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主張

 

菅政権による社会保障制度改悪を許さず、
地域共生社会の実現へ生活福祉運動を発展させよう

「解放新聞」(2020.11.25-2972)

 菅内閣発足後初となる第10回全世代型社会保障検討会議が10月15日にひらかれた。

  「全世代型社会保障」は、一億総活躍社会を掲げる安倍前政権の最重要課題でもあった。昨年9月、「全世代型社会保障」を話し合う政府の検討会議として内閣府に設置され、12月には年金・医療・介護・労働の制度改革の方向を示した全世代型社会保障検討会議中間報告が公表された。中間報告では、「人生100年時代」を視野に、高齢者の就労促進などによって社会保障の「支え手を増やす」ことや、経済力があれば年齢を問わず相応の負担をしてもらう「応能負担」が打ち出された。また、この中間報告にもとづき70歳までの就業機会の確保について、事業者に努力を求める法律が成立し、大企業に正規労働者の経験者採用比率(中途採用比率)の公表が義務づけられた。

 さらに、短時間労働者の被用者保険の適用拡大の見直しや、年金の受給開始時期の上限年齢を70歳から75歳に引き上げる法律も成立した。なお、今年6月に最終報告をまとめる予定だったが、新型コロナウイルス感染症拡大にともない、第2次中間報告をおこない、本年末に最終報告がまとめられる。

 10月の検討会議では、「少子化対策」をテーマに不妊治療への保険適用や男性の育休取得を促す方策、待機児童解消に向けた保育の受け皿整備などが議論された。出生率が4年連続で低下する今日、少子化対策は急務だが、安定した雇用の確保や性別役割分担意識の解消、保育の質を置き去りにしない待機児童解消などにも総合的にとりくまなければ根本的な解決にはつながらない。さらに今後は、75歳以上の医療費の自己負担の引き上げ、紹介状なしに大病院を受診したさいの上乗せ料金の引き上げといった負担の増加が年末までにまとめられる。これでは、年金で生活する高齢者の生活はますます苦しくなるばかりだ。

 また、2018年10月から実施されてきた生活保護費の削減が今年も予定どおり実施され、受給世帯のうち67%が食事や光熱費等にあてられる「生活扶助」を減額される。コロナ禍の影響で雇用状況の悪化や、失業によって経済的に困窮する人も増加し、今年4月の申請件数は、昨年の同月より24・8%増加しており、生活保護の果たす役割はますます重要になっている。しかし、菅政権は「自助」を強調することで、行政責任を放棄し、社会保障制度をよりいっそう改悪しようとしている。セーフティネットの崩壊へとすすむことのないよう、断固闘わなければならない。

 昨年12月26日、地域共生社会に向けた包括的支援と多様な参加・協働の推進に関する検討会(地域共生社会推進検討会)の最終とりまとめが公表された。地域共生社会の理念は「制度・分野の枠や、「支える側」「支えられる側」という従来の関係をこえて、人と人、人と社会がつながり、一人ひとりが生きがいや役割をもち、助け合いながら暮らしていくことのできる、包摂的なコミュニティ、地域や社会を創るという考え方。福祉の政策領域だけでなく、対人支援領域全体、一人ひとりの多様な参加の機会の創出や地域社会の持続という観点に立てば、その射程は、地域創生、まちづくり、住宅、地域自治、環境保全、教育など他の政策領域に広がる」と明記されており、福祉政策の新たなアプローチや「断らない相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」の3つの支援を一体的におこなう新たな事業の創設が必要だと提言している。この最終とりまとめを受けて、市区町村を実施主体とする任意事業として、3つの支援をふくむ「重層的支援体制整備事業」の創設や「社会福祉連携推進法人」の創設などをふくむ「社会福祉法」の一部改定がおこなわれた。

 「断らない相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」は、「人権と福祉のまちづくり」運動のなかで、実践してきたことであり、「人権と福祉」の拠点施設としての隣保館でもとりくまれてきたことだ。地域共生社会の実現に向けて、生活・福祉にかかわるさまざまな制度の改定・施行がおこなわれているなか、これまで培ってきた隣保事業が果たす役割は大きい。

 全国隣保館連絡協議会(全隣協)などと連携を強めながら、さまざまな施策における隣保館の役割や位置づけを明確にしていくとともに、「市町村地域福祉計画」や「都道府県地域福祉支援計画」のなかに隣保館の役割や部落問題をはじめさまざまな人権課題の解決の視点を位置づけ、福祉や医療・介護制度を充実させていかなければならない。

 菅首相は、「安倍前政権の継承と前進を掲げる」としており、「めざす社会像は「自助・共助・公助」そして「絆」。自分でできることは、まず、自分でやってみる。そして、家族、地域で互いに助け合う。その上で政府がセーフティネットでお守りする」と公言した。安倍前政権と同様、「公助」であるセーフティネットを弱める制度改悪がすすめられることは明白だ。

 さらに、コロナ禍のなか介護事業所の倒産が過去最多を更新し、障害者や非正規労働者の解雇、新卒者をはじめ求人・採用の激減、ひとり親世帯をはじめとする生活困窮者の増加、エッセンシャルワーカーの保障の問題など、福祉にかかわる課題が浮き彫りになっている。これまでの専門分野に応じて縦割りだった福祉政策を、地域共生社会の実現に向け、これからは分野や政策の枠をこえて地域や社会を創っていくなかで、福祉政策の地域格差が顕著にあらわれていくことが懸念される。しかし、それぞれの地域の実情など違いはあるが、それぞれの地域ごとに特色をもったとりくみをすすめていくことができるということでもある。

 この機会をチャンスと捉え、制度を学び、これまでの「人権のまちづくり運動」をさらに発展させ、自治体やほかのNPO、社会福祉協議会などと連携したとりくみを創っていくことが必要である。「公助」としての財源の保障や制度の拡充を求めていくとともに、社会的支援を必要とする人が排除されたり、置き去りにされたりすることのない地域福祉運動を部落内外の力で発展させよう。

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