「解放新聞」(2021.09.05-3001)
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新型コロナウイルス感染症への対策は万全だとして、菅政権は、東京オリンピックの開催を強行しようとした。しかし、感染症の拡大が深刻な状況になり、7月12日にはオリンピック開会を前にして、8月22日までを期限として、東京に4回目の「緊急事態宣言」を発出した。また同時に、5月以降「緊急事態宣言」が適用されている沖縄も同日まで延長された。
しかし、7月23日からおこなわれたオリンピック期間中も、変異株による感染者が急増し、医療体制も逼迫した。政府は、8月2日に、東京・沖縄への適用を8月31日まで延長するとともに、埼玉・千葉・神奈川・大阪を追加で適用を決めた。しかも、「緊急事態宣言」そのものの効果が疑問視されているなかで、オリンピック関係者は例外扱いにするなど、いのちやくらしを守る政治責任を果たさないままに、感染状況はさらに悪化した。8月20日には、パラリンピックの期間中をふくめた9月12日までの延長と、茨城・栃木・群馬・静岡・京都・兵庫・福岡への適用、さらに25日にも、北海道・宮城・愛知・岐阜・三重・滋賀・岡山・広島に適用を決定するなど、まさに場当たり的な対応で混迷を深めてきた。
昨年来、「緊急事態宣言」をくり返し適用してきたが、市民に「自粛」を要請するだけで、医療や介護従事者、休業や時間短縮などを強いられている中小企業、飲食業などへの十分な補償もないことから、実効性のある措置にならないのは当然である。在宅勤務などのテレワークも、可能な業種は限定的であり、「慣れや疲れ」もあるなかで、人出抑制にもつながっていない。
東京オリンピック・パラリンピックについて、政府は当初、「復興五輪」をよびかけ、つぎは「コロナに打ち勝った証し」「安全最優先」「完全な形での東京オリンピック・パラリンピック開催」などと強弁していた。しかし、東日本大震災の被災地では、復興事業の資材がオリンピック会場建設のために不足し、感染者は爆発的に急増した。最後は「コロナと闘う五輪に」(田村憲久・厚生労働大臣)と弁明したが、まったく無責任な政府の姿勢である。
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爆発的な感染者の急増で、搬送先の病院が見つからず長時間放置されたり、自宅療養中に死亡するなどの事例が報告されている。利潤追求を最優先する新自由主義政策のもとで、公立病院や保健所の統廃合をすすめてきた結果の医療崩壊である。市民のいのちをないがしろにする強権政治をこれ以上許してはならない。
安倍政権を継承するとした菅政権であるが、感染症対策の無責任な政治姿勢が厳しく批判され、この間の内閣支持率は大幅に低下している。どの報道機関の調査でも「危険水域」ともいわれる30%前後であり、不支持率が増加している。
自民党は、7月4日に投開票された東京都議会選挙でも、都民ファーストの会に大敗北した前回の25議席から33議席に増えたものの、目標とした自民・公明での過半数を実現できなかった。菅政権の無責任な感染症対策と、東京オリンピック・パラリンピックの強行開催が批判された結果、史上最低だった25議席につぐ2番目に少ない議席数で敗北した。
この間、菅政権は、4月の衆議院北海道2区と参議院長野選挙区の補選、参議院広島選挙区の再選挙で全敗している。そうした焦りが、内閣支持率の向上に向けた、政治利用としての東京オリンピック・パラリンピックの強行開催である。しかし、感染症対策の審議に向けた野党の臨時国会の開催要求にも応じず、東京オリンピックは感染症拡大の直接の原因ではない(加藤勝信・官房長官)などと居直っている。
こうした感染症対策での無責任な姿勢が厳しく指弾されたのが、菅首相の地元である横浜市長選挙の大敗である。菅首相は、側近で、現職閣僚を辞任して立候補した前自民党国会議員を応援したが、候補者が菅首相自身が推進してきた総合型リゾート(IR)に反対を表明したため、地元の自民党横浜市議団が自主投票を決定するなど混乱した。また、菅政権の感染症対策への不満、不信が影響し、立憲民主党が推薦し、ほかの野党が支援した候補者に大差で敗れた。
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この間の国政選挙や、今回の横浜市長選などの結果は、市民のいのちとくらしを守ることのできない強権政治にたいする当然の結果である。今秋に予定されている衆議院総選挙は、こうした強権政治を終わらせるための重要なとりくみである。早急に都府県連での選挙闘争本部体制を確立し、推薦候補者の決定、政策協定の締結をすすめよう。
6月に開催した第1回中央委員会では、衆議院総選挙に向けて、都府県連での候補者推薦にあたっての政策協定を協議し、決定した。政策協定の項目は、差別と戦争に反対するために日本国憲法を遵守することや、「部落差別解消推進法」の具体化に向けた自治体での条例づくりの推進、人権教育・啓発のとりくみ強化をとりあげている。また、狭山事件に関連して、えん罪を根絶するための「再審法」改正、「パリ原則」にもとづいた国内人権委員会の設置などの6項目を政策協定としてまとめた。
すでに都府県連には通達で、推薦候補者の決定と政策協定の締結を要請している。8月の第2回中央執行委員会では、都府県連段階での選挙闘争本部体制の確立とともに、早急に推薦候補者の決定をすすめることが確認された。
今日、くり返される「緊急事態宣言」や、ワクチン配布の遅延をふくめた感染症対策の混乱によって、菅政権の支持率が続落している。しかも、政権維持のための政治利用で強行開催したオリンピック・パラリンピックの影響での感染者が急増しており、市民のいのちやくらしを守るべき最優先の課題に背を向ける菅政権を退陣に追い込まなければならない。9月に実施される自民党総裁選と、10月に任期満了になる衆議院総選挙の日程が迫るなかで、候補者推薦の作業を早急にすすめてもらいたい。
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今回の衆議院総選挙では、立憲民主党、国民民主党、社会民主党などで野党共闘がすすめられている。しかし、菅政権の支持率が続落しているとはいえ、立憲民主党を中心にした野党に大きな支持が集まっているわけではない。政権交代に向けた選択肢を示すためにも、感染症対策、経済政策、エネルギー政策などの具体的な方策をより明確に情報発信することを求めたい。
さらに、今回の衆議院総選挙では、新自由主義政策がもたらした貧困と格差の是正、深刻化する差別排外主義を許さず、共生社会をめざすことを鮮明に訴えてることが重要である。菅政権は、感染症の拡大で生活困窮者が急増しているにもかかわらず、22年度概算要求では、過去最多となる5兆4000億円を超える軍事費を計上する方針である。防衛省は、米中対立の激化を背景に「台湾海峡の平和と安定」を強調しているが、アメリカのアジア戦略のもとでは、北東アジアの平和に貢献することはできない。
また、軍事費を増大させているのは、アメリカから押しつけられた高額な兵器の大量購入の費用である。しかも、購入兵器のなかには、オスプレイやF35戦闘機のように、アメリカ国内でも欠陥機であると指摘されているものもふくまれている。
菅政権は、このようにアメリカに一方的に追従し、その軍事力を背景に、みずからも軍事大国化をすすめ、アジアでの覇権を確立しようとしている。自民党の改憲案が狙うのは、憲法第9条への自衛隊の明記である。専守防衛という平和憲法のもとでの最低限の制約を撤廃し、軍隊として、戦争行為に加担することを可能にするための憲法改悪を断固阻止しなければならない。
人権と平和、民主主義、環境の確立を基軸にした政治勢力の総結集に向けて、衆議院総選挙闘争に全力でとりくもう。
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