「解放新聞」(2020.12.05-2973)
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1946年11月3日に日本国憲法が公布され、74年が経過した。2012年12月に発足した安倍政権は、「戦後レジームからの脱却」を訴え、日本近代史を再解釈し、歴史修正主義をすすめた。そして「特定秘密保護法」(13年)「安全保障関連法」(戦争法・15年)「組織的犯罪処罰法」(共謀罪・17年)など、憲法理念をふみにじる法律成立の暴挙をおこなった。
また、安倍前首相は、一貫して憲法改悪を自身の政治的最大の目標として掲げ続けた。自民党の「憲法改正に関する論点とりまとめ」で9条1項・2項を維持したうえで、9条の2として「必要な自衛の措置を取ることを妨げず」「内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する」と明記する「加憲」案を提起するなど、改悪の策略をめぐらした。
長期化した安倍政権下では、森友・加計学園の問題、桜を見る会の問題など、首相自身や妻をめぐる疑惑などが噴出し、公文書改ざん問題や官僚たちの過剰な忖度が指摘された。これらの疑惑や問題点に真摯に向き合って説明せず、反省することなく、憲法改悪を放り出し、20年8月、健康状態を理由に辞任を表明した。
国会で、憲法改悪勢力が衆参両院で3分の2の議席を維持しながらも、改悪を阻止できたのは、「戦争をさせない1000人委員会」「安倍9条改憲NO!全国市民アクション」がよびかける「安倍9条改憲NO!憲法を生かす全国統一署名」など、全国的な市民運動のねばり強いとりくみがあったからだ。
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20年9月に菅義偉・内閣が発足した。菅首相は、就任後初の記者会見で、前首相の辞任について「病気のため道半ばで退かれることになった。無念の思いを推察する」とし、「この国難にあたって政治の空白は決して許されない。この危機を乗り越え、全国民のみなさまが安心して生活を取り戻すためには、安倍政権がすすめてきたとりくみを、しっかり継承して前にすすめていく、そのことが私に課された使命だ」と語り、安倍政治を引き継ぐ決意をのべた。
発足間もなく、学者の立場から政策を提言する国の特別機関である日本学術会議が新たに推薦した会員のうち、6人の会員候補の任命を菅政権が拒否したことが明らかになった。「日本学術会議法」は「会員は同会議の推薦に基づき、総理大臣が任命する」と定めているため、首相に選任する権利はない。83年の参議院文教委員会でも政府は「学会から推薦したものは拒否しない、形だけの任命をしていく、政府が干渉したり、中傷したり、そういうものではない」と答弁している。
任命拒否された推薦候補6人は、15年の「戦争法」の国会の中央公聴会で、「戦争法」が「歯止めのない集団的自衛権の行使につながりかねない」と違憲性を指摘した小沢隆一・東京慈恵医科大教授をはじめ、「特定秘密保護法」「改正組織犯罪処罰法」など政府方針に批判的だった学者。政権の意にそわない学者を強権的に排除したものだ。この過去に例のない露骨な人事介入は、憲法が保障する学問の自由と、日本学術会議の独立性を侵害する暴挙であり、絶対に許されない。
菅政権発足後初めて、自民党の憲法改正推進本部の役員会がひらかれ、本部長に就任した衛藤元衆議院副議長は、「自衛隊の明記」など党の4項目の改正案について、起草委員会で具体的な条文にまとめる作業をすすめたいと考えを示した。会合で二階幹事長は、「国民投票法改正案が継続審議となっており、着実に前にすすめていかなければならない」とし、「国民投票法改正案」の早期成立をめざす方針が確認された。
また衛藤本部長は、「自衛隊の明記」や「緊急事態対応」など党の4項目の改正案について「たたき台のイメージ案であり、完成された条文ではない。党として憲法改正原案を策定するため、起草委員会を立ちあげたい」とのべ、起草委員会で具体的な条文にまとめる作業をすすめたいと考えを示した。安倍政治を引き継ぐ菅政権は、憲法改悪の歩みを着着とすすめている。
