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パンデミックがあぶりだした制度的差別に、
反差別国際連帯ネットワークで挑もう

「解放新聞」(2021.07.05-2995)

 反差別国際運動(IMADR)は第33回総会を6月10日、オンラインでひらいた。新型コロナウイルスのパンデミックは人種的・民族的差別や暴力を生みマイノリティの権利を侵害している。弱い立場にある移民・難民の生活は困窮し、尊厳を奪われる事態を生んでいる。総会の記念講演では稲葉奈々子・上智大学教授が「コロナ禍と外国人の貧困」について報告した。

 貧困ライン以下の人びとを救済する公的支援は生活保護制度だ。しかし、窓口規制が厳しいため捕捉率は20%程度で、適用されない人が圧倒的に多い。政府は「難民条約」を批准し国籍条項を撤廃したが、外国人は準用でしかない。在留資格を失った非正規滞在者は生命にかかわる状態でも適用されない。貧困ライン以下の経済的マイノリティへの制度的差別は露骨だ。昨年、ネパールのフェミニストダリット協会(FEDO)、インドの全国ダリット人権キャンペーン(NCDHR)からダリット・コミュニティの経済的・社会的厳しさが伝えられた。パンデミックがダリットへの制度的差別をあぶりだした。人種差別撤廃委員会は声明を出し、「パンデミックは(人種差別撤廃)条約第1条のマイノリティに対する非差別と平等の権利に重大な悪影響を与えている。国家は条約から生じる国際的義務に従って措置をとる必要がある」とした。

 第29回ヒューマンライツセミナー(昨年9月)は「パンデミックがあぶりだした制度的差別」をテーマに開催した。アメリカの黒人が白人警察官によって殺害された背景にある黒人への制度的差別を指摘した。ダリットや被差別部落にも共通する課題だ。気候変動と制度的差別解体とを結合させて抗議デモに参加するZ世代(1990年代中盤以降に生まれた世代)のSNSを駆使した新しい運動には希望がある。Z世代からの問いかけに応答し、情報発信していきたい。

 ラムザイヤー教授の論文「でっちあげられたアイデンティティ・ポリティックス:日本の部落アウトカースト」がウェブ上に公開された。茶谷さやかは論文の背景には、マイノリティ排除の白人至上主義者と歴史修正主義者の親和性があると指摘する(『世界』5月号)。「英語圏であまり知られていない題材を扱えば勝手に書ける」として日本軍「従軍」慰安婦・在日コリアン・沖縄・被差別部落などのマイノリティを題材とした論文が、部落問題の研究者をはじめ日本のマイノリティ問題に詳しい学者・研究者の査読をへずに学術誌に掲載された。論文では、被差別部落を犯罪者集団と決めつけ、補助金を強奪するために架空の部落アイデンティティをでっちあげて利用したと主張する。被差別部落への偏見を利用し、資料を歪曲して自己主張をする学術論文とはいえない代物。IMADRは抗議し、人権と反差別の立場から声明を出した。被差別部落民が立ちあがり全国水平社を創立し、「水平社宣言」を出し、部落解放運動の理念を示したこと。国の責任を明らかにした「同和対策審議会答申」にもとづいて「同和対策事業特別措置法」が制定され、33年間対策が講じられたこと。IMADRを立ちあげ、国連への働きかけを強め、人種差別撤廃委員会からの勧告をとりつけてきたことなどをのべた。声明は、国際ダリット連帯ネットワーク(IDSN)とマイノリティ・ライツ・グループ・インターナショナル(MRG)の賛同と、9団体340人の賛同署名を得た。

 論文の質が確保されていないのに学術誌に掲載される裏には、海外では部落問題に関する情報が少なすぎることがある。論文に批判を寄せた研究者とともに国内外への部落問題に関する情報発信のネットワークを構築していく。IMADRでは「部落と人権ライブラリー」での研究論文をはじめとする多面的な情報発信を期待したい。

