「解放新聞」(2020.05.05-2952)
【香川支局】 新型コロナウイルス感染症が拡大するなか、2月17日、県内の公立小学校に「中国人の子を登校させるな」との内容が書かれたハガキが届いていたことがわかった。
この小学校を管轄する自治体によると、ハガキは17日に校長、PTA会長宛てに届いたもの。差出人は「新型コロナウイルスから日本国の子供を護る会」。文面は「中国人(中華民国は除く)を親に持つ中国人一家の児童を登校させるな。」と印刷されていた。
学校から報告を受けた当該教育委員会は人権担当課と協議をおこない、①中国人への差別②個人と学校への誹謗中傷が考えられることから、教育長は児童の安全を最優先し、校長から県警(所轄の警察署)に相談する旨を指示した。
県警は、同校周辺で児童の登下校時を中心に見回りを強化するなどの対応をおこなった。一斉休校になるまで不審者などは確認されず、新学期以降も、県警による学校周辺の見回りを強化するなどの対応をとっている、とのこと。
また、自治体では人権に関する本部会議(本部長=副首長、副本部長=教育長)をひらき、今後の対応について協議した。
新型コロナウイルス感染拡大をめぐっては、トランプ大統領などアメリカ政府首脳をはじめ、日本でも政府首脳や政治家が「武漢ウイルス」とよぶなど、中国・中国人への差別煽動が目につく。札幌市内のある飲食店では、早早に「中国人観光客の入店お断り」の貼紙を店頭に掲示。ホームページやSNSでも同様の内容を書き込むなど、社会問題へと発展した。3月下旬、コメディアンの志村けんさんが陽性と診断され、懸命の治療を受けたが、わずか9日間で死去。報道を受け、SNSでは、「志村けんさんは中国人に殺された」などの書き込みも見られた。
新型コロナウイルスが身近に迫っているという恐怖心に乗じた、こうした差別煽動の背景には、特定の国や民族を貶めて煽る「嫌中」「嫌韓」といったような差別煽動もあるだろう。ヘイトスピーチ(差別的憎悪煽動)は、あのファシズムの歴史をみても、ヘイトクライム(差別的憎悪犯罪)、大量虐殺につながるものだ。
今回の公立小学校へのハガキ投函事案では、当該自治体と教育委員会は、重大な人権侵犯事件として最大限の対応をはかり、当該自治体は、高松法務局へ人権問題として相談を求めた。しかし、法務局は「自治体(教育委員会)など組織や団体が誹謗中傷を受けた場合については、その組織が対応するものであって、法務局が意見をいえる立場ではない」とし、「相談にこられても意味がない」と、あくまでも個人以外の相談には応じない姿勢だった。これが法務局の適正な対応といえるだろうか。
ナチスによるホロコーストをはじめ、国内では、関東大震災直後の朝鮮人大虐殺や、香川の被差別部落関係者が行商先(現代の千葉県野田市)で虐殺された「福田村事件」、さらには戦後最悪のヘイトクライムである「相模原障害者施設殺傷事件」もおきている。
インターネット上の差別煽動をふくめ、包括的に差別を禁止する法整備、人権侵害被害者を救済するシステムの実現は急務だ。