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主張

 

人権と平和、民主主義、環境の確立に向けた
部落解放運動を大きく前進させよう

「解放新聞」(2021.04.25-2988)

 新型コロナウイルス感染症の拡大が収束しないなかで、日常生活でのさまざまな制限や時差出勤、在宅勤務などの働き方の変更など、これまで経験をしたことのないような情況が続いている。昨年3月に成立した「新型コロナウイルス対策特別措置法」にもとづいて、当初の東京、大阪、福岡など7都府県から4月には全国に拡大された「緊急事態宣言」からおおよそ1年が経過した。しかし、最近では、感染力の強い変種株の感染者が大阪や兵庫で急増している。政府は、4月5日に「まん延防止等重点措置」を適用した大阪、兵庫、宮城の3府県に追加して、12日から東京、京都、沖縄の3都府県を対象とすることを決定した。

 1年前の「緊急事態宣言」では、急激な感染者数の増大や特効薬がないこともあり、日本中で「自粛」が徹底された。しかし、「緊急事態宣言」で一時的に感染拡大を抑止しても、解除後にふたたび感染拡大が続くという事態がくり返されてきた。ワクチン提供も当初の計画どおりにいかず、多くの自治体でワクチン不足も報道されているなか、国会議員や政府職員が深夜まで会食や宴会をするなど、感染症拡大防止に向けた真剣な姿勢がまったく伝わってこない。

 休業、営業時間短縮の要請で、非正規労働者の解雇や雇い止めなどの深刻な状況もある。また、飲食店を中心に外食産業が大きな打撃を受け、医療機関も減収が慢性化しているなかで、中小企業や医療機関への補償、補填の拡大が必要である。感染症拡大につながると懸念されていた旅行業や観光事業への支援再開に固執することなく、まずは政府が感染症防止に必要な施策を重点的にとりくむのが当然である。

 十分な補償をすることで、休業や営業時間短縮による感染症拡大防止を実効性あるものにしていく必要がある。いままでの「緊急事態宣言」や「まん延防止等重点措置」の適用では感染症拡大の防止策としてきわめて不十分である。

 感染症の爆発的拡がりの大きな要因は、グローバル化がすすみ、世界が単一の商品市場となり、社会的経済的な交流、往来が一気にすすんだことにあるのは明らかである。しかし、グローバル化のなかですすめられてきた新自由主義政策によって、とくに欧米を中心に低賃金労働者としての移民の受け入れ、工場の国外移転などで、自国労働者の不安定雇用の問題が顕在化し、差別排外主義を台頭させてきた。

 この差別排外主義勢力によってすすめられてきたのが「自国第一主義」である。国際社会での協調と寛容の精神が否定され、世界中で分断と対立が恒常化した。さらに新自由主義のもとで、富の再配分はおこなわれず、差別と貧困の問題もいっそう深刻化してきた。とくに、日本では、非効率的とされた公立病院や保健所の統廃合などがすすめられ、社会保障制度が改悪され、福祉予算が削減されてきたのである。

 また、今国会では、75歳以上で一定の収入以上の約370万人を対象にして、医療費窓口負担をいままでの1割から2割負担とする法案を提出している。さらに、民間病院をふくむ病床削減を加速させるための法案も衆議院を通過させている。感染症拡大のなかで、医療体制の充実が求められているときに、それに逆行する施策を強行することは許されない。

 このような政府の施策が、感染症の拡大をいっそう悪化させ、社会矛盾を激化させたのである。さらに効果的な感染症防止対策がすすまないなかでの閉塞感、社会への不安を背景にした差別や偏見が増大し、深刻な問題になっている。「自粛警察」「不織布マスク警察」などが社会問題化し、「同調圧力」による攻撃的な行動が、多様性や寛容性を拒否し、差別や人権侵害につながることが指摘されている。

