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立憲主義と平和憲法を守り、闘おう

「解放新聞」(2021.05.05-2989)

 昨年12月、「桜を見る会」の前日に、安倍晋三・前首相の政治団体が主催した夕食会の収支をめぐり、安倍前首相は一貫して「後援会としての収入、支出は一切ないことから、政治資金収支報告書への記載は必要ない」「事務所が差額を補填した事実も全くない」などと答弁した。衆院調査局によると、「虚偽答弁」は118回にのぼる。国権の最高機関である国会で首相が虚偽答弁をくり返したことは、民主主義の根幹を揺るがす重大な行為だ。断じて許すことはできない。

 安倍前首相は、衆参両院の議院運営委員会に出席し、みずからの答弁に「結果として事実に反するものがあった」と修正を申し出た。そのなかで「私が知らないなかでおこなわれていた」と信じられない答弁をした。答弁修正で済む話ではない。虚偽答弁をすれば偽証罪に問われる証人喚問をただちにおこない、「桜を見る会」にとどまらず、森・加計問題、公文書改ざんなど数かずの疑惑の真相を明らかにさせるべきだ。

 国会での虚偽答弁は、国会を愚弄し、三権分立を損ない、国民を欺く不道徳な行為。憲法違反をくり返した安倍前首相を市民の声で議員辞職に追い込み、「戦争法」を廃止し、立憲主義と平和憲法を守ろう。

 憲法違反をくり返し、立憲主義と平和憲法を破壊した安倍政権を継承し、「国民のために働く内閣」として菅政権が誕生した。当初は、派閥に属さず世襲議員でもない叩きあげの首相ともてはやされたが、数か月足らずで馬脚をあらわした。就任半月後に浮上した日本学術会議の新会員任命拒否問題では、過去に政府の政策に批判的だった学者を排除したという見方が根強く残るなか、首相は国会や記者会見で拒否理由をいまだに明らかにしない。政権の意にそわない学者は排除する。憲法に定められた「学問の自由」への攻撃だ。

 菅政権のいきあたりばったりの新型コロナウイルス感染対策は、国民の命と生活を脅かしている。しかも新型コロナウイルス対応の関連法を「改正」し、市民の人権を制限し、感染者とその家族への差別や偏見をさらに助長しようとしている。

 「改正」法では、「緊急事態宣言」発令前の私権制限を可能とする「まん延防止等重点措置」を新設。政府対策本部長の首相による地域と期間の指定を受け、対象の都道府県の知事は飲食店などに営業時間短縮などを命令でき、違反者には前科がつかない行政罰の過料を科せることになった。協力した事業者への財政支援は国と地方自治体の義務と明記し、感染者の入院拒否などへの過料も規定し強制力を高めている。立憲民主党と自民党による審議前の修正協議が合意に達して刑事罰が削除され、行政罰である過料にされ、国会論議も早早に可決、成立した。修正協議で刑事罰から行政罰へ、過料の金額も大幅に引き下げられた点などが評価されているが、一定の強制力をもって一時的にせよ市民の人権に制限を加えることには断固反対だ。

 法律や医療など多くの団体が反対の声をあげ「社会的分断や排除の思想を増幅しかねない」と罰則の撤回を求めている。憲法研究者有志は、「営業の自由(憲法22条・29条)や財産権(29条)を不当に侵害し、生命や生活の権利を奪いかねない」と訴えている。

 ハンセン病違憲国家賠償訴訟全国原告団協議会は、患者らの隔離、差別、人権侵害などの歴史的経緯をふまえ、「刑事罰であろうと行政罰であろうと、感染者を処罰の対象にすることは反対」としている。一時的にせよ人権の制限は、過去の差別や偏見を教訓として生かすとした「感染症法」前文の理念に反する。

 「改正」法は4日間の国会審議で成立した。罰則の必要性や効果に関する答弁も説得力に欠き、差別や偏見を助長する恐れがある。また、「まん延防止等重点措置」の実施要件などは政令で定められ、ときの政権の裁量で恣意的に運用される危険性がある。欠陥法だ。

