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主張

 

部落解放・人権政策確立に向けたとりくみを強化し、
包括的な人権侵害救済制度を実現しよう

「解放新聞」(2021.05.15-2990)

 新型コロナウイルス感染症の全国的な拡大によって、政府は4月25日に、東京、京都、大阪、兵庫の4都府県に「緊急事態宣言」を適用した。しかし、短期集中対策としての「緊急事態宣言」後も感染者が増加しており、それぞれの自治体では、5月末までの「緊急事態宣言」の延長を要請した。政府も延長を決定するとともに、愛知県と福岡県にも追加で適用したが、感染症拡大の収束に向けてどの程度の効果があるのか不透明な状況である。

 こうした感染症拡大の状況をふまえ、5月24日に開催を予定していた部落解放・人権政策確立要求第1次中央集会の中止を決定した。感染症の拡大は、感染力がより強力ともいわれる変異株によって、さらに状況が悪化している。ワクチンの供給も当初の政府の計画どおりに実施されず、多くの自治体が混乱している。

 感染症対策の失敗は、新自由主義政策によって効率化を優先させ、公立病院や保健所の統廃合をすすめ、医療や福祉制度を改悪し、予算を削減した結果である。これまでも「自粛」要請によって、在宅勤務、営業時間の短縮などがすすめられてきたが、十分な補償がないことで廃業に追い込まれたり、派遣や非正規労働者の雇い止め、解雇などが大きな社会問題になっている。

 また、感染症拡大予防のための制約が長期化するなかで、女性の自死、配偶者や恋人などからの暴力(DV)の摘発件数が増加している。さらに、社会の閉塞感の深まりを背景にして、感染者や医療関係者、その家族などにたいする差別や忌避が強まっている。とくに「自粛警察」や「不織布マスク警察」による攻撃的な言動が差別や人権侵害につながるなど、人権状況の脆弱性も指摘されている。

 感染症拡大による差別や格差、貧困がこれほど深刻化していても、菅首相はあくまでも「自助」を強調している。中小・零細企業への支援、派遣切りや雇い止めなどの不安定な雇用状況にある非正規労働者の補償など、まったく不十分である。

 しかも菅政権は5月7日、75歳以上で一定の収入以上の約370万人を対象にして、医療費窓口負担をいままでの1割から2割負担とする法案を衆議院厚生労働委員会で強行採決した。さらに、民間病院をふくむ病床削減を加速させるための法案も衆議院を通過、参議院厚生労働委員会で審議されている。感染症拡大のなかで、医療体制の充実が求められているときに、それに逆行する施策は絶対に許されない。

 菅政権は、東京オリンピック・パラリンピックの開催に固執し、政権への支持を期待しながら、感染症拡大への対策を政治的に利用しようとしている。菅政権が成立させた21年度予算も、感染症の収束を前提とした内容であり、感染症拡大の防止に向けた休業補償や医療体制の充実、拡大などへの十分な予算措置がされていない。

 こうした政府の姿勢が感染症拡大の状況をいっそう悪化させているのは明らかである。行政罰とされたが、罰則を導入した「特別措置法」も「感染症法」の改定も、その効果がまったくないばかりか、感染症にかかわる差別や忌避意識を強めるだけの改悪である。

 これまでの新自由主義政策のもとで、より深刻化した差別と貧困の問題を解決していくためにも、部落解放運動の果たす役割は、ますます重要になっている。感染症拡大による大きな制約、制限があるが、部落差別をはじめ、さまざまな差別の撤廃に向けて、当面する闘いの課題へのとりくみを全力ですすめていこう。

