「解放新聞」(2020.06.05-2955)
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新型コロナウイルス感染症拡大の対応で、安倍政権は、4月16日に「緊急事態宣言」を全国に拡大したが、5月16日には東京、北海道などの8都道府県を除いた39県、21日には首都圏を除く京都、大阪、兵庫を解除した。その後、5月25日には全面解除し、4月7日から続いた「緊急事態宣言」は約1か月半で終了した。また、全国的な移動解禁は6月19日から認めるなど、経済再開に向けた基本的対処方針も決定した。
この措置にもとづいて、「自粛」を要請されていた経済活動が段階的に解除される見通しであるが、経済再開を優先した対応であり、感染症拡大が収束したわけではなく、今後とも私たち一人ひとりの感染予防の行動が必要なのはいうまでもない。
共同通信によれば、今回の新型コロナウイルス感染症では、5月25日までの集計で世界各国での死亡者は34万人をこえ、感染者数は約542万人である。国内では865人が死亡、感染者も減少傾向にあるものの、累計で1万7305人の感染が報告されている。国別の感染者数ではアメリカの約162万人がもっとも多く、続いてブラジル、ロシアがそれぞれ約34万人、イギリス、スペイン、イタリア、ドイツなどの欧州諸国でも20万人をこえる多くの感染者が出ている。
このような世界的な感染症の拡がりのなかで、感染症拡大の防止に向けての国際的な協力態勢が必要であるにもかかわらず、アメリカのトランプ大統領は、世界保健機構(WHO)事務局長の言動が中国寄りだとして脱退を示唆するなどの発言をくり返している。しかし、アメリカの感染者数や死亡数の増大は、トランプ大統領による新自由主義政策による貧困層の拡大と医療制度の改悪が大きな要因であり、感染拡大の責任を一方的にWHOや中国に負わせることはできない。
日本では、東京オリンピック・パラリンピックの開催を優先し、感染の陽性陰性を調べるPCR検査を積極的におこなわないまま、ひたすら感染者数を抑え込んできたことなど、安倍政権の初動対応の誤りは、明らかになっている。とくに、「(感染の疑いがある場合の相談目安は)37・5度以上の熱が4日続けば」としていたことに批判が集中した加藤勝信・厚生労働大臣は「目安であって基準ではない」「われわれから見れば誤解」などと、初動対応の誤りをまったく認めない、居直り発言をくり返した。
しかも、感染者への治療や感染拡大防止に従事する医療関係者にこれほど過重な勤務を強いているのは、この間の医療制度の改悪、とくに国公立病院の統廃合計画の推進や保健所の削減をはじめ、社会保障費の削減など、医療の営利事業化をすすめてきた結果であることは明らかである。
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厚生労働省の集計では、5月21日時点で感染拡大の影響で解雇や雇い止めされた労働者は1万835人である。「緊急事態宣言」が全国的に解除されても、経済活動の再開も段階的であり、失業する労働者数はますます増えると予想される。
また、感染を避けるために在宅勤務(テレワーク)や飲食店の休業要請などの広範囲にわたる「自粛」要請がおこなわれたが、いのちや生活を守るための十分な補償もないままである。大学生の高額な授業料問題も深刻であり、各大学ごとで支援金の給付などがおこなわれているが、国としての支援策の充実も早急に求めていかなければならない。
このような社会的に拡がる感染症への恐怖や、連日報道される「コロナ問題」などによっての日常生活での不安などが、医療従事者への暴言、社会的マイノリティにたいする差別言動といった、感染症拡大を媒介にしたさまざま忌避、排除につながる新たな差別排外主義が生み出されている。正確な情報にもとづかない風聞や風評によって、インターネット上での差別攻撃を煽動するよびかけが書き込まれたり、「自粛警察」などと称して、ルールを守りながら営業を継続している飲食店などにいやがらせ電話や張り紙がされるような事態が生み出されている。
また、海外でも、中国や日本、東南アジア系住民にたいする暴行や暴言などの憎悪犯罪(ヘイトクライム)が多発している。とくに、欧州連合(EU)からの離脱を決定したイギリスでは、アメリカと同様に、「自国第一主義」による差別排外主義が強まり、感染症拡大のなかで、問題が深刻化している。
こうした日常生活への不満や不安、閉塞感を背景にした差別言動、排除の煽動を許さず、まずわれわれは、最大限の感染予防、拡大への備えをよびかけるとともに、正確で必要な情報を届けることが求められている。「解放新聞」中央版でも、感染症拡大をめぐる社会情勢や、行政的な制度を活用した地域支援などの活用をはじめ、地域内外で困難な課題をかかえる社会的弱者が孤立をしないように積極的な情報提供をすすめている。都府県連でおこなわれている、行政制度活用に向けた冊子作成(京都)や、部落産業への対策強化についての政府への申し入れ(兵庫)、生活困窮者への食糧支援(大阪)、感染症拡大での差別、人権侵害への対応策要請(福岡)などのとりくみも紹介してきた。
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インターネットなどの普及による高度情報化時代のなかで、「解放新聞」をはじめ教宣活動の役割も大きく変わりつつある。しかし、部落解放運動の情報を組織内外に発信するという基本的な任務をしっかりと果たしていくことには変わりがない。「解放新聞」中央版は、本年4月から、これまでの消費税増税などに対応する財政的な措置を検討し、週刊から月3回の発行体制に変更した。当然、情報量の減少、速報性などの課題をどのように改善していくのか、試行錯誤のとりくみをすすめている。
新型コロナ感染症拡大のなかで、中央段階、都府県連段階でのとりくみも大きく制限され、「集う」ことへの困難性が継続している。一方で、感染症に関係するデマやニセ情報が、インターネットなどで瞬時に社会に拡がるように、権力的な意見や情報がその正確さの検証がないままに、異見を許さない風潮と結びついている。こうしたときにこそ、人権や平和を守る、民主主義を大切にすることが重要であることをしっかりと伝えていくことが必要である。
「解放新聞」は、このように中央段階での部落解放運動のとりくみを掲載するだけではなく、今日必要とされている差別と戦争を許さないとりくみをはじめ、幅広い共同の闘いと、そこで訴えられていることばや、一人ひとりの想いを共有し、伝える努力をしている。また、全国各地でのとりくみをふくめて、都府県連の闘いをしっかりと情報発信していかなければならない。ブロック編集協力員や都府県連支局との連携を深めながら、各地での特色ある運動も紹介している。
さらに「解放新聞」はこうした部落解放運動のとりくみ紹介、組織内外での情報の共有だけでなく、中央本部や都府県連での財政にも大きく貢献してきた。この間の「解放新聞」の購読数の減部傾向にたいして拡大運動をすすめてきたが、大きな成果をあげることにつながっていない。全国的に教宣部や機関紙担当者からの要望や提案も集約しながら、紙面の改善や拡大運動にも積極的にとりくみをすすめていくことが求められている。また、全国の購読者からも同様に、さまざまな提案を受けながら、あらためて部落解放運動の組織内外の要になっていくこともめざしていきたい。
今日、インターネットなどの通信手段の普及で、差別情報もふくめたあらゆる情報が瞬時に拡がる時代でもある。そうした社会情況のなかで、反差別・人権確立に向けた確かなことばと思想を確実に伝え、拡げる役割を果たすことが何よりも重要である。
「解放新聞」はそうした使命を十分に自覚し、部落解放運動をともにとりくむすべての人びととの共同作業で、都府県連や各支局の協力のもと、教宣活動を強化し、紙面改革と拡大運動で成果をあげていきたい。
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