「解放新聞」(2020.10.15-2968)
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弁護団は、9月23日に新証拠と再審請求補充書を提出した。第3次再審で提出された新証拠は228点になった。提出された新証拠は、福江鑑定人作成の「筆跡鑑定の従来法と新鑑定法について(所見)」「コンピュータによる筆跡鑑定法について(解説)」と題した2通の書面。また、補充書は、福江鑑定、福江意見書にたいする検察官の反論についての再反論である。
弁護団は、2018年1月に福江潔也・東海大学教授(当時)による「脅迫状と上申書間におけるコンピュータによる筆者異同識別報告書」「脅迫状と手紙間におけるコンピュータによる筆者異同識別報告書」と題した鑑定書2通(福江鑑定)を提出した。福江鑑定は、コンピュータを使って、検査対象の文書の共通文字を重ね合わせて字形のズレ量を計測し、筆者が同じか異なるかを統計学的に判定する手法をもちいた筆跡鑑定だ。福江鑑定人は、脅迫状と事件当時に石川さんが書いた上申書(5月21日付、5月23日付の2通)・手紙に共通する文字「い、た、て、と」のすべてをコンピュータで読み取り、文字を重ね合わせて字形のズレ量を計測し、同一人か別人かを識別した。その結果、99・9%の識別精度で脅迫状の筆者と上申書・手紙の筆者は別人であると鑑定したものである。
その後、検察官は、この福江鑑定にたいする反論として警察庁科学警察研究所技官による意見書を提出した。弁護団は、これにたいして福江意見書を提出し、検察官は、さらに同じ科警研技官の意見書を2019年10月に提出してきた。検察官が提出した意見書は、福江鑑定の鑑定結果にたいして具体的に反論するのではなく、コンピュータによる筆跡鑑定の手法について「問題がある」と非難し、福江鑑定の手法によって筆者が同一か否かを判断することは適切でないとするものであった。しかし、どこが、どう問題なのか具体的には何ものべていない。福江鑑定は、コンピュータをもちいた客観的計測結果から、脅迫状と石川さんが書いた文字のズレ量(筆跡の相違度)が同一人の書きムラである確率は、上申書の場合0・0000000039%または0・00000000023%、手紙の場合0・0000000000034%または0・0000000000032%であると報告し、筆者が別人であると判断する根拠を数値として定量的に示している。しかし、この結果について検察側意見書は何も言及していない。
今回、弁護団が提出した補充書は、検察側の意見書が、「(福江鑑定は)限定的なデータベースに基づく」「問題がある」とくり返すだけで、何ら具体的に福江鑑定に反論していないことを指摘したうえで、福江鑑定の「コンピュータによる筆者異同識別」の手法は、2005年に法科学技術学会で発表されていらい、学会発表論文などにおいて科学的根拠があることが示されており、特許も取得されていることなどを指摘している。検察側意見書のあげる点が福江鑑定の結論の信用性に何ら影響をおよぼす問題点とならず、脅迫状と上申書・手紙の筆者は別人であるという福江鑑定の結論は揺るがない。石川さんは脅迫状を書いた犯人ではないことは科学的、客観的に明らかである。再審請求を審理する東京高裁第4刑事部の大野勝則・裁判長は、当時の石川さんが非識字者であり、そもそも脅迫状を書けなかったことをあわせて考えるべきだ。
一方、検察官は、7月31日付けで、弁護団が提出した平岡鑑定等について反論する意見書を提出した。平岡鑑定(平岡第1鑑定、平岡第2鑑定)は、寺尾判決が有罪の根拠の一つとしたスコップに関して、元京都府警科捜研技官である平岡鑑定人が、死体を埋めるのに使われたものとも、I養豚場のものともいえないことを科学的に指摘し、有罪証拠たり得ないことを明らかにしたものだ。弁護団は、この検察意見書にたいしても、証拠によって全面的に反論することにしている。
