「解放新聞」(2020.07.15-2958)
2020年6月19日の本日、大阪地方裁判所において、大阪市が市有地の明け渡しと賃料相当損害金を大阪人権博物館(以下、リバティおおさか)に求めて本日まで続いていた裁判に関する和解(以下、本和解)が成立し、約5年間におよぶ裁判が終結しました。まずはリバティおおさか裁判に関して、毎回の口頭弁論において大阪地方裁判所大法廷の傍聴席を埋めつくして余りある100人を優に超える支援者をはじめ、多大なご協力とご支援を寄せていただきました多くの個人と団体の皆さんに対しまして、深甚の感謝を申し上げます。
本和解は、①リバティおおさかは現在の建物を2021年6月30日までに撤去し、大阪市に市有地を返還する、②2015年4月から発生している月額249万832円の賃料相当損害金(総額約1億9000万円)のリバティおおさかによる大阪市への支払い義務は、①の履行によって免除される、③リバティおおさかの収蔵物は大阪市の施設に保管し、その使用料は実費を除いて無償とする、④今後は大阪市がリバティおおさかに対して、適切かつ可能な範囲において協力・連携する、という要旨です。
2013年4月1日から大阪府と大阪市はリバティおおさかに対する補助金を全面的に停止し、2015年7月23日には大阪市は市有地の明け渡しと賃料相当損害金を求めてリバティおおさかを提訴しましたが、これらについてリバティおおさかは極めて不当な措置であると判断し、厳しく批判してきました。とりわけ大阪地方裁判所での裁判では、2015年10月2日から2017年12月1日まで11回の口頭弁論、2017年12月1日から本日まで16回の進行協議において、リバティおおさかは自らの正当性を主張してきました。そして2020年に入ってリバティおおさかと大阪市との間で和解案が基本的に合意されたのをうけて、3月30日に大阪地方裁判所が和解を勧告する所見を示し、5月26日には大阪市会で和解案が承認され、本日をもって本和解の成立となりました。
言うまでもなく、裁判における大阪市による主張は多くの問題点を含んでいると考えていますが、市有地に関しては大阪市が占有権限を有しているだけに、リバティおおさかが自らの主張を最後まで貫くには困難な状況がありました。そこでリバティおおさかは、2022年を目途とした新たな場所での再出発を実現するという現実的判断に基づいて、大阪市との裁判に関して和解することを決断しました。この決断に至ったのは、もちろん本和解はリバティおおさかが主張する内容が全面的に採用されたものでないことは承知していますが、同時にリバティおおさかの再出発への基盤となる重要な内容も含まれているからです。またリバティおおさかが部落解放に大きな足跡を残してきた大阪市浪速区の浪速地区を去らねばならないのは残念の極みですが、2022年に再出発する新しい場所で新たな歴史を刻んでいく所存です。
リバティおおさかは、1982年12月10日に財団法人の設立、1985年12月4日に大阪人権歴史資料館としての開館、1995年12月4日に大阪人権博物館への改称、2012年4月1日に公益財団法人への移行という基本的な経過をたどり、開館当初から35年間にわたって公益性と公共性を発揮する登録博物館および社会教育の拠点施設として歩んできました。またリバティおおさかは、日本で初めての〝人権に関する総合博物館〟としての存在意義があり、その社会的役割を果たすため資料収集保管、展示公開、調査研究、教育普及などの博物館活動を展開してきました。とりわけ部落問題をはじめとした差別と人権に関する常設展示や多様な特別展示と企画展示は、日本国内のみならず海外諸国の来館者からも高い評価を受け、2020年5月31日までの総利用者数は約170万人を数えています。さらにリバティおおさかの博物館活動は、人権に関する教育や啓発などの発展に関しても大きく貢献してきました。
このような35年間にわたる多くの成果を継承し、リバティおおさかは2022年には新たな場所で再出発することになります。あたかも2022年は全国水平社創立100周年および大阪府水平社100周年に当たるように、部落問題と日本の人権を考えるうえで誠に記念すべき年といえます。リバティおおさかの再出発にあたっては、差別と人権に関する新たな到達点を反映させた新たな理念を創造し、資料収集保管、展示公開、調査研究、教育普及など博物館活動の新しい内容を創出していきます。これらの博物館活動を基本として、差別と人権に関する教育と啓発はもとより、情報発信やネットワーク構築などにも資する人権センター的な役割を果たすことも視野に入れています。しかし今後も続くと予想される厳しい経済状況をふまえるならば、現実的規模での持続可能な自主運営を基本としたものになり、新しい場所についてはアクセスが容易な大阪市内で公共交通機関の駅近くを予定しています。
本和解の成立にともなって、リバティおおさかに関しては7月には、事務所の大阪市港区への移転、収蔵物の大阪市の施設への移動、そして建物の解体工事が始まります。リバティおおさかは約2年間の休館となりますが、常設展示や特別展示、企画展示こそ開催できないものの、資料収集保管、展示公開、調査研究、教育普及などの博物館活動を可能なかぎり展開していきます。とりわけ具体的な博物館活動として、①主催による巡回展と他の機関・団体との共催による巡回展の開催、②主催および共催によるセミナーと講座の実施、③フィールドワークの実施、④職員等の講演会への講師派遣、⑤書籍やDVDなどの販売、⑥外部資金獲得による事業、⑦寄付金の募集、などを推進していきます。
昨今のグローバル化にともなう国際情勢の激動を背景として、ナショナリズムによる排外主義的差別および新自由主義による格差社会と社会的排除が顕著になっているだけに、人類が長い歴史のなかで築き上げてきた民主主義、自由、平等、人権という普遍的な価値は、ますます重要性を増しています。また2015年に国連によって定められた持続可能な開発計画(SDGs)は、貧困に終止符を打つとともに地球を保護し、全ての人が平和と豊かさを享受できる普遍的な行動を全世界に呼びかけ、世界各国において具体的な取り組みが展開されています。さらに直近では、コロナ禍による市場原理優先の政治からの転換および公から民へという小さな行政という方向をふまえ、生命と生活を守る行政そのもののあり方への転換、すなわち“ニューノーマル時代”ともいわれる新しい時代への転換が求められています。とりわけ差別と人権に関わっては、近年になって部落差別解消推進法をはじめ、障害者差別解消推進法、ヘイトスピーチ解消推進法、アイヌ施策推進法などが相次いで施行され、その具体化が各地で進んでいます。
これらの世界と日本の基本的な動向に対して積極的な役割を果たすため、差別と人権の歴史と現在を見据えて博物館活動を展開するリバティおおさかの存在意義と社会的役割が以前にも増して重要となっているだけに、各方面からの大きなご期待に応えて、2022年に必ずや新しい場所で再出発することによって新たな博物館活動を創造していく決意を表明します。また併せて35年間にわたる約170万人の来館者をはじめ、ご協力とご支援を惜しまれなかった多くの個人と団体の皆さんに感謝の意を表しますとともに、今後ともより一層のご協力とご支援をお願い申し上げて、共同声明とします。
2020年6月19日
公益財団法人大阪人権博物館
理事長 石橋 武
専務理事 赤井 隆史
リバティおおさか裁判弁護団
団長 丹羽 雅雄
弁護士 具 良鈺
弁護士 普門 大輔
弁護士 李 承現
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