「解放新聞」(2019.10.21-2927)
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「子どもの権利条約」が国連総会で採択され30年を迎えた。世界のすべての子どもの基本的人権を国際的に保障するために定められた条約であり、「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」を保障している。日本はこの条約を批准して25年となるが、子どもをとりまく状況は依然として厳しい。
1月にはジュネーブで、約9年ぶりとなる国連子どもの権利委員会による第4回・第5回日本政府報告書審査がおこなわれ、2月に総括所見が公表された。総括所見は、日本が緊急措置をとるべき分野として①差別の禁止②子どもの意見の尊重③体罰④家庭環境を奪われた子ども⑤リプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)および精神保健⑥少年司法に関する課題をあげている。とくに、差別の禁止として、包括的な差別禁止法の制定、非婚の両親から生まれた子どもの地位に関する規定をはじめ子どもを差別しているすべての規定の廃止、アイヌ民族など民族的マイノリティ、被差別部落出身者の子ども、在日コリアンなど日本人以外の出自の子ども、移住労働者の子ども、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、インターセックスである子ども、婚外子や障害のある子どもなどにたいする差別の撤廃と防止に向けた施策の強化を政府に求めている。
私たちもまた、「部落差別解消推進法」をはじめ、「アイヌ施策推進支援法」「障害者差別解消法」「ヘイトスピーチ解消法」「DV禁止法」「子どもの貧困対策法」といった個別の差別問題・人権問題にかかわる法律などの成果や課題を共有し、包括的な人権の法制度確立に向けた協働のとりくみをすすめよう。
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ほかの課題についても、深刻な懸念が表明され、自由に意見を表明する権利を子どもが行使できる環境の提供や、司法、行政、地域、学校などでの子どもの意見の尊重、家庭をはじめ、あらゆる場面での体罰の法律での全面的禁止が指摘されている。また、施設から里親をふくめた家族的養護への転換、虐待等で子どもを家族から分離するか否かの決定に司法審査を導入するなど、家庭環境を奪われた子どもへの対応改善、早期妊娠、性感染症の防止をめざす政策と教育の実施、犯罪の防止措置の実施と子どもの終身刑、長期拘禁の再検討などの勧告が出された。
さらに、子どもへの暴力、性的な虐待や搾取が高い頻度で発生していることに懸念を示し、対応策の強化を求め、虐待事件の捜査と、加害者の厳格な刑事責任追及が必要としている。昨年3月に東京都目黒区で5歳の女児、今年1月には千葉県野田市で10歳の女児が死亡するなど悲惨な事件が続いており、子どもの権利委員会のサンドバルグ委員は、千葉の事件について「起きてはならない残念な事件だった。誰か大人が反応すべきだった」とのべ、日本社会全体で向き合うべきだと指摘した。勧告では、子どもでも虐待被害の訴えや報告が可能な制度創設が急務だと指摘するとともに、虐待防止に向けた包括的な戦略策定のため、子どももふくめた教育プログラムの強化も要請している。
この間の虐待事件では、児童相談所などの不手際があいついで明らかになり、抜本的な対応策の強化が求められ、6月に、親の子どもへの体罰の禁止と、児童相談所の体制強化を盛り込んだ改正「児童虐待防止法」と改正「児童福祉法」が成立し、来年4月から一部を除いて施行される。急増する虐待相談に対応する児童相談所の質、量ともに向上させるとしているが、人材確保や質向上には時間も財源も必要だ。多岐にわたる業務にパンク寸前という児童相談所が少なくない現状のなか、法の改正だけでは虐待はなくならない。
公的機関だけでなく、さまざまな機関や人が連携する重要性をいま一度認識し、児童虐待のリスクを未然に把握するとりくみをすすめよう。虐待の早期発見と関係機関との連携強化をすすめ、子どもの人権を尊重した子育てをする社会づくりが求められている。
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また、教育に関する勧告では、高校授業料「無償化」制度を朝鮮学校に適用するための基準見直しと、大学・短期大学入試へのアクセスに関して差別しないように要請している。こうしたなか、10月からはじまった幼児教育・保育の無償化でも各種学校に分類される外国人学校に付属する幼保施設が対象外とされた。無償化の対象外とされた全国88施設の各種学校のうち、朝鮮学校の附属幼稚園は40施設だ。政府は一律に各種学校を対象外にした理由を「(各種学校は)幼児教育を含む個別の教育に関する基準はなく、多種多様な教育を行っている」と説明している。しかし、各種学校は授業の時間数や施設などの基準を満たし、都道府県から認められた学校であり、無認可校はふくまれておらず、日本の認可保育園と同じ施設水準で子どもを受け入れているところが多い。
今回の無償化には国の定める設置基準を満たさない認可外保育施設も、5年間の経過措置としてではあるが対象となっているにもかかわらず、各種学校というだけで個別調査もせず一律に対象外としたことは許されない。さらに、こうした外国人幼保施設が無償化の対象となるため認可外保育施設として届け出ても、自治体が取り消したり、受理を拒む事例も明らかになっている。外国人労働者の受け入れ拡大をすすめる政府が、外国人労働者にとっても大切な外国人幼保施設を対象外とすることはあまりにも無責任だ。
幼児教育・保育の無償化には、認可外保育施設や企業主導型保育所やファミリー・サポート・センター事業なども対象とされるが、保育士数や保育計画が基準を満たさない施設で保育の質が確保できるのだろうか。子ども・子育て支援新制度のもとで、待機児童解消だけを目的にした規制緩和がすすめられている。
国連子どもの権利委員会から、保育の質の確保・向上をはかることも勧告されているが、政府のすすめる施策では、保育の質の向上は置き去りにされ、子どもの命と安全は確保されない。給付の公平性、保育の質の公平性をしっかり担保するとともに、保育の質を高め、子どもの安全確保をはかるためにも、保育士の処遇改善や規制緩和の見直しが必要だ。また、自治体の指導監督の強化、自治体の指導を受けても改善せずに運営を続けている施設への対策も求められる。子どもの「最善の利益」を考え、すべての子どもが0歳からの全面発達が社会的に保障されるとりくみを強化しよう。
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11月9〜10日の2日間、第42回全国人権保育研究集会を広島県福山市でひらく。広島県では9年ぶり5回目の開催。今回は、広島県解放保育連絡会によるオープニング「うたごえ」ではじまり、全体会では、広島県解放保育連絡会の沖村暁美・委員長から「尾道の解放保育の起こりとねがい」と題した特別報告と、ホロコースト記念館の大塚信・館長から「子どもたちに伝えたい―アウシュビッツが問いかけるもの」と題した記念講演をおこなう。2日目は、9会場にわかれ、第1〜8分科会では各テーマに沿った各地の実践報告、第9分科会「人権保育入門」では、解放保育・人権保育運動の歴史に学び、その継承・発展を目的とした学習講演をする。
国連子どもの権利委員会の総括所見をはじめ、「保育指針」の改定、待機児童問題、保育・教育の無償化、「子ども・子育て支援法」改定など保育制度がめまぐるしく変化するなか、増え続ける児童虐待や貧困問題など子どもや子育てをとりまく状況は厳しい。保育政策の動向をしっかり把握し、家庭や地域、保育所・幼稚園やこども園、小・中学校、行政、企業が一体となり、各地の子どもの状況や課題を共有し、すべての子どもの豊かな育ちを保障する保育政策を実現しよう。
すべての子どもの生きる権利とその成長を保障するとりくみとしてすすめてきた解放保育・人権保育運動の原点をふまえ、各地の実践に学び、議論と交流を深め、解放保育・人権保育運動を大きく前進させよう。
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