 1981年、政府は「適切な難民保護」を義務付ける「難民条約」を批准したが、難民認定率は1%にも満たない。かつて、「外国人は煮て食おうと焼いて食おうと自由」と言い放った法務官僚がいたが、1978年に最高裁が「外国人の基本的人権は在留制度の枠内で与えられているに過ぎない」と法務大臣の自由裁量を認めたため、現在でも憲法や国際条約の人権基準を無視した前時代的な暴力的支配が横行している。2019年には、迫害を逃れ入国したナイジェリア人男性が、難民申請中に入管収容施設で職員の監視下で餓死した。人権擁護・人権啓発を実行する法務省が、在留資格を失った弱い立場の外国人を密室に収容し、権力を背景にすさまじい人権侵害を公然と実行する実態が厳しく批判された。翌年、危機感を抱いた法務大臣の私的懇談会が報告書をまとめた。難民認定率が異常に低く、国際水準からかけ離れた認定基準・審査方法・申請者の処遇の改善勧告を国連から受けたが、それらに応える改善策は盛り込まれなかった。そればかりか、報告書にもとづきさらに難民の人権を制限する内容の「入管法」改定案が提出された。長期収容者を減らす目的で、収容を解かれた者への監理措置制度、就労禁止、逃亡罪等の刑事罰を導入し、支援者に生活監視をさせるなど、人権尊重とはいえない時代錯誤の法案だった。

 入管施設収容は強制送還のための一時的収容(飛行機待ち)であるのに、無期限収容となっている実態は「恣意的拘禁」だとして国連は人権上の懸念を表明(拷問禁止委員会2013年、自由権規約委員会2014年、人種差別撤廃委員会2018年)。「難民条約」では「ノン・ルフールマン原則(迫害の恐れのある国への追放及び送還の禁止)」を適用し、難民申請中は強制送還できない。そこで入管は劣悪な収容環境下で長期収容をしたり、仮放免して生活困窮に陥れたり(就業禁止)、精神的に追いつめて、「自発的に出国」させることを狙ってきた。収容期間の上限(アメリカは90日)を決め、収容施設に隔離するには裁判所の令状をとるなど、国連難民高等弁務官事務所(OHCHR)の難民認定ガイドラインを遵守すべきだ。

 法務省・入国者収容等視察委員会は、国際基準にもとづく人権監視の役割をまったく果たしていない。政府機関から独立した人権監視機関・人権委員会の設置が強く求められる。

 非正規滞在者すべてを収容する全件収容主義は問題だ。資金が途絶えて専門学校に通えなくなったスリランカ人女性は留学生ビザ失効を理由に収容された。病気になり、医師が仮放免で外での治療をすすめたが入管は拒否し、容態観察のもとで死亡した。認定基準を示して、在留特別許可を与え、正規滞在者として生活を保障する。個別の事情があればそれらを聴取し、在留特別許可を与える。奨学金を受けながらの生活も可能だ。外国人の基本的人権を保障しない制度的差別を解体し、国際人権基準を機能させることだ。

 SNSを使った市民ネットワークは重要だ。「#入管法改悪反対」のSNS発信が日本で暮らす移民・難民と市民をつなげ、反対の声は広がった。国会前のシットインも発信され、市民ネットワークの支援は広がり、「入管法」改定案はとり下げられた。入管庁長官は「全件収容主義から決別する、医療体制や職員の対応を改める」などと発言したが、OHCHRの難民認定ガイドラインにそった改革は待ったなしだ。

 人種差別撤廃委員会へのカウンターレポート提出時に国連で出会った団体・個人が人種差別撤廃NGOネットワーク(ERDネット)に参加し、NGOレポートを束ねて条約委員会に提出することを活動の中心にする。日本・香港・韓国などの東アジア地域NGO協議運営委員会で反差別のネットワークを組み、国際ダリット連帯ネットワーク(IDSN)と共同で国連に働きかけ、国連条約機関NGOネットワーク(TB―NET)ともつながろう。SNSを駆使し、国連にはたきかける反差別国際運動ネットワークの構築に力を注ぎたい。

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