「解放新聞」(2021.09.25-3003)
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新型コロナウイルス感染症対策の失敗、とくに東京オリンピック開催後の感染者数の急増を厳しく批判され、内閣支持率を続落させていた菅首相は、9月3日午後の記者会見で自民党総裁選への立候補をとりやめ、退陣することを表明した。菅首相は、退陣表明直前まで、衆議院解散―総選挙の日程や内閣改造、自民党役員人事の刷新など、政権維持に向けて、さまざまな対策をすすめたが、自民党内からも大きな反発があり、安倍政権同様、政権を投げ出す結果となった。
菅政権は、発足当初から、安倍政権を継続するとして、効率を最優先とする新自由主義政策をおしすすめようとしていた。すでに感染症対策で失策を続け、無責任にも政権を投げ出した安倍政権を踏襲し、「自助」を強調し、感染症対策よりも経済対策を優先させるという、市民のいのちやくらしをあまりにも軽視した場当たり的対応が、内閣支持率の続落につながったのは、当然の結果でもあった。
しかも、安倍政権時代からの閣僚経験者もふくむ不祥事が続き、菅政権のもとで実施された国政選挙では全敗した。また、東京都議会選挙では議席を増やしたが、目標とした自民・公明での過半数を実現できない実質的敗北や、菅首相の地元である横浜市長選挙でも、閣僚を辞職して立候補した側近の国会議員が、立憲民主党の推薦候補に大敗するなど、与党内でも、菅政権のもとでの衆議院総選挙の実施が不安視されていた。
この間、東京オリンピック・パラリンピックを無観客で強行開催させ、その後の内閣支持率の上昇をねらうというオリンピックの政治利用も破綻した。さらに、ほとんど全国的ともいえるほどの「緊急事態宣言」や「まん延防止等重点措置」の適用は、すでに専門家からも感染症防止の実効性への疑問が指摘されていた。
まさに、市民のいのちとくらしを守らない強権政治からの変革を求める大きな世論こそが、菅政権を退陣に追い込んだのである。
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このような政治情況のなかで、9月29日に自民党総裁選がおこなわれる。しかし、総裁選の立候補者は、いずれも、この間の安倍政権、菅政権を支えてきたのであり、改憲や原発再稼働などの主要な政策が継承される。一方、立憲民主党、社会民主党、れいわ新選組などの野党各党は、9月8日に「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」が示した6項目の野党共通政策の提言書に合意し、野党が共同して衆議院総選挙にとりくむことになった。
共通政策は、感染症対策強化をはじめ、憲法改悪に反対し、新自由主義政策のもとで放置されてきた格差と貧困の是正、エネルギー政策の転換、差別を許さず自由で公正な社会の実現などの内容である。立憲民主党の枝野代表は「(党の)違いを違いとして認め合いながら、それぞれの強みを活かしあって、いのちとくらしを守り抜く政権をつくり上げる」と決意を表明した。
安倍政権や菅政権は、昨年来、東京や首都圏をはじめ各地に、感染症対策として「緊急事態宣言」をくり返し適用してきた。しかし、医療や介護従事者、休業や時間短縮などを強いられている中小企業、飲食業などへの十分な補償をせず、市民には「自粛」を強要するだけで、実効性のある措置になっていない。推奨している在宅勤務などのテレワークも、可能な業種は限定的であり、「慣れや疲れ」もあるなかで、「緊急事態宣言」そのものが人出抑制にもつながっていない。
さらに、ワクチン接種でも、自治体段階での接種計画を無視し、自衛隊を動員して大型接種会場を設置するなど無用な混乱を招いた。また、公立病院や保健所の統廃合など、効率化を優先させ医療体制を崩壊させてきた結果、重症者以外は自宅で療養せよなどの言動が厳しく批判されたのは当然である。
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菅政権の退陣は、この間の国政選挙や横浜市長選などの結果に明らかなように、市民のいのちとくらしを守ることのできない強権政治にたいする「否」の結果である。衆議院総選挙は、こうした強権政治を終わらせるための重要な闘いである。都府県連では、選挙闘争本部体制を確立するとともに、立憲民主党の候補者を中心に推薦を決定し、政策協定の締結がすすんでいる。
6月に開催した第1回中央委員会で、衆議院総選挙に向けて、都府県連での候補者推薦にあたっての政策協定を決定した。政策協定は、差別と戦争に反対するために日本国憲法を遵守することや、「部落差別解消推進法」の具体化に向けた自治体での条例づくりの推進、人権教育・啓発のとりくみ強化をとりあげている。
また、えん罪を根絶するための「再審法」改正、「パリ原則」にもとづいた国内人権委員会の設置などの6項目である。都府県連には通達で、推薦候補者の決定と政策協定の締結を要請しているが、都府県連段階での推薦候補者の決定を早急にすすめよう。
一方、菅政権の支持率が続落していたにもかかわらず、立憲民主党などの野党に大きな支持が集まっているわけではない。政権交代に向けて、しっかりとした選択肢を示すことが求められている。感染症対策をはじめ、経済政策、エネルギー政策などの具体的な方策をより広範に、より明確に情報発信して、支持を拡げる努力が必要である。
菅政権の退陣表明によって、自民党総裁選にかかわる連日の報道があるが、いぜんとして派閥中心の総裁選の様相である。安倍政権や菅政権を継承するような政治を許してはならない。新総裁が誰であろうと、人権や平和、民主主義の確立、気候危機の打開を中心とした環境政策の充実を求めていかなければならない。
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これまで菅政権は、安倍政権と同様に「戦争をする国」づくりをすすめ、憲法改悪の策動を強めてきた。しかも、感染症の拡大で生活困窮者が急増しているにもかかわらず、22年度概算要求では、過去最多となる5兆4000億円を超える軍事費を計上するなど、あくまで軍事大国化をめざす方針を明確にしてきた。
また、かつての侵略戦争への反省もないままに、偏狭な歴史修正主義によって、中国や韓国などとの対立を深めてきた。こうした政治姿勢、言動が、社会的弱者にたいする差別や暴力を煽動するヘイトスピーチのような差別排外主義を台頭させ、政権を支える勢力にしてきたのである。
われわれは、反人権主義の強権政治からの変革を実現するために全力で選挙闘争にとりくんでいかなければならない。これまでも、部落解放・人権政策確立の施策を前進させるために、人権・平和、民主主義、環境の確立に向けた政治勢力の結集に向けた活動をすすめてきた。安倍政権のもとでの困難な情況のなかで実現してきた「部落差別解消推進法」の制定もこうした粘り強いとりくみの成果である。
立憲民主党の枝野代表は、9月13日の記者会見で、自民党政権では実現しなかった「多様性を認め合い、『差別のない社会』」という内容で、差別や人権を重要なテーマとしてとりあげる姿勢を明確にした。とくに、インターネット上の差別情報への迅速な対応や、差別を防止するために独立性の高い国内人権委員会の設置に向けて、とりくみをすすめることなどを政権政策としてまとめるとしている。
今回の衆議院総選挙は、安倍政権、菅政権のもとで深刻化してきた差別や貧困、格差の問題にしっかりと向き合う政治を実現するための闘いである。これまでも確認してきたように、投票行動は一人ひとりの政治参加であり、部落解放・人権政策の実現に向けた重要なとりくみでもある。
差別と戦争を許さず、人権と平和、民主主義、環境の確立をめざした政治への変革をかちとるために、衆議院総選挙に全力でとりくもう。
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