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58年におよぶえん罪・狭山事件の真実を訴え、
東京高裁に再審開始を求めよう

「解放新聞」(2021.05.25-2991)

 2021年4月27日に、東京高裁第4刑事部の大野勝則・裁判長と担当裁判官、東京高等検察庁の担当検察官、弁護団から中山主任弁護人、中北事務局長はじめ10人の弁護人が出席し46回目の三者協議がひらかれた。

 弁護団が昨年末にスコップについての新証拠提出にあわせて求めた捜査資料の証拠開示について協議され、検察官は開示について検討しているとしたうえで、捜査資料があれば提出するとした。

 スコップは、狭山事件の確定判決(東京高裁・寺尾裁判長による無期懲役判決、1974年10月31日)で、有罪証拠のひとつとされたものだ。寺尾判決は、死体発見現場近くで発見されたスコップを、石川さんがかつて働いていた養豚場から盗んで死体を埋めるのに使ったものとした。

 これにたいして弁護団は、元京都府科学捜査研究所技官の平岡鑑定人による意見書を提出した。有罪判決の根拠となった警察の土の鑑定は、スコップ付着の土と比較する対照資料として、死体発見現場そのものから土を採取せず、死体発見現場付近に穴を掘って土を採取しており、これではスコップが死体を埋めるために使われたものということはできないと平岡意見書は指摘した。弁護団は、この主張にかかわって、警察の鑑定の信用性を検討するために鑑定の経過などを明らかにする必要があるとして、土を採取したさいの捜査報告書類、採取記録(穴などの写真、ネガ、スケッチ等)や採取現場を指示した書類などを証拠開示するよう求める証拠開示勧告申立書を提出したのである。検察官は、すみやかに捜査記録を精査し、求められた捜査資料を開示すべきだ。

 次回の三者協議は7月中旬におこなわれる。検察官に証拠開示を求める世論を大きくしよう。

 検察官は、3月29日付けで意見書を提出した。第3次再審請求で、弁護団は専門家による多数の筆跡鑑定、識字能力鑑定を新証拠として提出しているが、検察官意見書は、有罪判決やこれまでの再審棄却決定を引用して、これらの新証拠すべてについて、再審の理由とはならないと主張している。しかし、提出された新証拠は、裁判所の勧告によって第3次再審で初めて証拠開示された、逮捕当日に石川さんが書いた上申書や取調べ録音テープを分析したまったく新たな鑑定だ。検察官意見書は反論になっていない。

 検察官は、昨年12月には、弁護団が提出した殺害方法、逆さづり、後頭部の出血(犯行現場における血痕の不存在)、死体運搬についての新証拠についての反論の意見書、石山昱夫・帝京大学医学部名誉教授による意見書を提出している。弁護団が昨年末に提出した足跡についての新鑑定などについても反論の意見書の提出を検討しているという。

 弁護団は、これら検察官意見書の誤りを明らかにし、徹底して再反論するとともに、新証拠を提出する準備をすすめている。そして、検察官への反論、新証拠の提出をふまえて、鑑定人尋問を請求することにしている。事実調べをおこない、再審を開始するかどうかを判断するのは東京高裁第4刑事部の裁判官である。私たちは、新証拠提出など弁護団の活動を全面的に支援するとともに、東京高裁が鑑定人尋問をおこない狭山事件の再審を開始するよう求める声を大きくしていかなければならない。