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2020年9月25日、東京高裁で第44回三者協議がひらかれ、東京高裁第4刑事部の大野裁判長と担当裁判官、東京高等検察庁の担当検察官、弁護団からは、中山主任弁護人、中北事務局長、高橋、竹下、小野、河村、山本、平岡の各弁護士が出席した。
今回は、大野裁判長が就任してはじめての三者協議であった。弁護団からは提出した福江第2意見書、補充書について説明し、福江鑑定が、石川さんが脅迫状を書いていないことを科学的に証明している重要な新証拠であることを強調した。今後、3次元スキャナをもちいた計測にもとづく足跡鑑定などの新証拠を提出することや、万年筆に関する新証拠である下山第2鑑定、原・厳島鑑定について検察官が提出した意見書の誤りを明らかにする証拠、血液型に関する鉄意見書、スコップに関する平岡鑑定について検察官が提出した意見書の誤りを明らかにする証拠などを、次回の協議までに提出する予定であることを裁判所に伝えた。
検察官は、死体運搬の自白の虚偽を示す新証拠にたいする反論を、次回三者協議を目処に提出する予定であり、その他の論点についても反論、反証を準備しているとのべた。弁護団は、これらの反証、反論についても再反論することにしている。次回の三者協議は12月下旬におこなわれる。
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狭山事件の第3次再審請求では、裁判所の勧告で、取調べ録音テープや逮捕当日の上申書など重要な証拠の開示がすすみ、供述心理鑑定、筆跡・識字能力鑑定、インクに関する下山第2鑑定などの重要な新証拠が提出された。弁護団は、新証拠の提出、検察官の意見書への再反論の提出をふまえて、鑑定人尋問の請求をおこなうことにしている。狭山事件では、石川さんと弁護団は1977年8月いらい43年以上も再審を求め、これまでにも多くの新証拠が出されているが、一度も鑑定人尋問がおこなわれていない。
足利事件では再審でDNA鑑定の再鑑定がおこなわれ菅家さんの無実が明らかになった。布川事件では、法医学者の鑑定人尋問や目撃証言にかかわる証人尋問がおこなわれ、再審が開始され無罪となった。証拠開示と事実調べは再審において不可欠である。
新たに担当裁判長に就任した大野裁判長には、足利事件をはじめ、この間の再審無罪の教訓を真摯にふまえて、狭山弁護団が提出した新証拠を十分検討するとともに、鑑定人尋問をかならずや実施し、狭山事件の再審を開始するよう強く求めたい。
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新証拠の作成など弁護団の活動を財政的に支えているのは月刊『狭山差別裁判』(狭山パンフ)の購読である。私たち一人ひとりが、狭山パンフを活用し、もう一度、狭山事件のえん罪の原点、新証拠や他のえん罪事件や司法制度について学習をすすめたい。
コロナ禍のなかでも、感染対策をとりつつ、学習会、集会や宣伝活動、要請ハガキ運動などがとりくまれている。石川一雄さん、早智子さんは、こうした全国のとりくみや寄せられるメッセージに力づけられている。全国の支援者を心配するとともに、みずからも感染予防と体調管理に十分気をつけて、元気で頑張っており、えん罪を晴らすまで不屈に闘う決意を新たにしている。私たちも、石川さんの再審無罪を実現するまで全力で闘う決意を新たにしたい。
狭山事件の確定判決となっている2審・東京高裁の寺尾判決から46年を迎える。新型コロナウイルスの感染拡大が収まっていない状況をふまえて、10月30日に東京・日比谷野音で予定されていた市民集会は中止となったが、市民集会実行委員会では、石川一雄さん、早智子さん、弁護団や市民の会のビデオメッセージを配信し、各地で学習会や集会等のとりくみをよびかけている。新証拠の学習・教宣を強化し、えん罪の真相と石川さんの無実を訴え、狭山事件の再審開始を求める声を広げよう。鑑定人尋問・再審開始を求める要請ハガキ運動を全国ですすめよう。再審法改正や誤判救済のための司法改革を求めて国会議員に働きかけよう。
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