 とくに感染者や医療従事者、その家族などにたいする差別、忌避が強まっている。感染者を一方的に指弾し、家族をふくめた地域社会から排除、孤立化させる風潮が強まっている。今国会では、感染症の対応のための「特別措置法」と「感染症法」などが改定された。改定案については、与野党協議で政府案にあった刑事罰が削除され、行政罰である過料額も引き下げられたが、罰則導入の問題点は大きい。

 今回の「特別措置法」改定での入院措置や感染経路の調査に応じない場合の罰則の導入は、行政罰といえども、ハンセン病やエイズウイルス(HIV)などの場合のように、差別や忌避意識を拡大し、家族にたいする差別もふくめて、重大な人権侵害がおこなわれてきたことをくり返すものである。しかも現状では、医療体制が十分でなく、入院もできずに自宅療養を強いられ、不安をかかえている感染者が多数いるのである。

 このように感染症拡大をめぐって明らかになったのは、日本社会の人権情況のますますの後退である。5月に開催予定の第78回全国大会で提案される一般運動方針案でも強調しているように、人権と平和、民主主義、環境を基軸にした、いのちと生活を守る部落解放運動の役割はますます重要になっている。とくに、憲法改悪に反対する断固とした闘いをすすめていこう。

 菅政権は、21年度政府予算で軍事費を増大させるとともに、憲法違反の「敵基地攻撃力」保持の検討や沖縄・辺野古の新基地建設強行をすすめている。また、1月に発効した「核兵器禁止条約」への批准を明確に拒否するなど、米国追従をいっそう深めている。しかし、米国のバイデン政権で軍備管理を担当する国務次官補代理は「軍縮という目標については米国も共有する。条約が正しい道とは考えないが、目標は同じなので理解できる」とコメントしている。日本は唯一の戦争被爆国でもある。核兵器による抑止力の実効性もすでに失われていることをふまえ、「核兵器禁止条約」を批准し、平和外交を推進することが求められている。

 菅首相は、日本学術会議会員任命拒否問題で、学問や研究の自由に介入し、憲法違反であることや異論と多様性の排除にたいして抗議が強まっても、具体的な説明責任を果たさないままである。また、首相の息子が放送事業会社の部長として、総務省官僚を接待していたことについても謝罪はしたものの、詳細は明らかになっていない。このように菅政権は、安倍前政権以上に政治を私物化し、強権的な政治をすすめている。

 われわれは、菅政権の強権政治と対決し、差別と戦争に反対する闘いをさらに強化していかなければならない。今年10月の任期満了までには衆議院総選挙、来年には参議院選挙が実施される。人権と平和、民主主義、環境の確立をめざす政治勢力の拡大に向けて、早急に選挙闘争体制を確立しよう。

 当面する闘いの課題では、「部落差別解消推進法」の具体化をすすめていかなければならない。3月17日には、自民党の宮﨑政久・衆議院議員が法務委員会で、「部落差別解消推進法」第6条にもとづく実態調査結果に関連して質問、法務省の大臣政務官と人権擁護局長が、いまだに部落差別は厳しく存在していると答弁し、現段階でのインターネット上の部落差別情報の対応には課題があることを認めた。

 さらに、3月31日には、立憲民主党が昨年9月に国民民主党との合流新党となったことをふまえ、近藤昭一・衆議院議員を新会長に選出し、人権政策推進議員連盟を再発足させた。設立総会には、西島書記長が出席し、部落差別の現状、とくにインターネット上の部落差別情報の対応策の不十分性を強調した。また、国内人権委員会設置は、政治責任とともに、国際的な要請でもあり、民主党政権時代の「人権委員会設置法案」の閣議決定などの成果をふまえて、喫緊の課題としてとりくむことを要請した。

 われわれは、こうしたとりくみがいっそう前進するように、部落解放・人権政策推進に向けた政治勢力の拡大に向けて、感染症拡大のなかでも、創意工夫した闘いを全国各地で全力ですすめよう。

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