「解放新聞」(2021.09.15-3002)
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新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、社会活動全般にわたって多くの制約、制限が課される状態が長期化し、多くの人びとが身体的、精神的に疲弊した状況が続いている。
こうした行動制限は、大人にとって我慢で済ませられることであっても、発達段階にある子どもたちにとっては、育ちと学びの質に直結する看過できない重大な問題である。
元来、社会のなかで弱い立場にある子どもたちは、家庭など周囲の環境の変化や社会のさまざまな矛盾など影響を直接に受けやすい存在である。
とりわけ、今回のコロナ禍において、もともと経済的に厳しい家庭に置かれた子どもたちの状況は、この1年半余りのなかで生活の質が低下するなど、生活に余裕のある経済的に豊かな家庭の子どもたちとの格差が拡大しているとの懸念も示されていた。
先頃、文部科学省が5月に実施した全国学力調査の結果を公表したが、そうした懸念の一端を露わにするデータも明らかになっている。
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調査結果によると、昨年は長期休校が続いた地域もあったが、テストの平均点に顕著な差はなかったとされている。
休校による学習の遅れをとり戻すために、夏休みの短縮や土曜日の授業の実施など、学校現場による懸命の努力と創意工夫の積み重ねによる賜物であろう。
慣れないオンライン授業や分散登校の実施など、身を粉にして子どもたちのために奮闘した現場の教職員には、心から敬意をあらわすものである。
しかし一方では、学力調査と同時におこなわれたアンケートで、休校中、「勉強に不安を感じた」「計画的に学習を続けられなかった」と答えた子どもたちは、「不安を感じない」「学習を続けられた」と答えた子どもたちと比較して、正答率が低いという結果が出ている。
休校中の学習環境など、家庭環境が不利な子どもたちが置き去りにされた可能性が否定できない。
テスト結果の1点、2点に一喜一憂するものではないが、コロナ禍の厳しい社会状況にあるからこそ、社会の責任、大人の責任として、子どもたちの〝不安〟を解消し、子どもたちの育ちと学びをしっかりと保障していかなければならない。
また、アンケートでは、「学校に行くのは楽しいと思うか」「夢や目標を持っているか」との質問にたいして肯定的に答えた割合が減っており、運動会など学校行事の縮小・中止など、友だちとふれ合う機会の減少や制限が、子どもたちの不安やストレスになっていることを窺い知ることができる結果もあらわれている。
文科省も、家庭の経済状況や保護者の教育への関心度が、子どもの学習への関与に影響している可能性があることを認め、家族構成や世帯年収などを聞く保護者アンケートを別途におこない、家庭の経済状況と学力との関係を調査する予定とされている。
すべての子どもたちの学習機会と豊かな学びを保障するために、早急な分析と施策への反映を求めるものである。
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また、厚生労働省は、2020年度の児童相談所による児童虐待相談対応件数の速報値を公表した。
それによると、対応件数は20万5029件で、1990年度の統計開始いらい、29年連続で最多を更新した。前年度からの増加数も、1万1249件増え、過去最多を記録している。
コロナ禍のおり、外出「自粛」による家庭内のストレスが子どもに向かっているケースや面前DVの増加も報告されるなか、厚労省は、「前年度比5・8%増とこれまでより伸びが鈍化したのは、外出自粛や臨時休校などで虐待が表面化しにくかった可能性もある」と、虐待の実態が見えにくくなっていることを示唆している。
「改正児童虐待防止法」(20年4月施行)が実効あるものとなるよう、児童相談所の人員増と質の向上、体制強化など公的なとりくみの拡充と実効性ある活動が求められる。
同時に、子どもたちのわずかなSOSを見逃さないように、周囲の大人たちが子どもたちのようすを見守る活動や、困っている子どもたちがかけ込むことができる安心安全な居場所づくりが求められる。
また、保護者へのケアや啓発など地域で創意工夫したとりくみを展開し、豊かな人と人のつながりを構築し、保護者や家庭の孤立を防ぎ、地域社会が一体となって子どもたちを育み、命を守ることが急務である。
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日本が、「国連子どもの権利条約」(1989年採択)を1994年に批准してから27年目を迎えている。
条約の批准にさいして、日本政府は、現行法で子どもの権利は守られているとの立場をとり、条約が求める「子ども基本法」の制定など国内法の整備をおこなわなかった。
いらい、子どもの権利保障を基本にした総合的な子どもに関する法律が制定されることはなく、政策においても縦割り的な行政がおこなわれてきた。
そのために教育や福祉などさまざまな領域で子どもの人権侵害がくり返しおきているにもかかわらず、根本的な解決策が導かれることもなく、権利侵害の状況が放置された状態が続いている。
こうした権利侵害の状態を解決するために、既存の個別法を修正するという現在の手法では、行政の縦割りの弊害を乗り越えた解決策を導くことは困難である。
いま、日本に求められるのは、社会として、「子どもの権利条約」が定める権利の主体として子どもの位置づけを再確認していくことである。
子ども施策は、「子どもの権利条約」を基盤とした総合的な法律の制定、子どもの権利法を具現化する行政機関の設置、独立した子どもの権利擁護・監視機関の設置の3点を包括的にすすめていくことが必要であり、当事者である子どもの参画も不可欠である。
批准から27年目、ようやくにして子どもに関する総合的な政策論議をおこなう機運が高まっている。
今回の好機を、少子化対策や省庁創設だけに矮小化することなく、国連子どもの権利委員会からの「総括所見」や「一般的意見」を反映させ、既存の法律や府省庁のこれまでの連携のあり方等、包括的・総合的に検証し、「子どもの権利条約」にもとづいた子どもの権利保障をめざした子ども基本法と総合的な施策立案を求めるものである。
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