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NEWS & 主張

主張

 

部落解放運動の前進に向けて、闘いの総括をすすめ、
新たな年の闘いを準備しよう

「解放新聞」(2020.12.25-2975)

 今年は、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、われわれの生活はもちろんのこと、部落解放運動も、さまざまな制限や制約があるなかでのとりくみとなった。とくに、3月に開催する予定だった第77回全国大会は延期の決定以降、会場の変更や大会規模の縮小などを検討してきたが、感染症拡大が収束しないなかで、中央委員会構成役員による意見集約をふまえ、書面表決方式で7月14日に成立、全議案が承認された。多くの都府県連大会も、規模縮小や全国大会と同様、書面表決による開催、中止などの措置がとられた。

 また、全国女性集会や全国高校生・青年集会、全国研究集会などの全国的な集会も延期、中止されるなど、各地ですすめてきたとりくみの交流や、当面する課題での意見交換ができない状況のままであった。とくに、部落解放・人権政策確立要求中央集会や国会議員などへの要請行動のとりくみを中止し、政府各省交渉も、個別の対応としてきた。さらに、狭山事件の再審を求める市民集会も開催を見合わせ、都府県連ごとの集会、学習会のとりくみを要請してきた。

 このように、感染症の拡大の影響は大きく、これまで経験したことのない困難な情況が続いてきた。しかし、この間、オンライン開催や規模縮小、時間短縮など、さまざまな工夫をしながら、中央執行委員会や中央委員会のほか、それぞれの運動部会議を実施してきた。今後も、感染予防対策を重視しながら、当面の闘いの課題を協議し、意思統一に向けたとりくみをすすめていく必要がある。また、「解放新聞」中央版やホームページなどで、部落解放運動をめぐる情勢や闘いの課題、各地の運動など、的確に情報提供できるように、さらに教宣活動を強化していくことも重要である。

 われわれがすすめている部落解放運動は、差別―被差別の関係の変革をめざして、今日の部落差別の実態を広く訴え、部落差別撤廃に向けた闘いへの共感を拡げていく協働の営みである。いま、感染症拡大による影響で、そうした活動が制約、制限されているが、それぞれ工夫しながら、さまざまな手段でとりくみをすすめていこう。

 感染症の世界的大流行(パンデミック)は、世界各国の政治や経済の混乱を生み出し、社会不安を増大させてきた。とくに、米国のトランプ大統領がすすめてきた自国第一主義による対立的な国際情勢によって、感染症拡大防止に向けた共同の対策がすすまず、各国では、貧困や格差の問題をいっそう深刻化させることになった。

 日本でも、突然の小学校や中学校の一斉休校の要請や個人給付金の支給などについて、当時の安倍政権の感染症防止策が二転三転するなど、無責任な政府の対応によって、社会的な混乱がいっそう深まった。また、突然退陣した安倍政権を継承するとした菅政権も、「緊急事態宣言」を出した時点よりも感染者が増え、医療崩壊の危機が指摘されているにもかかわらず、経済優先の観光支援事業「Go To トラベル」の実施を強行してきた。ようやく年末に向けて、大阪、札幌、東京、名古屋を先行させ、その後に全国的に一時停止を決定したものの、効果的な感染症対策はまったくすすんでいないのが現状である。

 一方、菅政権は、当時の安倍首相による「桜を見る会」での事務所負担問題での偽証答弁について、安倍政権で官房長官として同様の答弁をくり返してきたことへの説明責任を放棄したままである。さらに、日本学術会議会員任命拒否問題でも、学問や研究の自由への介入、異論と多様性の排除にたいして抗議が強まっているが、具体的な説明を拒否するなど、安倍政権以上の強権的な政治がすすめられている。

 また、沖縄県の民意を無視した辺野古新基地建設をあくまでも強行する姿勢であるとともに、軍事予算は過去最大となっている。しかも「敵基地攻撃力」の保持を検討するなど、これまで以上に米国に追従し、憲法違反の戦争推進政策をすすめようとしている。

 われわれは、この間、差別と戦争に反対する闘いを全国的にとりくみ、感染症が拡大するなかでも、国会前行動への参加や、全国各地での戦争反対の共同の闘いをすすめてきた。今後とも、菅政権の憲法改悪策動を許さず、人権と平和、民主主義の確立に向けた活動をいっそう強化しよう。

 2016年12月に施行された「部落差別解消推進法」の具体化に向けたとりくみでは、全国での条例づくりがすすめられてきた。また、法務省は「部落差別解消推進法」第6条にもとづき実施した、自治体での部落差別事象やインターネット上の部落差別情報の集約とともに、昨年8月におこなった部落差別に関する国民意識調査結果をふくめた報告を明らかにした。

 調査結果報告では、いまだに結婚、交際をはじめ雇用での差別が存在しており、さらにインターネット上にある被差別部落情報が、身元調査につながるものであることが明確になっている。われわれも、この調査結果をふまえ、今後の施策のあり方についてとりまとめ、政府や各党にたいして強力に要請していくことが必要である。とくに、「障害者差別解消法」や「ヘイトスピーチ解消法」「アイヌ施策推進法」など、個別人権課題での法的措置がすすめられてきたことをふまえるとともに、国内人権委員会設置を中心にした人権侵害救済制度を実現していくとりくみを強化していかなければならない。

 人権侵害救済制度の確立は、政府が設置した人権擁護推進審議会が2001年に答申した「人権救済制度の在り方」でも要請されているものである。さらに、政府が批准している国連人権諸条約の関係委員会からも勧告を受けているように、国内人権委員会の設置を早急に実現していくことが強く求められている。

 狭山再審闘争では、6月末に裁判長が交代したが、下山第2鑑定や福江鑑定など、石川一雄さんの無実を科学的に明らかにした新証拠の学習、情宣を強めていかなければならない。感染症が拡大し、集会や学習会などの開催でさまざまな制限があるなかで、要請ハガキのとりくみなどをすすめ、「石川無実」の世論をさらに大きくして、事実調べ―再審を実現しよう。

 差別糾弾の闘いでは、鳥取ループ・示現舎にたいする裁判闘争が、8月末から口頭弁論が再開され、証人尋問も終了し、来年3月には結審する。インターネット上の部落差別をはじめ、さまざまな差別情報の氾濫にたいする闘いとして裁判闘争支援を拡げ、彼らの差別的な居直りを許さず、裁判闘争に勝利しよう。

 われわれは、感染症拡大が収束しないなかで、こうした具体的な闘いの課題にとりくみ、部落解放運動を前進させてきた。また、今日の菅政権のように、経済活動を優先するような感染症対策では、安全安心の社会は実現できないことも、しっかりと訴えてきた。とくに、社会連帯、いのちと生活を守る部落解放運動の果たす役割はますます重要になっている。

 本年の部落解放運動は、世界的な感染症拡大という、かつて経験したことのない困難な情況のなかでとりくみ、われわれの運動の真価が問われた一年でもあった。本年の部落解放運動の到達点と、十分に成果をあげられなかった課題を総括し、新たな年に向けて、闘いの準備をすすめよう。

 

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