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証人尋問を支援し、復刻版出版事件裁判闘争に勝利しよう

「解放新聞」(2020.09.25-2966)

 鳥取ループ・示現舎の「全国部落調査」復刻版出版事件裁判の第1回証人尋問が8月31日、東京地裁でひらかれ、部落解放同盟や支援団体など56人が全国から支援に集まった。コロナ感染防止で傍聴人数が制限されたため、原告や支援者は交代で法廷に入った。

 証人尋問では、原告団を代表して片岡明幸・闘争本部事務局長が証言台に立った。片岡事務局長は、みずからがかかわった結婚差別事件の事例を紹介したあと、1975年の「部落地名総鑑」事件、2012年のプライム事件、2013年の住宅販売会社土地差別事件をとりあげ、部落差別の深刻な実態を説明した。「部落地名総鑑」事件では、被告らが「被害は出ていない」と主張していることにたいして、購入企業が身元調査に利用していた実態を自身の体験から話した。

 また、被告らが掲載した「全国部落調査」復刻版の被害の事例として、データを印刷製本して販売した佐賀県のメルカリ販売事件や、茨城県古河市のストーカー事件をあげた。さらに「全国部落調査」復刻版を見たうえで「本当にこの地区は同和地区かどうか教えてほしい」という問い合わせが全国の自治体で増えていると証言した。

 つぎに、就職差別や戸籍の不正取得を防止するために設置された公正採用選考人権啓発推進員制度や高等学校統一応募用紙、登録型本人通知制度、土地調査防止ガイドラインなどの制度をあげ、被告らの行為が同和行政の成果や部落解放運動の成果を台無しにしていると指摘した。さらに、「隣保館や教育集会所の情報の公表は、地区の居住者や出身者等に対する差別意識を増幅して種々の社会的な場面や事柄における差別行為を助長するおそれがある」とのべて被告の請求を棄却した2014年の滋賀県の情報開示請求事件における最高裁の判決を紹介し、被告らの行為を弾劾した。

 つづいて、昨年法務省がおこなった「インターネット上の部落差別の実態に係る調査」をとりあげ、多くのユーザーが「全国部落調査」復刻版や「部落探訪」を閲覧して結婚相手や交際相手の身元調査をしている実態を説明、被告らの行為が文字通り差別を助長・拡散していることは国の調査でも明らかだとのべた。

 また、被告らのネット掲載をただちに削除するように求めた2016年の東京法務局の「説示」や、ネットに同和地区に関する識別情報を載せる行為は、目的の如何を問わず差別を助長するものであるとした2018年の法務省の「依命通知」、さらに「一部を抽出しての掲載等を含む一切の方法による公表をしてはならない」とした横浜地裁相模原支部の仮処分決定をとりあげ、被告らは国や裁判所に挑戦していると鋭く批判した。

 片岡事務局長は尋問の最後にプライム事件の首謀者が名古屋地裁で語った証言を紹介し、「身元調査が続いている現状のなかで、部落の一覧表を公表することは、差別の助長・拡散以外の何ものでもない」とのべ、裁判長にたいして「一日も早く差別を助長・拡散する本の出版を禁止し、ただちにインターネット上から削除するよう判断を出してほしい」と要請した。

 東京の松島幸洋さんは、兄弟や親せきが受けた結婚差別や自身が中学生の時代に受けた同級生からの差別発言を説明。大学の進学で上京したあと、当初は部落出身を名乗れなかったが、学内での差別事件をきっかけに我慢できずに名乗り出て解放研に参加した体験を語った。その後、解放運動に身を投じて東京で活動を続けるなかで体験した差別落書事件や都民の意識調査の結果を説明、地方から出てきて東京に住む部落出身者が、出自を隠して生きている実態を説明した。

 また、部落出身を公表しているからプライバシーの侵害はないという被告らの主張にたいして、出身を語るのは差別をなくしたいからであり、明らかにする必要性があるからで、むやみに明かしたりしていないとのべ、本人の了解も同意もなしに勝手に公表することは許されないと反論した。また、最後に「部落差別によって人間の尊厳が踏みにじられるのは我慢できない」とのべて裁判長に一刻も早く被告らの行為をやめさせるよう訴えた。

 被告らは、この4年間、さまざまな屁理屈をならべて復刻版の出版やネットへの掲載を正当化しようとしてきた。被告らがくり返しているのは、おもにつぎの5点だ。1点目は、「全国部落調査」復刻版の出版やネットへの掲載で被害は出ていない。2点目は、「全国部落調査」復刻版はたんなる地名リストだから、地名を公表しても人格権(プライバシーや名誉)の侵害にはならない。3点目は、原告や行政自身がこれまでさまざまな形で部落のリストや地名を公表してきている。4点目は、原告自身が新聞などで部落出身であることを公表(カミングアウト)しているのだから、被告らが公表してもプライバシーの侵害にはならない。5点目は、部落出身や部落の定義が定まっていないし、原告が「えた・ひにん」の子孫であることを証明していないから原告らに訴える資格はない、というものだ。

 いちいち反論する紙数はないが、1点目については、電話の問い合わせやメルカリ販売事件など全国で具体的な被害が出ている。なによりも公表すること自体、差別を助長し、人権侵害を引き起こし、人格権を侵害する行為だ。

 2点目は、「全国部落調査」復刻版はたんなる地名リストではない。差別を受けている被差別部落の地名一覧である。部落を公表すること自体が人権を侵害し、プライバシーを侵害するものだ。

 3点目は、公表の大原則は、当事者が希望または承諾していることだ。また、目的が明確で、公表の範囲と媒体が明確になっていて当事者が選択できることだ。被告の「全国部落調査」復刻版、「人物一覧」は、誰の承諾、同意もとっていない。

 4点目は、本人や当事者が公表していたとしても、第三者が本人の同意や承諾なしに勝手に公表してはいけない。これが個人情報の公表に関する大原則だ。われわれが名乗るのは、差別をなくしたいからで、みずから希望して名乗っている。しかし、被告らは、誰ひとりの許可もとっていない。誰も出すことを希望していない。

 5点目は、この裁判は定義を議論する裁判ではない。「全国部落調査」復刻版が差別を助長・拡散するかどうかを問う裁判だ。定義がどうであろうと、差別は差別として厳然と存在している。周辺から被差別部落と見なされ、差別されている地区が被差別部落だ。そもそも、「えた・ひにん」の子孫でなくても、部落に住んでいるか住んでいたか、親せきが住んでいるなどルーツをもっているものが部落民と見なされて差別されている。それが現在の部落差別だ。だから部落の地名リストを出すことが問題なのだ。

 提訴から4年かかった裁判も、いよいよ証人尋問がはじまった。証人尋問は、全部で4回(8月31日、9月14、28日、11月(予定))おこなわれ、証人尋問のあと、最終書面の提出をおこない、年度内には判決が出る見通しとなった。

 証人尋問では、被告側が争点をずらすために挑発的な質問をおこなってくることが予想される。証人尋問は、差別の深刻な現状を明らかにするともに、「全国部落調査」復刻版の出版や掲載が文字通り差別を助長・拡散することを生の声で裁判長に訴える貴重な機会である。

 そのために私たちは、証人尋問に立つ原告を激励するとともに、支援運動をあらためて活性化させよう。全国各地で裁判報告会や学習会を開催し、支援運動を広げ、鳥取ループ・示現舎の差別助長・拡散を弾劾し、裁判闘争に勝利しよう。

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