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ネット上の厳しい部落差別の特徴・傾向をふまえ
実態を広く訴えていこう

「解放新聞」(2019.12.02-2933)

 今日の部落差別事件の圧倒的多数は電子空間上で発生・発覚している。これらの差別事件へのとりくみを強化しない限り部落差別を撤廃することはできない。20世紀の部落差別事件と今日の部落差別事件の特徴・傾向は大きく変化している。これらの現実を厳正に受け止めなければ、それらを克服する正しい方針は確立できない。今日のネット上で発生している桁違いの数の差別事件と悪質な事件の分析から以下のことがいえる。差別行為者がもつ差別意識とその意識を実際の差別行為に走らせるまでのハードルがきわめて低くなっており、差別書き込みをしている人物が増加している点である。またネット上に書き込まれている多くの差別記述は、差別記述にたいする多くの人びとの抵抗感を弱めるとともに、それらを差別だと認識できないネット市民を増加させている。

 以上の傾向がネット社会の進化とともにより顕著になっている。それは近年のネット社会の特徴と密接にかかわっている。SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の普及によって、コミュニケーションのあり方も変化し、一般のコミュニティとは異なるソーシャルネットワークのなかで、差別意識・思想が過剰になり、増幅されている現実が深化している。

 インターネットが生み出したプラットフォーム(基盤)によって、コミュニケーションのあり方が変化してきている。そのキーワードは「ホモフィリー(同類性)」と「エコーチェンバー(反響室)」である。ホモフィリーとは、人は同じような属性をもつ人びとと群れるという考えをベースに、個人を同類の他者と結びつけることを重視するソーシャルネットワークの基本的な考え方である。エコーチェンバーとは、考え方や価値観の似た者同士で交流し、共感し合うことにより、特定の意見や思想、価値観が、拡大・増幅・強化されて影響力をもつ現象である。差別思想がより攻撃的、煽動的になる。

 差別意識や差別情報、差別的な経験が、同質性にもとづく閉鎖的なシステムの内部で、反復的にコミュニケーションされると、強化、増幅、拡大されるという現象であり、響き合うようにさらに増幅される作用がエコーチェンバーである。増幅されたコミュニケーションやメッセージは同類の人びとの心理や意識に大きな影響を与える。それは差別情報の内容がフェイク情報であっても、真実として受け止められるような意識や体質を生み出している。

 いまやそのフェイク情報をAI(人工知能)が、自動で瞬時に広めることも容易にできる時代である。さらに特定の差別助長キーワードにもとづいて多くの投稿をコピーし、自動で拡散していくことも可能になっている。これらの情報がネットリテラシーのない多くの人びとに影響を与え、差別や偏見を助長している。

 こうしたSNSがもつ作用によって、差別事件の内容がより過激になり、差別煽動的な内容になるだけではなく、これまでは差別事件をおこすような人物ではなかった人びとまでもが容易に差別行為者になり、今日の差別事件をより深刻なものにしている。

 さらに以上のような傾向は、ネット上で差別事件を日日、発生させるような社会的状況を生み出している。

 以上の特徴・傾向をふまえた電子空間上の膨大な差別事件の第1の差別性・問題点は、これまでの差別事件のなかでも差別撤廃にもっとも重大な悪影響を与えるという点である。この種の事件は差別落書や差別発言と異なって、その後の差別行為の手段として悪用されることも増加させている。

 「全国部落調査」復刻版のネット上への公開行為は、これまでの差別事件を質的に変えた。つまり公開された被差別部落のリストがダウンロードされたり、何度も差別をおこなう手段として利用されるようになっている。全国各地の差別事件や部落差別身元調査を誘発・助長することになるという重大な差別性をもっている。差別の手段が広まることによって、安易に差別が助長されるとともに、ネットにアクセスできる不特定多数の一般市民が「部落地名総鑑」を所持することになり、部落差別調査が容易にできるようになった。

 第2に差別意識を活性化させ、差別煽動性をもつ問題点である。全国各地の被差別部落の地名を暴露することを通じて、差別攻撃のターゲットを示すことになり、その地域が差別すべき地域であることを鮮明にして、多くの人びとの差別意識を活性化し、かき立てるという煽動性をもつまでになった。

 第3に電子空間上の差別事件を助長するという差別性や問題点である。近年の電子空間上の増加・悪質化する差別事件が、電子空間上の差別記述にたいする一種の「慣れ」といった感覚を生み出し、差別にたいする麻痺状態ともいえる状況をつくり出している。その帰結が差別記述の増加につながっている。電子版「全国部落調査」差別事件のように、その差別行為に多くの人びとを巻き込み、差別事件の差別性をさらに悪質化させるという差別性・問題点である。

 第4に差別行為者つまりネット上に被差別部落の地名リストを公開した人物は特定できても、それらに差別的書き込みを重ねている人物を特定するのがひじょうに難しいという問題点である。匿名性の問題が、事件の真相究明、事件解決、再発防止を困難にしている。

 第5に第4ともかかわって、書き込みを続けている犯人だけではなく、ネット上からダウンロードした人物を特定するのも困難をともなうという問題点がある。これまでの差別事件では、差別発言を聞いた人や差別落書を発見した人がそれに同調したり、その差別に荷担しない限り、差別行為者とは原則としてみなしてこなかった。しかしネット上の被差別部落リストの場合、それをダウンロードすれば「部落地名総鑑」を入手したことになり、重大な差別行為になる。これらの人たちを特定することも事件を克服するうえでひじょうに重要なことである。しかしそれが十分にできないという問題点をもつ。さらに一度ダウンロードされた被差別部落リストは、ほぼ回収困難であり、とり返しのつかない事態に結びついている。

 第6にきわめて重大な差別事件でありながら予防が困難であるという問題点とともに、再発する危険がきわめて高い問題点をもつ。インターネットの特徴を最大限悪用したネット上の差別事件は、一部を除いて十分な対抗措置や法的措置もとれないまま事実上放置されている状態である。

 第7にこれまで指摘してきた差別性や問題点ともかかわって、差別事件の規模が桁違いに大きくなったという問題点である。「部落地名総鑑」差別事件では、購入した企業等の一定の人物にしか被差別部落の所在地はわからなかった。それが電子空間上では不特定多数の人びとが閲覧することができるようになった。差別事件が個人的な規模や組織・地域的な空間で発生していたものから、インターネットを介して全国的・世界的な規模になっているという差別性や問題点をもつようになった。

 第8に差別状態がきわめて長期間持続していることも大きな問題点である。ネット上に掲載された差別文書や差別煽動文書等は、ほとんどの場合削除されてこなかった。これはきわめて重大な問題であり、差別状態が半永久的に続いていることを示している。その被害はきわめて甚大である。

 第9にこれまでの差別事件とは質的に異なる動画等をもちいた差別行為も可能になっているという問題点である。このような特徴・傾向・差別性・問題点をもつ電子空間上の差別事件を克服しない限り、部落差別の完全解決はあり得ない。

 以上のネット上の特徴や傾向、問題点や差別性を厳正に知ることと、広く知らせることがとりくみの原点であり、克服する方針を確立する原点でもある。そうした認識と危機感を共有しない限り、ネット上の差別・人権侵害のとりくみを前進させることはできない。

 

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