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主張

 

国内外の女性と連帯を強め、
「暴力・ハラスメント条約」の早期批准をかちとろう

「解放新聞」(2019.11.18-2931)

 今年6月10〜21日ジュネーブで、第108回ILO(国際労働機関)総会が開催され、日本をふくむ187か国の加盟国から政府関係者や労働者の代表などが参加した。総会では最終日の21日に、職場でのハラスメントを全面的に禁止した「暴力・ハラスメント条約」と、付属する勧告が圧倒的多数で採択された。条約では暴力やハラスメントを、身体的、精神的、性的、経済的被害を招く行為またはその脅威と定義されており、さらに、保護される対象となるのは雇用されて働く人に限らず、インターン実習生、ボランティア、雇用が終了した人、求人募集に応募してきた人など雇用形態にとらわれず幅広くふくまれる内容になっている。また、暴力とハラスメントが発生する場所についても、研修中、休憩中、出張中、通勤中、情報通信技術(コンピュータ、スマートフォンなど)のコミュニケーションなどもふくまれるなど、幅広く定義されており、画期的なものとなっている。また、締約国には職場での暴力やハラスメントを法律で禁じることを義務づけ、被害者救済の仕組みをつくることを求めている。さらに、雇用主には被害防止に向けて適切な措置をとることや、内部通報者が報復を受けることがないように防止策をとること、必要に応じて制裁を設けることなどを求める内容である。

 ILO総会でこの条約が採択された背景には、セクハラや性暴力を告発する「#MeToo(私も)」運動の高まりがある。女性だけではなく、すべての人にたいする暴力やハラスメントをなくそうと、セクハラ・パワハラ対策の法整備をすすめることをめざした条約の必要性が訴えられてきた。しかし、日本を代表してILO総会に参加した厚生労働省国際労働交渉官は、条約の批准を歓迎したものの、日本が批准をするかはさらに検討が必要とのべている。暴力とハラスメントのない社会を実現するための第一歩となるこの条約を、日本政府が一日も早く批准するように求めていこう。

 世界の各国で、すべての人にたいする暴力やハラスメントをなくそうという動きが強まるにもかかわらず、日本では、麻生太郎・財務大臣が昨年4月の前財務事務次官のセクハラ発言について擁護する発言をおこない、今年2月には、地元福岡県内の国政報告会で、社会保障費が膨らんでいるのは高齢者が悪いのではなく、「子どもを産まなかったほうが問題」と発言した。さらに、昨年8月に杉田水脈・衆議院議員が性的少数者(LGBTQ)当事者にたいして、「実際そんなに差別されているものでしょうか」として、LGBTQのカップルにたいして「子どもを作らない、つまり『生産性』がないのです」と寄稿した。これらの言葉は、当事者の人権と尊厳を傷つけるものであり、まさに安倍政権の女性やLGBTQらにたいする人権意識の低さが露呈されたものである。

 さらに、妊娠・出産にたいする職場での嫌がらせなどを受けるマタニティ・ハラスメント(マタハラ)も大きな社会問題になっている。男女がともに働き続け、仕事(ワーク)と生活(ライフ)の両立が可能となるような社会の実現をめざすためには、女性が出産や育児、介護をしながらも、仕事を辞めずに働き続けることができる環境整備や、男性にも取得しやすい育児・介護休業をはじめ各種休業制度の充実と待機児童の解消などが重要な課題である。また、労働者が性別によって差別されることがなく、「同一労働同一賃金」を実現し、職場で意欲と能力を充分に発揮できるような、それを実現させる社会意識の変革、制度やしくみの創造が必要だ。とくに、2015年に国連で全会一致で採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)のように、国際社会の共通目標として人権やジェンダー平等などがとりあげられており、世界的な動きとも連動させていくことが求められている。

 日本でも、性暴力を告発する「#MeToo(私も)」運動が各地で集会や抗議などをおこなっているが、あまり報道されていない。

 性暴力は、権力関係のなかで発生することが多い。性暴力を受けた被害者のほとんどが家族や知人に打ち明けることもできず、自分で通報し、治療を受け、裁判をおこすことはあまりにも負担が大きいため、表に出ない現状がある。また、告発したとしても、被害者には二次被害もふくめて、心身に多大な苦痛だけが残る場合が多いのである。

 現在、性暴力の被害者が二次被害を受けずに一か所で法的、医学的(心身両面で)、心理学的、社会的支援を受けて回復できる「ワンストップ支援センター」の設立が全国的にとりくまれている。そして、なによりも被害者にたいして経済的自立や財政的支援など、実効ある支援に向けた法整備とともに、ネットワークづくり、シェルター(一時避難所)や地域・職場でのカウンセリング体制を充実させるなど、暴力の根絶と被害救済に向けたとりくみをすすめていかなければならない。また、被害を受けているのは女性だけではない。男性も1割いるといわれており、同性間の性暴力に苦しむ人もいる。社会全体で、暴力が人権侵害であり犯罪であるとの認識を共有するためにも、地域・家庭・学校・職場だけでなく、あらゆる場での人権教育を充実させ、暴力に苦しむすべての人にたいする支援体制の確立に向けて「暴力・ハラスメント条約」の早期批准をかちとることが重要だ。

 人権確立社会をめざすには、部落差別をはじめ、女性差別、障害者差別、LGBTQや、複合差別にもしっかりと視点を置いたとりくみが必要だ。

 これまで、アイヌ女性、在日コリアン女性、部落女性の三者でアンケート調査結果や、国連女性差別撤廃委員会から日本政府に出された勧告をふまえた関係省庁との交渉をおこなってきた。今後も、マイノリティ女性にたいする施策の充実と政府による実態調査を共同で要求するなど、ねばり強く働きかけをしていかなければならない。また、「旧優生保護法」による強制された不妊手術の問題では、国家賠償訴訟を支援し、国の責任の明確化と謝罪を求めていかなければならない。さらに、ハンセン病家族訴訟でも、原告団の勝利判決が確定したが、さらに国の差別政策の誤りを明確にしていくために支援を強めていこう。

 今日、深刻化する格差や貧困の問題、増大する非正規労働者の問題が放置されたままである。こうした社会的な不満や不安が安易に差別排外主義と結びつき、暴力や差別を公然と煽動するヘイトスピーチなどの差別煽動や偏見による暴力事件を許すことなく、朝鮮学校や朝鮮幼稚園の無償化排除反対、日朝国交正常化や「慰安婦」問題の解決など、日朝、日韓友好連帯活動や日中友好運動にも積極的にとりくむ必要がある。また、沖縄・辺野古の米軍基地新設問題など、反戦・平和の運動にも積極的にとりくんでいこう。

 いまこそ、差別と闘う国内外の女性たちと反差別・反貧困のネットワークをつくりながら、憲法改悪に断固反対し、差別と戦争に反対する闘いを強化し、部落差別をはじめあらゆる差別の撤廃をめざし、すべての女性たちと団結してとりくみをすすめよう。

 

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