準備している。今後の大崎事件再審の闘いに連帯していきたい。そして、再審開始決定にたいする検察官抗告の禁止、再審における証拠開示手続きの確立など「再審法」改正を求めていこう。
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狭山事件第3次再審請求の第39回三者協議が4月にひらかれ、検察官は弁護団が提出した下山第2鑑定にたいする専門家による反証を今後提出するとのべた。また、コンピュータによる筆跡鑑定で脅迫状の筆者と石川さんは別人と結論づけた福江鑑定にたいして検察官が科学警察研究所技官による意見書を反証として提出し、弁護団は福江鑑定人による反論の意見書(福江意見書)を提出したが、検察官はこの福江意見書にたいして、さらに反証を提出するとしている。検察官は、これらの反証の提出時期については明らかにしていないが、弁護団としては、検察官からこれらの反証が出されれば証拠によって徹底的に再反論することにしている。布川事件などこれまでの再審事件では鑑定人尋問がおこなわれ再審開始にいたっており、弁護団ではこの間、鑑定人尋問の請求に向けて討議をすすめている。
今後、弁護団の鑑定人尋問の請求にあわせて事実調べ・再審開始を求める世論を盛りあげることが必要だ。再審をめぐるこの間の動きが楽観できないものであることもふまえ、鑑定人尋問を実現し、なんとしても再審開始決定をかちとらねばならない。
9月19日には全国狭山活動者会議・住民の会交流会を開催し弁護団の報告を受け当面の闘いを協議する。
東京高裁(寺尾正二・裁判長)が石川さんに無期懲役判決をして45年を迎える10月31日には、東京・日比谷野音で狭山事件の再審を求める市民集会がひらかれる。多くの参加をよびかけたい。また、各地においても集会や学習会、街頭宣伝をおこない、56年におよぶえん罪の真相と石川さんの無実を訴え狭山事件の再審開始を求める世論を広げよう! 映画「獄友」の上映運動をすすめよう! えん罪をなくすための司法改革を求めていこう! とくに再審における証拠開示の保障や再審開始決定にたいする検察官の抗告を禁止することを盛り込んだ「再審法」改正を国会に求めていこう!
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