 感染症拡大のなかで明らかになった人権状況の後退のなかで、国内人権委員会設置を中心にした人権侵害救済制度の創設が急務の課題である。これまで「部落差別解消推進法」をはじめ「ヘイトスピーチ解消法」「障害者差別解消法」「アイヌ施策推進法」が制定、施行された。さらに、性的少数者(LGBTQ)に関する法的措置も検討されている。こうした個別人権課題にたいする法的措置実現のとりくみは、それぞれの当事者(団体)と支援を中心にしたねばり強い運動の成果である。また、法的措置実現のなかで共通して重要なのは、さまざまな差別や偏見がいまだに厳存しており、そうした意識や実態を解消していくために国や自治体が積極的な施策をすすめていかなければならないことを明記したところにある。

 とくに「部落差別解消推進法」では、部落差別が許されない社会悪であり、いまだに厳しく存在していることが明記された。また、部落差別撤廃のために、国や自治体が、教育・啓発の推進、相談体制の充実など具体的な施策にとりくむことが重要であると基本的な方向も明示された。この間、「部落差別解消推進法」の具体化に向けた活動では、奈良県、和歌山県で「部落差別解消推進条例」、福岡県、鳥取県でも「部落差別解消推進法」をふまえた人権条例の改正がおこなわれるなど、全国的な条例づくりがすすんでいる。

 さらに、「部落差別解消推進法」第6条にもとづく実態調査結果に関連して、3月の衆議院法務委員会で、法務省人権擁護局長などが結婚や交際では、いまだに部落差別は厳しく存在しているとの認識を示し、教育・啓発の重要性を強調した。また、今後の課題としてインターネット上の部落差別情報への対応策について、総務省や業界団体と連携してとりくむと答弁した。

 インターネット上の部落差別情報にたいする削除要請では、自治体でのモニタリングのとりくみが拡がっている。また、総務省もインターネット上の「誹謗・中傷」などの有害情報について、発信者情報開示の簡略化をすすめる「プロバイダ責任制限法」の改定をおこなった。しかし、鳥取ループ・示現舎のように、予告までして差別講演を動画配信する確信犯にはまったく対応できないのは明らかである。

 こうした悪質な差別言動の居直りを許さないために、われわれは、鳥取ループ・示現舎にたいする裁判闘争に勝利するとともに、この間の個別人権課題の法整備をふまえ、国内人権委員会設置に向けた人権侵害救済の法的措置を実現していくために集中したとりくみをすすめていかなければならない。国内人権委員会の設置については、01年に「人権擁護推進審議会」がとりまとめた「人権救済制度の在り方」のなかでも急務の課題としても強く要請されている。

 また、国連人権理事会普遍的定期的審査(UPR)では、07年の第1回審査、12年の第2回審査、17年の第3回審査で国内人権委員会の設置を求める勧告が出されている。さらに、日本政府が批准・加盟している条約機関からも同様の勧告が出されている。とくに自由権規約委員会では98年の第4回審査、08年の第5回審査、14年の6回審査、子どもの権利委員会では88年の第1回政府報告書、04年の第2回政府報告書、10年の第3回政府報告書、19年の第4回・第5回政府報告書にたいする総括所見、女性差別撤廃委員会でも03年以降、くり返し勧告が出されている。ほかにも、人種差別撤廃委員会、拷問禁止委員会をはじめ、障害者権利条約第33条第2項が求める国内人権委員会の設置など、いずれもパリ原則にもとづいた国内人権委員会(国内人権機関)を設置するように要請されている。

 しかも、日本政府は、そのたびごとに「フォローアップ(確認、徹底)することを受け入れる」(17年11月国連人権理事会普遍的定期的審査(UPR)の勧告にたいする意見表明)として、「人権擁護法案」や「人権委員会設置法案」を閣議決定したが、いまだに国内人権委員会の設置は実現されていない。このように、政治責任として、さらには国際的な約束事であることをふまえ、国内人権委員会設置をふくむ人権侵害救済制度を早急に確立することが求められている。

 感染症拡大の影響もあり、5月の中央集会を中止したが、部落解放・人権政策確立に向けて、創意工夫しながら、全力で統一したとりくみをすすめよう。

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