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結審を迎える「全国部落調査」復刻版出版事件裁判、
勝利に向けて闘いを強化しよう

「解放新聞」(2020.12.15-2974)

 「全国部落調査」復刻版出版事件裁判の証人尋問が8月から11月にかけておこなわれ、原告側は9人が証言台に立ち、結婚差別や就職差別などの体験を証言し、被告鳥取ループ・示現舎の行為を厳しく批判した。

 いっぽう被告らは、あくまでも「全国部落調査」復刻版の出版とインターネットへの掲載にこだわり、「判決が出ても(出版や掲載は)やめない」などとひらきなおった。裁判は来年3月18日に結審となり、5月以降には判決が出される見通しとなった。この裁判に勝利するため、全国の各都府県連や支援団体に裁判闘争の強化をよびかける。

 証人尋問は、8月31日、9月14日、9月28日、11月9日(オンライン)におこなわれ、9人の原告が証言台に立って証言をおこなった。裁判は、コロナ感染防止対策で傍聴人数が制限されたため、原告や支援者は交代で法廷に入って傍聴した。

 第1回証人尋問では、原告団を代表して片岡明幸・糾弾闘争本部事務局長が証言した。片岡事務局長は、みずからかかわった結婚差別事件の事例を紹介した。

 そして、1975年の「部落地名総鑑」事件、2012年のプライム事件、2013年の住宅販売会社土地差別事件をとりあげ、部落差別の深刻な実態を説明した。

 また、昨年、法務省がおこなった「インターネット上での部落差別に関する実態調査」をとりあげ、多くのユーザーが「全国部落調査」復刻版や「部落探訪」を閲覧している実態を説明し、被告らの行為が差別を助長拡散していることは国の調査でも明らかとのべ、裁判長に「一日も早く本の出版を禁止し、インターネット上から削除するよう判断を出してほしい」と要請した。

 松島幸洋さん(東京)は、兄弟や親せきが受けた結婚差別や自身が中学生の時代に受けた同級生からの差別発言を証言。大学の進学で上京したあと、部落解放運動に身を投じて東京で活動を続けるなかで体験した差別事件を説明し、地方から出てきて東京に住む部落出身者が、出自を隠して生きている実態を証言した。

 第2回証人尋問で、田村賢一さん(大阪)は、自身が経験した就職差別と結婚差別を語り、小学生がインターネットで誤った部落問題を刷り込まれている最近の事例を紹介。被告らの「全国部落調査」復刻版をただちに削除するよう訴えた。

 池田千津美さん(兵庫)は、1970年代の小学校新設時におきた差別事件を説明し、地区懇談会では「部落退場」のコールをくり返されたと証言した。

 西田義則さん(大阪)は、中学校PTA活動での差別体験を説明。インターネット上の差別情報やSNS(フェイスブック)を利用したことによって情報が盗まれ、自分の家族におよぶ差別被害への恐怖を強く訴えた。

 下吉真二さん(鳥取)は、学生時に友人から受けた差別体験を語り、鳥取県内の同和地区をグーグルマップに掲載した被告らの行為は、第三者が差別するよう仕組んでいる悪質な差別行為であると非難した。

 松岡克己さん(三重)は、剃刀の刃やアイスピックを同封した郵便物が部落解放同盟三重県連などに送られた事件を報告。被害は深刻であり、一刻も早くインターネット情報のばらまきを止めるよう裁判長に訴えた。

 第3回証人尋問では、被告らがみずからの行為の正当性を主張し、支持者もいると自画自賛した。弁護団は、被告らがツイッターやブログなどでくり返した差別を煽動する書き込みを証拠として示し、被告らが、深刻な差別を生むと知りながら意図的に図書の販売やインターネットに掲載した事実を暴いた。また、弁護団は「全国部落調査」復刻版の発行を禁じる仮処分命令の発令後に、ほぼ同じ内容の地名リストを掲載した「全国部落解放協議会5年のあゆみ」を発行した問題をとりあげ、ツイッターに「実のところ、仮処分命令が出ても実害はないんですよ。表題を変えて別の名目で出版するとか…いくらでも回避方法はあります」と書き込んでいるが、その意図は何かと追及した。被告Mは「おちょくるためだった」と答え、判決が出されてもそれにしたがう意思がないことを明け透けにのべた。

 その後、原告の川口泰司さん(山口)が証言に立ち、滋賀県研究集会の分科会から「追い出された」と反訴している被告Jの主張にたいして事実関係を証言し、強制排除、私物没収などは事実とかけはなれた被告らのウソであることを暴いた。

 第4回証人尋問は、東京地裁と福岡地裁をオンラインで結び、おこなわれた。証人として篠原茂さん(福岡)が、知人が結婚差別を受け、相手方の親が結婚を阻止しようと相手に暴力をふるうなどした差別事件を証言。また、自身の情報が勝手に拡散されることは、自分だけでなく家族にも恐怖を与えるとのべ、被告らの晒し行為を強く批判した。

 裁判ではつぎの5点が争点になっている。
 1点目は、「全国部落調査」復刻版の出版やインターネットへの掲載で被害があるのかどうか。2点目は、「全国部落調査」復刻版による地名の公表が人格権(プライバシーや名誉)の侵害になるのかどうか。3点目は、原告や行政がこれまで部分的に部落の地名を公表してきていることが、「全国部落調査」復刻版の出版禁止と矛盾しないかどうか。4点目は、原告自身が新聞などで部落出身であることを公表(カミングアウト)しているが、被告らの公表がプライバシーの侵害になるのかどうか。5点目は、原告に訴える資格があるかどうか、というものだ。

 1点目については、電話の問い合わせやメルカリ販売事件など全国で具体的な被害が出ている。なによりも出すこと自体、差別を助長し、人格権を侵害する行為だ。2点目は、「全国部落調査」復刻版が掲載するのはたんなる地名ではない。差別を受けている被差別部落の地名一覧である。被差別部落を公表すること自体が被差別部落出身者の人権を侵害し、プライバシーを侵害するものだ。3点目は、原告が名乗るのは、差別をなくしたいからで、みずから希望して名乗っている。しかし、被告らの行為は、晒しである。4点目は、公表の大原則は、当事者が希望または承諾していることだ。また、目的が明確で、公表の範囲と媒体が明確になっていて当事者が選択できることだ。被告らは、誰の承諾、同意もとっていない。5点目は、現在では、部落に住んでいるか住んでいたか、あるいは親せきが住んでいるなどのルーツをもっているものが部落民と見なされて差別されている、もしくは差別される可能性があり、十分に原告の資格はある。

 提訴から5年経過した裁判も、いよいよ大詰めを迎え、3月18日に結審となり、5月以降に判決が出る見通しとなった。被告らの行為は、部落差別が現存する今日の社会情勢下では、部落差別を助長・煽動する許しがたい差別行為そのものだ。長年にわたる行政や企業、宗教団体、労働組合などとの部落差別撤廃に向けたとりくみの成果を台無しにし、全国水平社いらいの部落解放運動を冒瀆(ぼうとく)する行為である。「全国部落調査」復刻版が出版されれば、被差別部落出身者にたいする差別意識が煽られ、就職差別や結婚差別を受ける危険性が増幅することは明らかだ。裁判闘争勝利のために全国で学習会や報告集会を開催し、結審には東京地裁に集合しよう。

 

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