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農業にかかわる国際的な動向をふまえ、部落の農業・畜産・食肉業の競争力を高め、食の安全を守るとりくみを

「解放新聞」(2020.02.10-2942)

 農業等をめぐる情勢については、アメリカの離脱という状況下でのTPPの発足に加えて、昨年の日米二国間協議によって、日本の農業や畜産に与える影響が予想され、とりわけ農地が中山間地域に多くを占め小規模・零細な部落の農業への影響ははかりしれない。こうした状況にたいして農林水産省は、TPPや日米二国間協議の直接的な影響を過小評価し、「主要5品目は、一定死守した」「TPPや日米二国間協議とは関係なく、以前から課題が山積している」とし、生産コストなどをふくめた大型化、ブランド化をもとに、国際的競争力を高めるための施策を今後もおしすすめる方針だ。

 基本的には、農水省の方向性は誤りではないかもしれないが、日本の農業、とりわけ私たち部落の農業の現状はそうはいかない。また「主要5品目」にしても一定期間の経過措置にすぎないのが現実だ。また、生産コストの課題や農産物のブランド化をはかり、国際的な競争力を高める方向は、共同化など農業の大型化もふくめ、基本的にはそのとおりだと思うが、部落の多くの農村がかかえる狭小で条件不利地域、担い手の不足による高齢化する従事者などの現実からすると相当高いハードルになっている。こうした課題や現実をもとに、2度にわたって農水省交渉を展開した。

 農水省交渉では、まず「部落差別解消推進法」にかかわって、現場での深い関係にある農協や土地改良区など関係団体への部落問題への意識を高めるための指導の徹底を求めた。農水省は例年、関係団体へ文書で申し入れるなどのとりくみがされているが、関係団体などへの補助がきわめて少額であり、それぞれの団体の主体的なとりくみにまかせているのが現状で、関係団体や地域間でのとりくみの格差が大きな課題になっている。

 また、TPPや日米二国間協議にかかわって、農産物や畜産など具体的なとりくみをただしたが、先にのべたように農水省の施策が部落の農家の現状とは乖離している。また、農水省の施策の具体的な実施にかかわり「認定農業者制度」も大きな壁になっており、大阪での「国の制度に頼らないとりくみ」としての独自の「認定農業者制度」を例に出しながら、小規模零細農家や脆弱な経営基盤をふまえた施策の推進を求めた。

 さらに、食の安全ともかかわって「種子」の保全についても考えを求めた。「種子」については、「主要農産物の優良な種子の生産及び普及」のための「種子法」が廃止されているが、いくつかの自治体でこれまでの経緯をふまえるなかで、条例など独自に対応策がつくられている。農水省は、この「種子法」廃止にかかわって、実質的には以前と変わらない対応を継続するとしているが、これもTPPへの対応と同様に、先行きの不安はぬぐえない状況である。また、「豚コレラ」や「気象変動」についての課題も提起してきた。

 共同利用施設・設備にかかわっては、全国的に「同和対策事業」によって、さまざまな共同利用の施設や設備が整備されてきたが、40年以上経過し総じて老朽化がすすんできていることと、新たな視点でのとりくみに対応しきれなくなってきている。また、規模の小さな部落の課題もある。こうした課題を農水省交渉のなかで提起してきているが、農水省は「経営体育成支援事業」のなかでも小規模・零細向け地域の農機具等の導入支援のための「条件不利地域補助型」の活用が「同和対策に代わるもの」として有効だとしてきている。しかし実際には予算枠、自治体との認識の乖離、地方農政局の対応などにかかわって、地域で農業の活性化や担い手育成に向けた事業計画が採択されないという現状にたいして、自治体への説明や指導をふくめた農水省のとりくみを求めてきた。

 「種子法」にかかわってであるが、一般的には生産者の問題としてとらえられがちで、全体的な問題意識がきわめて低い。「種子法」は、食糧(主食)の安定供給を柱に制定され、全国的にその土地の気候風土に最適な農産物の研究開発にとりくまれ生産されてきた。しかし、アメリカの独占および支配戦略とそれに呼応した現政権のアベノミクスの具体策として「種子法」が廃止されたのである。日本の食料自給率が40%を割り込んで久しいが、消費者の食卓に上がる食料を原材料や種子レベルまで見ていくと、この数値がさらに下がるといわれている。また、外国からの輸入にたいして一定の規制をかけることで、「食の安全性」を担保してきた。とくに、「種子法」は、そのための最後の牙城といっても過言ではない。しかし、TPPや日米二国間協議によって「規制」が「緩和」され、加えて「種子法」の廃止によって「食の安全」への「とりで」が崩され、「食料の自給」と「安全性」にとって危機的状況になってきているといえる。遺伝子操作された食料が、私たちの食卓を占めるという状況になりつつある。遺伝子操作の農産物を、研究開発・生産業者は、その安全性をアピールしているが、何一つ立証されていない。そうした状況を考えたとき、この問題は、生産者の課題と同時に、私たちすべての消費者の課題であり、「種子法」廃止への対応策を柱に、「食の安全」を確立するとりくみを地域で早急にすすめていく必要がある。

 部落の農業は、ひじょうに厳しい状況にある。畜産・食肉も同様で、TPPをはじめさまざまな社会状況が追い打ちをかけている。しかし、農業には「無限の可能性と夢」があることも事実だ。そのためにも部落の農業の変革への意識を高めなければならない。とくに、これまで実施してきた全国農林漁業運動部長会議および現地視察で、地域の具体的なとりくみ報告や現場の視察を通じて、可能性への提起を受けてきた。

 具体的には、「集落営農」への方向を基礎に周辺地域の農家との連携をすすめ、耕作放棄地をふくめた農地の集約化と作業の代行、共同利用施設の連携をはかるなどの方向で、さらに「法人化」を視野に入れた非農業者の参加の促進などである。また、「地域・水・空気・太陽」をベースにした環境に優しい持続可能な農業への提起として、コメ・野菜栽培と酪農・畜産などとの連携による「循環型農業」や「有機農業」についても重要な課題である。さらに他の農業生産グループとの連携や「産地」と「消費地」を結ぶネットワークの構築を早急に検討することも重要で、今回の「ブランド化」や「雇用促進」を生み出している各地の活動に注視しなければならない。さらに、そうした意味でフードバンクとの連携をはじめ、各地ですすめられているさまざまなとりくみや工夫に大いに学んでいかなければならないと思う。

 ただ、これまでも提起されているが、全国に数多くある小規模部落の場合は、集落営農や共同利用と連携をすすめようと考えても、地域のなかで圧倒的少数というきわめて厳しい状況があるということについて、早急に検討をすすめていきたい。

 最後に、農業の課題は、生産者の課題ではなく、優れて消費者もふくめた全体の課題であるということをもとに、部落の生産者と消費者を守るとりくみを全国的にすすめていくことを提起したい。

 

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