「解放新聞」(2020.09.15-2965)
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農業等をめぐる情勢は、TPP(11か国)の発足と日米貿易協定という国際的な状況と「種子法」の廃止(2018年4月)と「種苗法」の「改正」への動きによって、農業生産者にとっての不安要因が拡大している。「種子法」「種苗法」は、食の安定供給とブランドの保護のために制定され、生産者や関係者の長年の努力によって大きな役割を果たしてきた。また、そのことにかかわる一定の規制や基準によって食の安全を確保してきた。しかし、「規制緩和」「貿易自由化」の促進を求める外圧、とくにアメリカとその背後にある多国籍企業の「食料の支配戦略」とそれに呼応する「アベノミクス」によって「種子法」が廃止され、いままた、「種苗法」の一部「改正」がすすめられようとしている。
こうした状況にたいして農水省は、「重要5品目は守った(TPP)」「民間のノウハウを導入し、活性化と競争力を高める(種子法)」といい、「今後も自治体のとりくみを支援していく」としている。そして「種苗法」の「改正」については、「改正」の理由を「優良品種を保護する。とくに外国への流出を防ぐ」とし、「改正」にあたって「国内の農業者の負担にならないように…」としている。
詳細は省くが、一連の状況についての課題として①農業者の負担増(種子や種苗の使用や購入)②規制や基準の緩和による食の安全への懸念(TPP、日米貿易協定)③食料自給率の低下、などの懸念が提起されている。とくに、食料自給率については「38%(2018年カロリーベース)」と発表されているが、種子や苗の段階まで考えると、さらに低下し、私たちの食卓にあがる食料のほとんどが安全性の担保されていない外国産ということになる。また、食の安全ともかかわって「遺伝子組み換え」された食料・農産物が氾濫するという状況がさらに拡大する可能性がある。
こうしたことから、「種苗法」の「改正」に反対するとともに、「種子法」を実質的に担保する条例化をめざしていく必要がある。
また、農水省との交渉で出されてきた「生産コストの課題や農産物のブランド化をはかり、国際的な競争力を高める」という方向性は、共同化など農業の大型化もふくめ、私たちにとっても重要な課題であるが、多くの農村部落がかかえる狭小で条件不利地域、担い手の不足による高齢化する従事者などの現実からすると相当高いハードルであり、畜産や食肉関係でも同様のことがいえる。
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さて、私たちの部落の農林漁業の根本的な課題は、差別の歴史のなかで、その多くが居住や職業を固定化され、農地の所有、入会権や水利権、漁村部落においては漁業権などから排除されてきた。そうした状況のなかで、1969年に施行された「同和対策事業特別措置法」によって、農道や農業用水路、各種共同利用施設、農機具共同利用などが整備され、地域によっては周辺の農業者もふくめた構造改善事業が実施されてきた。漁村についても近隣の漁業者と連携して、漁船、漁港、養殖施設の整備などがすすめられてきた。しかし、40年以上経過した今日、総じてそうした施設や設備が老朽化し、資金不足や高齢化、担い手不足などもふくめて、前述した新たな視点での課題に対応するどころか現状を維持することも困難になってきている。
そうした課題について、これまでの農水省との交渉のなかで「経営体育成支援事業」やその枠組みでの「条件不利型地域」事業の活用という方向性が出され、昨年度から事業名が「強い農業・担い手総合育成交付金」と組み替えられ、とくに小規模・零細地域を対象とした「地域育成担い手タイプ」の活用という回答であった。もちろんこの事業は「同和対策事業の趣旨を継承する」との確認もされている。しかし、この事業の実施主体が市町村ということから市町村の認識や姿勢に大きく左右され、なかなか採択されていないという現状が提起されている。こうしたことから農水省には機会あるたびに市町村への事業趣旨の説明などとりくみの徹底を申し入れているが、具体的な要求課題をもとに市町村交渉を徹底していく必要がある。
また、全国に数多くある小規模部落の場合は、集落営農や共同利用と連携をすすめようと考えても地域のなかで圧倒的少数というきわめて厳しい状況があり、農林漁業運動部として、早急に方向を見いだすための検討をすすめていきたい。
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さて、これまで各地で全国農林漁業運動部長会議と現地視察を実施し、地域の具体的なとりくみ報告や現場の視察を通じて、可能性への提起を受け、参加者で情報共有と協議を重ねてきている。
以前から、企業の農業への新規参入と各種のアグリビジネスなどの起業化、産直施設やインターネットの活用、アンテナショップなど産地と消費地を結ぶとりくみ、などの提起を受けてきたが、その重要性は認識しながらも部落の農家の多くは、規模・水利・立地・高齢化などの問題をかかえている。さらに新たなとりくみのために克服しなければならないさまざまな課題の前に、多くの場合、足踏み状態にある。しかしいま、一歩、農業の「無限の可能性」に向けて踏み出さなければならない。
具体的には、「集落営農」を基礎に周辺地域の農家との連携や耕作放棄地をふくめた農地の集約化、共同利用施設の拡大と連携へのとりくみ。また、「地域・水・空気・太陽」をベースにした環境に優しい持続可能な農業への提起として、米・野菜栽培と酪農・畜産などとの連携による「循環型農業」や「有機農業」についても重要な課題である。さらに、ほかの農業生産グループとの連携や「産地」と「消費地」を結ぶネットワークの構築を早急に検討することも重要で、「ブランド化」や「雇用促進」を生み出している各地の活動に注視しなければならない。そうした意味で、フードバンクとの連携をはじめ各地ですすめられているさまざまなとりくみや工夫に大いに学んでいかなければならない。
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今日の部落の農林漁業や畜産、食肉関係者は、厳しい状況に置かれている。不確定要素を多分にふくんだ国内外の影響に加えて、昨年の「豚コレラ(今年2月に豚熱に名称変更)」などに加えて、本年のコロナ禍は、私たちの生活にさまざまな影響を与えている。
さらに、私たちの前には、新たな視点や多くの課題が山積している。しかし、そうした現状や課題にくらべて各都府県の活動は別にして、私たち農林漁業運動部としての活動はけっして強くて広範なものになっていない。早急に農林漁業運動部の活動の強化をはかっていく必要がある。そのためにも各市町村、都府県のとりくみを中央に集約し、情報や課題、成果を共有することが急務であるといえる。
また、私たちの活動は、生産者のみの課題ではない。「集落」を拠点に、他のさまざまな人との連携はもちろんのこと、生産者と消費者、生産地と都市を結ぶ活動としてすすめられなければならない。環境保護をテーマにした「循環型農業」の推進、食の安定供給と安全をテーマしたとりくみなどである。
農林漁業にかかわる課題を共有し、さらに全国的に運動を強化発展させていくことを提起したい。
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