 重い罰則で私権を制限するのではなく、国民の理解と協力が得られるきめ細かな支援や配慮をおこなう支援と、差別と偏見をなくす施策でなければならない。

 憲政史上最長となった安倍政権は、アベノミクスによる国づくりの結果、貧困・格差問題を深刻化させ、格差や貧困、偏見、差別があたりまえの社会をつくり出した。一人ひとりの生命が序列化、選別される社会を生み、人間と労働を国家と経済の道具化し、貢献させる「モノ」とした。また、人間の安全保障をなおざりに国家の安全保障を優先した。その政権を継承した菅政権は、政策理念に「自助・共助・公助」を掲げ、新自由主義の経済政策をすすめている。菅政権でも政治の汚職・腐敗・私物化と官僚の忖度は終わりをみない。

 参院広島選挙区をめぐる「公職選挙法」違反事件では、河井案里・元参院議員が、19年の参院選で夫の元法相・克行被告とともに、県議会議員4人にあわせて160万円を渡したとして買収の罪で21年1月、東京地裁に懲役1年4か月、執行猶予5年の有罪判決を受けた。案里元議員は刑が確定し議員辞職。克行被告も自民党の負の印象を選挙前に火消しにかかるように無罪主張から一転し、大半の買収を認め、議員辞職した。

 21年1月、吉川貴盛・元農水相が、大臣在任中に大手鶏卵生産会社の元代表から現金500万円の賄賂を受けとったとして、東京地検特捜部に収賄の罪で在宅起訴された。検察によると、大臣在任中に大臣室で現金を受けとった典型的な汚職事件。言語道断だ。政治不信は広がっており、議員辞職や離党では済まない。

 きわめつけは菅首相周辺からの疑惑。放送行政を所管する総務省幹部が、放送事業会社に勤める菅首相の長男から接待を受けていた問題で、同省局長ら幹部3人が事実上更迭された。接待は長男が勤務する会社の衛星放送の認定更新を認められた直前に集中し、接待の場で双方がBS事業に言及していたと明らかになった。長男は利害関係者にあたり「国家公務員倫理規程」が禁じる「利害関係者からの接待」だ。公正公平な行政がゆがめられた疑惑を徹底解明せねばならない。

 菅首相は、「長男とは別人格」というが、官僚は、「首相の長男」とみて忖度をくり返した。安倍政権下の14年に官房長官だった菅首相みずからが内閣人事局を設置して省庁の幹部人事を掌握し、官邸主導をすすめた弊害だ。国会は、国政調査権を発動し、長男、総務省幹部の証人喚問をふくめ、疑惑の真相究明をはかり、菅政権は、即刻退陣すべきだ。

 21年にはかならず衆議院議員選挙がある。平和主義や民主主義、基本的人権の尊重という憲法理念を踏みにじり続ける政治に終止符をうち、今後の政治の方向性を決定する重要な闘いだ。命と生活を守り、富の再分配による格差と貧困の解消、差別の撤廃など、人権と平和を守り、民主主義を実現できる候補者の当選をかちとり、政権交代を実現しよう。

 菅首相は、めざす社会の姿として「自助、共助、公助」を掲げ、「まず自分でできることは自分でやってみる」とのべて自己責任論を強くうち出した。同時に、憲法を軽視し、憲法改悪を狙っており、「政府の立場で挑戦」とのべ、「改憲」論議の促進を迫り、国連演説でも「積極的平和主義」を訴え、「改憲」姿勢と軍事大国化の野望を隠そうとしていない。

 私たちは、「戦争をさせない1000人委員会」「総がかり行動実行委員会」と連携し、「集団的自衛権」行使容認の阻止や「戦争法」廃止を求める抗議行動、違憲訴訟支援など、毎月の19日行動を中心に広範な人びとととりくんできた。5月3日の憲法(施行)記念日集会は、昨年同様に国会正門前でひらかれ、インターネット中継された。「9条改憲NO!改憲発議に反対する全国緊急署名」もねばり強く展開されている。力をあわせてとりくもう。

 戦争する国づくりをすすめ、新自由主義路線にもとづいて貧困と格差を拡大する菅政権と対決し、立憲主義と平和憲法を守り、人権、平和、民主主義の確立をめざし、すべての市民と連帯して闘い抜こう。

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