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憲法学者は、衆院憲法審査会で「戦争法」を違憲と指摘し「95%を超える憲法学者が違憲だと考えているのではないか」とも語った。この疑義にたいし、当時の菅官房長官は「安保法制を合憲と考える学者もたくさんいる」としたが、後日「数(の問題)ではない」とのべ、事実上前言を撤回した。にもかかわらず、安倍政権は、「戦争法」強行採決につながる解釈改憲をした。13年8月8日の閣議で、内閣法制局の山本長官を退任させ、「集団的自衛権」行使容認派の小松一郎・駐仏大使を長官に就任させた。内閣法制局が一貫して堅持した「集団的自衛権の行使は憲法上認められない」という解釈を強引にくつがえした。「集団的自衛権」行使を可能にしただけでなく、官邸主導の恣意的人事で憲法と法律の解釈を変え、憲法を否定し、立憲主義を破壊する行為であり、絶対に許してはならない。
憲法前文に、「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する。これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである。われらは、これに反する一切の憲法、法令及び詔勅を排除する」とあり、主権は国民にある。しかし、安倍政権は、法による支配を否定し、森友・加計学園問題や桜を見る会など、「お友達」には手厚く、自分と考えの違う人間は更迭する「人による支配」を実行してきたことに、満身の怒りをもって抗議しなければならない。
菅新政権も、日本学術会議の任命問題で早くも本性をあらわした。菅首相は、6人の学者を任命しなかった理由を明らかにせず「総合的・俯瞰的判断」とした。まさに学問への国家介入をいっそう強めるために、権力を行使したものだ。いまこそ憲法で公権力を制限し独裁を排除し、立憲主義、国民主権を取り戻し、憲法理念の実現に向けてとりくもう。
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「まもろう、平和と人権!すすめよう、民主主義と共生!憲法理念の実現をめざす第57回大会(滋賀大会)」(第57回護憲大会)がひらかれた。新型コロナウイルス感染症問題で、日程を短縮し、参加者を絞り、オンライン中継を活用し、全国各地から約200人が参加したほか、多くのリモート参加があった。
特別報告では「敵基地攻撃論と日米軍事同盟強化」についてビデオ形式で各専門家の提起を受けた。メイン企画では、シンポジウム「新型コロナウィルス感染症と日本の人権状況」がひらかれ、弁護士、大学教授、看護師の各パネリストが登壇。外国人、外国人学校、医療現場、女性の差別についてディスカッションした。また、憲法課題をめぐる課題では、滋賀の多文化共生のとりくみ、水俣病の解決をめざすとりくみ、女性の現状、沖縄現地の情勢が、映像を活用して報告され、各地からさまざまな課題が報告された。
各問題提起や報告では、自公政権の政策で貧困・格差問題が深刻化し、格差や貧困、偏見、差別があたりまえの社会がつくられ、生命が序列化され選別される社会が生まれていること。アベノミクスや働き方改革で、人間と労働を国家と経済の道具とし、国家と経済に貢献させるものとするなど、人間の安全保障が置き去りにされ、国家の安全保障が優先される社会づくりがされてきたことなどが訴えられた。
いまこそ、「平和主義」(憲法9条)「基本的人権の尊重」(11条)「個人の尊厳」(13条)「生存権」(25条)が守られるよう、平和と人権、民主主義と共生など憲法理念の実現に向けたとりくみが求められている。
私たちには、「戦争法」をはじめ憲法違反の法律を廃止し、平和といのちと人権を取り戻し、未来に引き継ぐ責任がある。戦争する国づくりをすすめ、新自由主義路線で貧困と格差を拡大する自公政権と対決し、立憲主義と平和憲法を守り、人権・平和・民主主義の確立をめざし、すべての市民と連帯して闘い抜こう。
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