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9・27「全国部落調査」復刻版出版事件裁判判決に向けて闘いをすすめよう

「解放新聞」(2021.08.25-3000)

 5年にわたる鳥取ループ・示現舎にたいする「全国部落調査」復刻版出版裁判は、来月9月27日に判決が出る。この裁判闘争のもつ意義をもう一度確認し、裁判闘争勝利に向けて全国で闘いの輪を広げよう。

 まず裁判の経過を簡単にふり返りたい。裁判は、2016年の7月5日に第1回口頭弁論がひらかれた。訴状では、「復刻版」の出版やインターネットへの公表は部落差別を拡散助長することを強調し、①「復刻版」の出版差止め②ウェブサイトの削除③損害賠償を請求した。

 ウェブサイトの削除は、インターネットの特性をふまえて「自ら又は代理人若しくは第三者を介して、別紙ウェブサイト目録記載の各記事等につきウェブサイトへの掲載、書籍の出版、出版物への掲載、放送、映像化(いずれも一部を抽出しての掲載等をふくむ)等の一切の方法による公表をしてはならない」と請求し、今後、被告らが書籍名を変えたり、映像などの別な手段で部落を暴露する道を塞ぐための請求をした。

 損害賠償は、出版やウェブサイト公開で①差別を受けない権利②プライバシー権③名誉権がそれぞれ侵害されているとして一人100万円の損害賠償を請求した。もちろん経済的な制裁を加えるためだ。

 この間、裁判では、13回の口頭弁論(証人尋問、結審をふくむ)がひらかれ、また15回の進行協議がおこなわれた。

 口頭弁論では、われわれは、部落所在地リストを公表すること自体が差別を拡散助長する、とくり返し主張した。しかし、被告らは、出版しても差別が助長されることはない、被害は出ていない、とくり返した。

 また、被告らは、原告らはみずからが部落出身だと新聞や雑誌、講演などで公表しているから、原告らが部落出身だと公表してもなんらプライバシーの侵害にあたらないと主張した。しかし、われわれが公表するのは差別をなくしたいからであり、公表には本人の同意承諾が必要だが、被告らは誰の同意も承諾もとっておらず、個人の機微情報を晒す行為だ、と批判した。

 裁判は、昨年8〜11月にかけて4回の証人尋問がおこなわれ、原告248人を代表して9人がみずからの被差別の体験を語り、被告らの行為が差別を助長すると訴えた。また、今年3月18日に結審・最終弁論がおこなわれ、原告団を代表して片岡中央執行副委員長が「被告らがネット上に掲載したことにより誰でも簡単に見られる状態となり、それを見たものが確認のために市町村に問い合わせている」とのべ、被告らの行為が差別を拡散している、と弾劾した。また、「万が一、裁判所が私たちの請求を認めなければ、被告らの行為にお墨付きを与えることになる。これ以上差別を拡散させないために一刻も早く、『全国部落調査』出版差し止めと、ネットからの削除及び損害賠償の決定を求める」と意見をのべた。

 指宿昭一・弁護士は「ネットへの掲載及び『全国部落調査』の出版は、差別解消を目指す部落解放同盟のこれまでの取り組みを水泡に帰す行為で、差別をなくそうとする部落解放同盟の業務を円滑におこなう権利の侵害」とのべ、「全国水平社創立宣言」を引用し、「差別が拡散され、人間の尊厳が傷付けられ、光が失われる世を作ってはならない」と裁判官に訴えた。

 この裁判闘争の意義をここでもう一度確認したい。

 第1点目の意義は、この裁判は部落差別の拡散助長からわれわれの兄弟姉妹と子孫を守る闘いだ、という点だ。被告らが「復刻版」を公表し、これまでは部落や部落問題を知らなかった人までがおもしろ半分に部落所在地を知ることになり、就職や結婚などさまざまな形で差別が拡がることが強く懸念される。その場合、部落解放運動に参加しているかどうかに関係なく、すべての部落住民に差別が降りかかる。今後くり返される差別から子孫を守る闘いだ。

 第2点目は、差別をなくすための禁止法などの法整備を怠ってきた政府の怠慢を糾す闘いだ。

 われわれは、差別を犯罪として取り締まる法律がないと批判し、人権侵害救済法や人権委員会設置法などの法整備を求めてきた。差別は許されない社会悪であり犯罪だという国の姿勢がないことが、被告らの跋扈(ばっこ)を許しており、裁判所が厳しく処罰できない原因になっている。

 第3点目は、先輩たちの積み重ねてきた成果と、行政や企業、宗教団体、労働組合などが積み重ねてきた部落差別をなくすためのとりくみの成果を守る闘いだ。

 来年は全国水平社創立100年を迎える。この一世紀の間、部落の先輩たちは、差別をなくすために文字どおり血と汗と涙の闘いを続けてきた。被告らの行為は、戦前戦後をとおしてかちとってきたこれらの成果を破壊、否定する行為であり、部落解放運動を冒瀆(ぼうとく)するものだ。

 第4点目は、被告らを徹底的に糾弾し、社会的に追放する闘いだ。現状、損害賠償という形で経済的な制裁を加える方法をとっているが、本来このような差別には厳しい刑事罰が科せられるべきだ。差別を煽る人物を放置してよいわけがない。裁判を通じて被告らの行為を徹底的に断罪し、社会的な制裁を加える闘いだ。

 9月に判決を迎えるが、この闘いは、鳥取ループ・示現舎にたいする闘いでもあり、インターネット上にあふれる部落差別情報を削除するための闘いでもある。判決を待つだけではなく、当面つぎのとりくみをすすめよう。

 第1は、法務省や地方法務局に削除要請を迫ることだ。裁判の直接の目的はもちろん「復刻版」の出版禁止とネットからの削除の実現だ。しかし、現実には、鳥取ループ・示現舎のおこないに触発され、さまざまな差別情報がネットにあふれている。法務省はどこが部落だという識別情報を出すことは差別になるとし、削除要請があれば削除の措置をとるという「依命通知」を出したが、強制力をもった法律がないこともあり、なかなか削除がすすんでいないのが現状だ。実効性のある制度・法律を求めるとともに、各地方法務局にできるだけ早く削除するようにひき続き迫ろう。

 第2は、モニタリング活動の強化だ。鳥取ループ・示現舎の「復刻版」や「部落探訪」をはじめ、いまインターネット上には差別情報が氾濫している。モニタリングは、地方行政としてこんな差別情報は放置できないというとりくみであり、かなりの効果をあげている。この先、差別を禁止する法律をつくるためにもモニタリング活動を全国に広めよう。

 第3は、インターネット関連団体への要請だ。日本には電気通信事業者協会、インターネットプロバイダー協会などインターネット関連の事業者団体が4つある。この4団体が違法有害情報のモデル条項をつくり、そこに「他者への不当な差別を助長する行為」として「特定の地域が同和地区であるという情報」をあげ、会員は自主的に差別情報を削除するよう申し合わせている。法的な拘束力はないが、削除は各事業者の自主性にまかされされている。ネット事業者にすみやかな削除を求めよう。

 4点目は、差別を禁止する法律の制定だ。差別にたいし、罰金を科せられたりするだけでなく逮捕されたりする法律がない限り、差別情報をなくせない。鳥取ループ・示現舎の差別行為を糾弾するとともに、裁判を一つの契機とし、国に差別を禁止する法律の制定を求めよう。

 5年にわたる裁判もいよいよ判決を迎える。9月の判決に向けて最後まで気を抜かずに頑張ろう。

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