 そもそも、証拠開示には迅速に応じることなく、再審をつぶすための反論、反証はつぎつぎと出すというのが検察官のやるべきことなのであろうか。2010年に再審無罪となった足利事件では、有罪の根拠となったDNA鑑定のやり直しで、無実の菅家利和さんがウソの自白を強要されたことが明らかとなった。さらに2010年には、いわゆる「郵便不正事件」で、検察官による証拠改ざんが明らかになった。これらの事態を受け、最高検は2011年9月に「検察の理念」を公表した。そこには「検察の精神及び基本姿勢を示すもの」として、「あたかも常に有罪そのものを目的とし、より重い処分の実現自体を成果とみなすかのごとき姿勢となってはならない」「各々の判断が歪むことのないよう、公正な立場を堅持すべき」「権限の行使に際し…どのような時にも、厳正公平、不偏不党を旨とすべき」と書かれているのである。この「検察の理念」は自白強要や証拠隠しにたいする反省のうえに出されたはずだ。この10年間で反省は忘れ去られてしまったのか。再審開始決定にたいする抗告や証拠開示拒否、徹底した再審妨害をくり返す検察官の姿勢は「検察の理念」にさえ逆行するものと、いわざるを得ない。布川事件で再審無罪をかちとった桜井昌司さんが、このような検察官のあり方を問い、証拠を隠し、えん罪をつくった責任を追及する国家賠償請求訴訟の控訴審判決が6月25日に東京高裁で出される。こうしたえん罪犠牲者の闘いを支援し、検察のあり方を変えていく運動をすすめることも必要だ。

 2006年5月23日に現在の第3次再審請求が申し立てられて、まる15年が経過した。

 第3次再審請求では、2009年に東京高裁の門野裁判長が検察官に証拠開示を勧告し、翌年に逮捕当日の上申書や取調べ録音テープなどの証拠が開示された。その後も、証拠物のリストや手拭いやスコップに関する捜査報告書、発見万年筆で書かれた数字が添付された調書など、重要な証拠が開示され、それらをもとに、弁護団は、専門家による科学的な鑑定を作成、提出することができた。

 コンピュータをもちいた計測データをもとに統計的に違いを判定した筆跡鑑定、蛍光X線分析による万年筆インクの鑑定、元科捜研技官によるスコップの鑑定、法医学者による殺害方法、死体処理、血液型の鑑定、3次元スキャナをもちいた足跡鑑定などいずれも専門家による科学的証拠である。しかも、これらにたいして検察官は反証、反論を提出しており、公正・公平に新証拠を評価するためにも鑑定人尋問は必要である。

 2010年の足利事件いらい、この10年あまりの間に再審無罪があいついだが、いずれも証拠開示と鑑定人尋問が再審開始のカギとなっている。先日、大崎事件の第4次再審請求では、弁護団が提出した自白に関する新証拠について鑑定人尋問がおこなわれている。しかし、狭山事件では、石川さんと弁護団は44年近くも再審を求めているが、これまで一度も鑑定人尋問はおこなわれていない。東京高裁第4刑事部(大野裁判長)が、狭山事件の再審請求においても、弁護団が求めた鑑定人尋問をおこなうよう強く求めたい。

 狭山事件が発生し、無実の石川一雄さんが不当に逮捕され、えん罪におとしいれられて58年を迎えた。5月25日に東京、日比谷野外音楽堂で予定されていた市民集会は、全国的な新型コロナウイルスの感染拡大の状況をふまえて中止された。

 石川一雄さん、早智子さんは感染予防と体調管理に気をつけて、元気で生きる闘いを続けている。

 私たちも、感染防止を徹底しつつ、石川さんが58年もの長きにわたって雪冤を訴えていることをアピールし、東京高裁が、鑑定人尋問をおこない、狭山事件の再審を開始するよう求める世論を大きくしていこう。検察庁に弁護団が求める証拠開示に応じるよう求めよう。東京高裁に再審開始を求める署名や高裁、高検にたいする要請ハガキにとりくもう。

 また、再審開始決定にたいする検察官抗告の禁止や、再審請求における証拠開示の法制化、事実調べの保障などの再審請求の手続き規定の整備など、「再審法」改正を求める声を大きくし、誤判救済のための司法改革を求めて国会議員に働きかけよう。

 感染状況をふまえつつ、各地で新証拠の学習・教宣をすすめ、えん罪の真相と石川さんの無実を訴え、狭山事件の再審開始を求める世論を広げよう。

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