「解放新聞」(2021.01.25-2978)
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2020年末に狭山事件第3次再審請求の45回目の三者協議がおこなわれ、弁護団は、それに先立って足跡についての新たな鑑定など13点の新証拠を提出した。提出された新証拠は241点におよぶ。
足跡新鑑定は、東京大学、東京都立大学の4人の科学者が、裁判所に保管されている犯人があらわれた現場の足跡の石こう型や石川さん宅から押収された地下足袋、押収地下足袋で警察が作成した対照足跡(石こう型)などの立体形状を、3次元スキャナをもちいて計測し、そのデータにもとづいて有罪判決の根拠となった埼玉県警鑑識課員による足跡鑑定を検証したものである。警察の足跡鑑定は、現場足跡と対照足跡の写真を撮って、平面写真上で長さや角度を測って、地下足袋の破損箇所の痕跡が両足跡に印象されているとして、2つの足跡が一致する、すなわち、現場足跡は石川さんの家の地下足袋によるものであるという鑑定だ。本来、立体である足跡の石こう型を写真上に点をとって長さや角度を測って特徴が一致するという鑑定手法自体に無理があるだろう。今回提出された足跡新鑑定は、3次元スキャナをもちいて立体形状を客観的に計測することで、このような警察鑑定の誤りを明らかにし、破損の痕跡とされた部分の立体形状が大きく異なることを指摘している。
また、スコップについての元科捜研技官である平岡義博・立命館大学教授による第3意見書、血液型についての鉄堅・医学博士による第2意見書、万年筆発見経過についての原聰・駿河台大学教授と厳島行雄・日本大学教授による意見書も提出された。これらの専門家による意見書は、検察官の意見書の誤りを明らかにし、有罪判決が崩れていることを示す科学的新証拠である。弁護団は、これらの新証拠、旧証拠を総合的に評価し、再審を開始すべきだと訴えている。
また、弁護団は、スコップに関して、警察が鑑定資料とした土の採取経過や報告書、写真などの証拠開示を求めている。有罪判決の根拠となった警察の鑑定を再検討するために必要だからだ。検察官にたいして証拠開示を勧告するよう裁判所に強く求めたい。
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検察官は、昨年12月16日に意見書を提出した。殺害方法、死体の逆さづり、死体運搬などの論点について弁護側の新証拠に反論するものだ。弁護団は、これらの検察官意見書についても証拠によって今後、反論することにしている。
弁護団は今年には、準備中の新証拠、検察官への反論などの提出をふまえ、鑑定人尋問を請求することにしている。いよいよ重要な正念場を迎える。
狭山事件は今年で事件発生、石川さんがえん罪におとしいれられて58年を迎える。1977年に最高裁の上告棄却決定で無期懲役判決が確定し、石川さんが再審を求めて43年以上にもなるが、一度も鑑定人尋問などの事実調べがおこなわれていない。あまりに不公平、不公正である。第3次再審請求では、多くの専門家による鑑定書が提出されている。コンピュータをもちいた計測データをもとに統計的に違いを判定した筆跡鑑定、蛍光X線分析による万年筆インクの鑑定、元科捜研技官によるスコップの鑑定、法医学者による殺害方法、死体処理、血液型の鑑定、3次元スキャナをもちいた足跡鑑定などいずれも専門家による科学的証拠である。しかも、これらにたいして検察官は反証、反論を提出しており、科学的証拠を公正・公平に評価するために鑑定人尋問は必要であろう。先日、大崎事件の第4次再審請求では、弁護団が提出した新証拠について鑑定人尋問がおこなわれている。これまでの多くの再審請求で鑑定人尋問や証人尋問などの事実調べが実施されているのである。東京高裁第4刑事部(大野勝則・裁判長)が、狭山事件の再審請求においても、弁護団が求めた鑑定人尋問をおこなうよう強く求めたい。
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昨年12月22日付けで、最高裁第3小法廷(林道晴・裁判長)は、袴田事件の第2次再審請求で、東京高裁の再審棄却決定を取り消し、審理を東京高裁に差し戻す決定をおこなった。5人の判事のうち2人は再審開始を主張し、3対2の多数決で差し戻し決定となったことが注目される。
そもそも、袴田事件では、2014年3月に静岡地裁が再審開始と袴田巖さんの釈放を決定したが、検察官が即時抗告し、2018年6月に東京高裁が、再審開始を取り消し、再審請求を棄却するという不当決定をおこなったという経緯がある。
今回の最高裁決定は、重要な争点である「犯行着衣」とされた衣類の血痕の色の問題にかかわって弁護団が提出した科学的な新証拠について東京高裁が十分検討せず、再審を棄却したことは審理不尽であると指摘し、高裁決定を取り消さなければいちじるしく正義に反するとしている。
さらに、2人の最高裁判事は、静岡地裁の再審開始決定を根幹において是認できるとし、味噌漬け実験報告書だけでなく、静岡地裁の再審開始決定の根拠となった弁護側のDNA鑑定も有罪判決に合理的疑いを生じさせる新証拠と認め、「さらに時間をかけることになる」「審理差し戻し」ではなく、検察官の即時抗告を棄却して再審を開始すべきであるとしているのだ。こうした今回の最高裁決定をふまえ、審理が差し戻された東京高裁が、科学的証拠についての公正、公平な審理を迅速におこない、一日も早く再審開始を決定するよう求めたい。
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袴田事件は事件発生から54年以上が経過し、2014年3月の再審開始決定から7年になろうとしている。この時点で再審公判がはじまっていれば袴田巖さん(84歳)に無罪判決がとっくに出ていたであろう。あらためて、再審開始決定にたいして検察官が抗告したことの問題を考える必要があるのではないか。狭山再審でもそうだが、検察官は、公費を使い放題で、再審をつぶすための証拠を反論と称して提出する。今回の袴田事件の最高裁決定をとおして、再審の現状の問題を考えるきっかけにする必要がある。
今回の袴田事件の最高裁決定を機に、再審の審理のあり方を国会でも十分議論するべきだ。この1月からはじまる通常国会で、再審法改正の議論をすすめるよう国会議員に働きかけよう。また、地方議会で再審法改正を求める意見書の採択をすすめよう。
再審法改正は、狭山再審の闘いにおいて証拠開示や事実調べを実現するためにも重要な課題だ。再審における証拠開示を検察官の義務とし、鑑定人尋問などの事実調べをおこなうなど、誤判から無実の人をすみやかに救済できるように、再審の手続きを整備する法改正を実現する運動を狭山の闘いと結びつけてすすめたい。
狭山再審の次回の三者協議は4月下旬におこなわれる。弁護団は、検察官が提出した意見書にたいする反論および自白についての新証拠を提出する準備をすすめている。いずれにせよ、今年、狭山弁護団は鑑定人尋問を請求する。全国から東京高裁に鑑定人尋問、再審開始を求める市民の声を届けていこう。
重大な正念場であることを受けて、石川一雄さんも決意を新たにしている。石川さんはこの1月で82歳を迎えたが、石川早智子さんとともに、感染予防、体調管理を徹底し、元気で生きる闘いを続けている。年頭のビデオメッセージも中央本部のホームページに載せられている。
コロナ禍で集会の開催等がむずかしい状況のなかでも、全国で工夫したとりくみがおこなわれている。狭山パンフやビデオメッセージを活用し、各地で新証拠の学習・教宣を強化し、えん罪の真相と石川さんの無実を訴え、東京高裁に狭山事件の再審開始、鑑定人尋問を求める世論を広げよう!
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