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主張

 

今年の部落解放運動の成果と課題をふまえ、
部落差別撤廃に向けた闘いをさらに前進させよう

「解放新聞」(2019.12.23-2936)

 2016年12月に「部落差別解消推進法」が公布、施行されて3年が経過した。この間、「部落差別解消推進法」の具体化に向けて、条例づくりのとりくみをすすめてきた。とくに全国で初めて「部落差別解消推進法」をふまえた条例が制定された兵庫県たつの市をはじめ、福岡県の人権条例の改正、奈良県での「部落差別解消推進条例」制定など、全国各地で条例の制定や、これまでの人権条例が部落差別撤廃という目的を明確にした条例に改正された。

 「部落差別解消推進法」をふまえた自治体での条例づくりは、そうした「部落差別解消推進法」の目的や理念を実現していくためのものである。また、部落解放運動がこの「部落差別解消推進法」をふまえて、国や自治体にたいして、部落差別撤廃に必要な施策を要求していくのは当然である。とくに、こうした自治体のとりくみをさらに推進するためには、財源確保の課題も重要である。部落問題解決のための相談体制の充実、教育・啓発の推進など、自治体での施策にたいする交付税措置などについて、総務省にねばり強く要求するとともに、全国知事会、全国市長会、全国町村会が政府要望にとり入れるように要請し、交付税の増額を実現させてきた。

 また、国が実施する部落差別に係る国民意識調査については、本年8月より法務省が実施している。われわれはサンプル数や回収率の問題を指摘するとともに、正確な国民の部落差別にたいする意識が把握されるような設問項目を要請してきた。法務省によれば、年度内にも調査結果の分析をふまえ、今後の部落差別撤廃に向けた施策の内容を明らかにするとしている。

 われわれは、法務省が提出する調査結果の分析や施策の内容にたいして、しっかりとした検討をすすめることが重要である。さらに、全国の自治体で同様の設問項目での意識調査ができるように、行政交渉などでとりくみを強めよう。

 差別事件のとりくみでは、インターネット上での差別情報について全国的な対策会議を開催し、差別情報の削除要請やモニタリングについて協議してきた。今後とも、部落問題解決に向けた情報発信など、さまざまな課題で、都府県連の先進的なとりくみ実践から学ぶとともに、的確、迅速な対応のための人材育成にも力を入れていかなければならない。

 また、公然と差別を煽動する鳥取ループ・示現舎にたいする裁判闘争では、かれらの差別性がますます明らかになっている。法務省も、特定の地区を被差別部落と特定する情報については、人権侵犯事案として削除要請にとりくむことを明記した通知を出している。さらに、在日コリアンなどにたいするヘイトスピーチについても、選挙活動でのヘイトスピーチをふくめて人権侵犯事案とする内容の通知が出されている。

 こうした法務省の通知を受けて、香川県では、立候補者への説明会でこの通知についての周知がおこなわれるなど、自治体での具体的な措置がすすんでいる。とくに神奈川県川崎市では、罰則を盛り込んだヘイトスピーチ禁止条例が12月に制定された。京都府内の自治体では、ヘイト集会での使用を認めない公的施設のガイドライン策定がすすんでいる。

 われわれは、「部落差別解消推進法」や「ヘイトスピーチ解消法」の制定をふまえた、こうした自治体での実効ある措置の実現に向けて、さらに強力にとりくみをすすめていこう。また、部落差別をはじめ、公然と差別や暴力を煽動するヘイトスピーチが生み出されている今日の社会的政治的情況と真剣に向き合い、その変革を根底からかちとる反差別共同闘争を大きく前進させよう。

 部落問題解決に向けては、この間、国連人種差別撤廃委員会での日本政府にたいする勧告でも、「部落差別解消推進法」制定後の、実効ある措置の報告が求められている。とくに、今後の課題として、勧告でも指摘されている国内人権委員会の設置を中心に、「ヘイトスピーチ解消法」や「障害者差別解消法」制定などの成果と課題を共有し、包括的な人権の法制度確立へのとりくみをさらに強化していかなければならない。

 また、宗教界での部落差別問題として「是旃陀羅」にかかわるとりくみをすすめてきた。中央本部と広島県連でおこなってきた浄土真宗本願寺派(西本願寺)との話し合いをふまえ、研修テキストが作成され、教団あげての学習が実施されている。不十分な点は厳しく指摘しながら、さらに成果をあげるように、都府県連と教区との話し合いもすすめていこう。

 狭山再審闘争では、弁護団の精力的な活動によって、石川一雄さんの無実を明らかにする新証拠が提出されてきた。とくに、「自白」によって発見された万年筆が、被害者のものではないとした「下山鑑定」「下山第2鑑定」、脅迫状は石川さんが書いたものではないとした「福江報告書」が、新証拠として提出された。それぞれ科学的な手法で、石川さんの無実を明らかにしたものである。

 寺尾判決で石川さんを犯人とした根拠である、万年筆と脅迫状に関する新証拠によって、寺尾判決そのものの誤りが明らかになっている。さらに弁護団は、平岡第2鑑定(スコップ付着の土壌について)、鉄意見書(犯人の血液型について)、雨宮意見書(万年筆のインクについて)の3つの新証拠も提出している。全国で新証拠の学習会の開催や情宣活動を強化し、石川さんの無実を一人でも多くの人に訴え、世論を大きく盛りあげよう。

 狭山事件は部落差別にもとづくえん罪である。石川さんをいまだに「殺人犯」として、みえない手錠で縛り続けるものこそが部落差別である。「再審法」改正の活動など、えん罪を許さないとりくみも拡がっている。こうした連帯・協働の力で狭山再審実現をかちとるために全力で闘いをすすめよう。

 このほか、当面の重要な課題である男女平等社会実現に向けた組織内のとりくみを推進していくために、第3回拡大中央委員会での学習会を実施した。「男女平等社会実現基本方針(第2次改訂)」を実効あるものにしていくために、推進本部の設置とともに、組織内でのきめ細かい学習と実践が求められている。都府県連でも、学習会で報告された先進的な実践に学び、積極的にとりくみをすすめていこう。

 われわれは、こうした部落解放運動の闘いを全力ですすめてきた。今日、安倍政権は参議院選挙で改憲発議に必要な3分の2の議席を確保できなかったにもかかわらず、憲法改悪に固執している。しかも、米国に追従し、「戦争をする国」づくりのために、中東地域への自衛隊の派兵や、過去最高を上回る軍事費を増大させるなど、日米軍事一体化を強めている。われわれは差別と戦争に反対し、安倍政権の本質である反人権主義、国権主義の政治を許さない闘いをすすめよう。

 悪質な差別事件や人権侵害は、社会的不満や不安をその背景にしながら、差別排外主義と結びつき、ヘイトスピーチのように、公然と差別と暴力を煽動している。われわれは、このような社会のありようを変革していくために、差別撤廃を希求する多くの仲間たちとの連帯・協働を深め、反差別共同闘争のなかで、大きな役割を果たすように奮闘してきた。

 部落解放運動は、全国水平社いらいの苦闘を継承し、差別―被差別からの解放をめざす闘いである。戦前の戦争協力という痛苦の歴史への反省もふまえながら、差別と戦争に反対する闘いを全力ですすめてきた。また、「平成」から「令和」という天皇代替わりによる天皇制の賛美や政治利用の強化に反対してきた。

 闘いの成果と課題を明らかにすることで、つぎの闘いの展望が切り拓かれる。今年のわれわれの闘いをしっかりと総括し、統一と団結の力で、新たな年の部落解放運動を大きく前進させよう。

 

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