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「全国部落調査」9・27判決に向けた当面の闘い

「解放新聞」(2021.04.15-2987)

 鳥取ループ・示現舎の「全国部落調査」復刻版出版事件裁判の最終弁論が3月18日、東京地裁でおこなわれ、原告、被告双方が最終意見陳述をおこなった。鳥取ループ・示現舎を相手に5年にわたって闘ってきた「全国部落調査」復刻版出版事件裁判も結審となり、9月27日に判決が出されることになった。

 この日の最終陳述では、原告団を代表して片岡副委員長が陳述した。片岡副委員長は、「全国部落調査」は公表自体が部落差別を拡散助長する、被告らがネット上に掲載したことにより誰でも簡単に見られる状態となり、それを見た人が確認のために市町村に問い合わせている、とのべ、被告らの行為が差別を拡散していることを弾劾した。また、裁判所が被害の軽重を検討していることにたいし、部落にルーツを持つ人は等しく「部落出身者」と見なされ差別されている現実に立って見れば、被害の「分類」には意味がない、と主張した。さらに、原告が部落出身を公表するのは、差別をなくすためであり、何ら動機もなく出身を公表している人は一人もいない、とのべ、公表―非公表で損害をわけようとする意見を批判した。また、被告らが東京法務局の「説示」や横浜地裁の出版禁止仮処分を無視し、「全国部落調査」をヤフーオークションで売り渡した行為は裁判所への挑戦だ、と批判。最後に、万が一、裁判所が私たちの請求を認めなければ、被告らの行為にお墨付きを与えることになる。これ以上差別を拡散させないために一刻も早く、「全国部落調査」出版差し止めと、ネットからの削除、損害賠償の決定を求める、と意見をのべた。

 弁護団を代表して指宿昭一・弁護士は、ネットへの掲載、「全国部落調査」の出版は結婚差別や就職差別に悪用される可能性があり、差別解消をめざす部落解放同盟のこれまでのとりくみを水泡に帰す行為で、差別をなくそうとする部落解放同盟の業務を円滑におこなう権利の侵害であるとのべ、「水平社宣言」を引用し、差別が拡散され、人間の尊厳が傷つけられ、光が失われる世をつくってはならない、と訴えた。

 被告Mは、「原告らは陳述書で部落差別が存在する、あるいは部落差別を受けたと主張」するが、「それがなぜ全国部落調査を出版禁止することと関係があるのか」とのべた。また、部落解放同盟も同和事業も部落に利益をもたらさなかった、としたうえで、部落問題について、間違った知識を植え付けられたことによる洗脳と抑圧であり、「より多くの人が洗脳から解放されることを望」むと偏見に満ちた自論を展開した。

 裁判は9月27日に判決を迎えるが、裁判闘争に勝利し、またネットにあふれる部落差別情報を削除するために、当面つぎのとりくみをすすめよう。

 第1は、法務省や地方法務局にたいして削除要請を迫ること。この裁判の直接の目的はもちろん鳥取ループ・示現舎の復刻版の出版禁止とネットからの削除を実現することだ。しかし、現実には、鳥取ループに刺激された形でさまざまな差別情報がネットに掲載されている。鳥取ループだけが問題なのではない。法務省は少なくともどこが部落だという識別情報を出すことは差別になるといい、削除要請があれば削除の措置をとるという通知を出しているが、実際には削除されていない。それは強制力をもった法律がないからだが、法律がないからネットへの掲載が削除できないのは仕方がないというわけにはいかない。各地方法務局にできるだけ早く削除するようにひき続き迫っていかなければならない。

 第2は、モニタリング活動を強化することだ。鳥取ループの「全国部落調査」や「部落探訪」をはじめ、いまネット上には差別情報が氾濫している。モニタリングは、地方行政としてこんな差別情報は放置できないというとりくみだが、かなりの効果をあげている。この先、差別を禁止する法律をつくるためにもモニタリング活動を全国に広めよう。

