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主張

 

新型コロナウイルス感染症拡大のなかで、
いのちと生活を守るとりくみをしっかりとすすめよう

「解放新聞」(2020.05.25-2954)

 新型コロナウイルス感染症の世界的流行(パンデミック)が、3月11日に世界保健機構(WHO)から宣言されて以降、まさに世界各地で感染者の爆発的拡がりが続いている。しかし、安倍政権は1月に国内で最初の感染者が確認された以降も、2月のクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の集団感染への初動対応や成田空港での検査態勢もおざなりにし、「なんとか持ちこたえている」と強弁してきた。

 東京都の小池知事も同様に、7月からの東京オリンピック・パラリンピックの開催を優先し、安倍政権に同調しつつ、感染の陽性陰性を調べるPCR検査を積極的におこなわないまま、ひたすら感染者数を抑え込んできたことは明らかである。そもそもオリンピック招致にあたって、安倍首相は、東日本大震災による福島第一原発の事故処理が全くすすんでいないにもかかわらず、「(放射能汚染水については)コントロールできている」などと強弁し、被災地を国内聖火リレーのコースにするなど、見せかけの被災地復興を政治的に演出することさえ画策してきたのである。

 しかしながら、国際オリンピック委員会(IOC)が3日24日に来年への開催延期を決定したことを受け、ようやく日本での感染症拡大への対応をはじめたが、この間も、正確な実態把握もせずに、2月には一方的な教育現場への一斉休校要請をし、3月に「インフルエンザ等対策特措法」を改定し、不必要な「緊急事態宣言」を盛り込むなど、一転して政府あげての感染者数の増加を強調し、マスクや除菌関連製品が購入できなくなるなどの混乱を生み出してきた。

 安倍首相は、4月7日に、東京、大阪、京都などの7都府県にたいして5月末までの期限付きで「緊急事態宣言」を出し、続いて16日に対象を全国に拡大したものの、5月14日には、東京、大阪、北海道などの8都道府県を除いた39県の「緊急事態宣言」を解除した。この「緊急事態宣言」では、感染を避けるために在宅勤務(テレワーク)や飲食店の休業要請などの広範囲にわたる「自粛」要請がおこなわれたが、いのちや生活を守るための十分な補償もないままであった。さらに、市民の不安解消にと打ち出されたのが、不良品が続出し、役に立たない「アベノマスク」2枚の全世帯配布の愚策であった。

 安倍政権は当初、収入が減少した世帯への30万円給付を盛り込んだ補正予算を成立させようとしたが、世論や野党だけでなく、自民党や公明党の与党からも異論が出され、結局、一人10万円を給付する異例の補正予算組み替えを余儀なくされた。その後、公立学校などへの唐突な一斉休校についても厳しい批判が出され、その後に、都道府県知事や市区町村長の裁量まかせにするという無責任な対応をし、保護者はもとより教育現場へのいっそうの混乱を生み出した。

 今日、感染者への治療や感染拡大防止にかかわる医療関係者にこれほど過重な勤務を強いているのは、この間の医療制度の改悪、とくに国公立病院の統廃合計画の推進や保健所の削減をはじめ、社会保障費の削減など、医療の営利事業化をすすめてきた結果である。また、3月以降の感染症の急速な拡大については、それ以前の国の対策が十分であったのかをあらためて検証することも必要である。

 5月16日の段階で、安倍首相は「緊急事態宣言」の対象を8都道府県に縮小することを表明した。しかし、明確な基準も、十分な補償もないままに「自粛」をよびかける無責任な対応が続いている。さらに都道府県にまたがる移動制限も要請されており、われわれの日常生活はもちろんのこと、経済活動も大きな制約を受けている。

 一方、こうした「自粛」要請に関連して、それぞれの都道府県が定めた規定を遵守して営業している商店や飲食店には、いやがらせ電話や張り紙がされるなどの報道もある。「自粛警察」などと称して、制約、制限されている日常生活への不満や不安、閉塞感を背景にしたこうした言動は、まさに民主主義の基盤が崩れつつあることの証明でもある。もちろんわれわれは感染予防、拡大への最大限の備えをしなければいけない。しかし、そのことによって、より強い権力を求め、「自粛」要請のなかで、同調圧力(暗黙の了解として、多数派に従うように働きかけること)が強まり、多様性が拒否され、分断や差別排外主義が拡大することを許してはならない。

 感染症の拡大によって、われわれのとりくみにも大きな影響が出ている。中央本部段階でも、3月に開催予定だった第77回全国大会を延期、5月の第65回全国女性集会、部落解放・人権政策確立要求第1次中央集会、狭山再審要求市民集会、8月の第52回全国高校生集会・第64回全国青年集会の中止を決定した。また、都府県連でも定期大会の縮小開催や延期の措置がとられている。さらに中央メーデーや憲法集会などはインターネット配信でおこなわれるなど、共闘関係のとりくみも開催形式が変更されている。

 今後のとりくみについても、感染症拡大の状況をふまえながら、慎重に検討をすすめていかなければならないが、現時点では、全国的に大きな制約、制限があることに変わりはない。一方、われわれはこの間「人権のまちづくり」運動を全国ですすめてきた。地域でのいのちや生活を守るとりくみが、いまこそ求められている。

 長期化する「自粛」のなかで、経済状況も悪化している。もともと株価高騰を演出してきたアベノミクスでは、実体経済がいっこうに成長せず、格差や貧困の問題が深刻化してきた。感染症の拡大による「自粛」のなかで、中小企業の倒産、解雇、雇い止めなどの問題も指摘されている。地域のなかで、さまざまな制度の活用をはじめとした生活相談、経営相談などを積極的によびかけよう。

 いま、「集う」ことが制限され、集会や会議を開催することも難しい状況が続いている。しかし、こうした困難な情勢のなかでこそ、いのちと生活を守る部落解放運動の真価を発揮することが求められている。さまざまな工夫をしながら、地域のなかでのつながりを強め、孤立と排除の深まりに抗して、社会連帯のとりくみをすすめていくことが重要である。

 われわれは、十分な補償もないままに自己責任を押しつける「自粛」ではなく、感染予防、感染拡大への最大限の「自衛」をすすめ、社会的弱者の切り捨てを許さない衣食住を中心にした生活保障としっかりとした医療制度の充実を求めていこう。そして何よりも、不安や不満が深まる社会情勢のなかで、忌避や差別が強まることを許さず、地域のなかで、いのちと生活を守る部落解放運動を全力ですすめよう。

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