 第3は、インターネット日本関連団体への要請だ。日本には電気通信事業者協会、日本インターネットプロバイダー協会などインターネットに関連した事業者団体が4つある。この4団体が違法有害情報のモデル条項をつくっており、「他者への不当な差別を助長する行為」として「特定の地域が同和地区であるという情報は差別を助長する行為」をあげ、会員は自主的に差別情報を消すよう申し合わせている。しかし、法的な拘束力がなく、削除は各事業者の自主性にまかされ、削除されないままだ。法律がなくても消そうと思えば消せる。ネット事業者に速やかに削除を求めよう。

 第4は、差別を禁止する法律の制定だ。どのような法律が必要かは、いろいろ議論があるが、やはりいま一番必要なのは部落リストをネットにさらす行為を禁止するような法律だ。こんなひどい差別行為をすれば、罰金だけでなく逮捕もあり得るというような法律がない限り、差別情報をなくすことができない。

 最後は、裁判闘争の支援運動を広げることだ。9月の判決までに全国各地で裁判の報告集会や学習会を開催し、いま裁判がどうなっているかについて情報を発信し、支援の輪を広げよう。こんな裁判は負けるわけがないという人が多いが、どこまで裁判官が部落問題をわかっているのかが鍵となる。部落解放同盟だけでなく労働組合や宗教団体などに支援を働きかけよう。各団体が「このような裁判は許せない」という決議文や声明を裁判所や法務省、法務局に届けることだ。

 いよいよ判決を迎える。鳥取ループ・示現舎を相手にしたこの裁判闘争は、部落差別の拡散助長からわれわれの兄弟姉妹と子孫を守る闘いだ。その意義を確認しよう。

 鳥取ループの「部落リスト」の暴露で、これまでは部落や部落問題を知らなかったものまでがおもしろ半分に同和地区の所在地を知ることになり、就職や結婚などさまざまな形で差別が拡がることが懸念される。その場合、解放運動に参加しているかどうかに関係なくすべての同和地区住民に差別が降りかかってくる。この裁判闘争は、差別から子孫を守る闘いだ。

 またこの裁判は、政府の人権政策、とりわけ部落差別をなくすための禁止法などの法整備を怠ってきた政府にたいしてその怠慢と不備欠陥を糾す闘いだ。

 2016年に「部落差別解消推進法」が制定されたが、われわれは部落差別を犯罪としてとり締まる法律がないことを批判し、人権侵害救済法や人権委員会設置法などの法整備を求めてきた。差別は許されない社会悪であり、犯罪だという国の姿勢がないことが、鳥取ループの跋扈(ばっこ)を許してしまっており、裁判所が厳しく処罰できない法的な欠陥の原因になっている。国に、差別を禁止する法制定を強く求めよう。

 この裁判闘争は、先輩たちの積み重ねてきた成果と行政や企業、宗教団体が積み重ねてきた部落差別をなくすためのとりくみの成果を守る闘いだ。

 戦後70年間、行政や企業、宗教団体、労働組合はそれぞれの立場で部落差別をなくすためにさまざまなとりくみをしてきた。いっぽう、全国水平社を引き継いだわれわれは、部落の住環境の改善や職業の安定、教育の向上、同和教育の推進などにとりくみ成果をあげてきた。しかし鳥取ループの所在地暴露は、戦前戦後をとおしてかちとってきた成果を破壊し、否定する行為であり、解放運動を冒瀆(ぼうとく)する行為だ。

 この裁判は、差別者Mを徹底的に糾弾し、社会的に追放する闘いだ。差別を煽るこんな人物を放置してよいわけがない。いま、直接裁く法律がないために損害賠償という形で経済的な制裁を加える方法をとっているけれども、本来ならばこのような反社会的な差別者には厳しい刑事罰を科せられるべきだ。この裁判は、裁判を通じてMの犯罪を徹底的に断罪し、社会的な制裁を加える闘いだ。

 5年にわたった鳥取ループ裁判も、いよいよ判決を迎える。9月の判決に向けて最後まで気を抜かずに頑張ろう。

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