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主張

 

包括的な人権侵害救済制度の実現に向けて
部落解放・人権政策確立のとりくみを強化しよう

「解放新聞」(2021.10.05-3004)

 菅政権は、みずからの政権維持のために東京オリピック・パラリンピックの開催を強行したが、開催中をふくめて、新型コロナウイルス感染症が爆発的に急増し、市民の批判が集中、内閣支持率を続落させた。菅首相は、いったんは自民党総裁選への立候補を表明したものの、内閣支持率の低下を受けた自民党内の不安や反発もあり、9月3日には、急きょ、総裁選への立候補とりやめと退陣表明を余儀なくされた。

 これまでも指摘されてきたように、安倍政権を継承するとして、感染症が拡がるなかで「自助」を強調するなど、安倍政権以上に新自由主義政策による弱者切り捨ての強権政治にたいして批判が集中したのは当然である。場当たり的にくり返される「緊急事態宣言」や「まん延防止等重点措置」の適用では、人出抑制の効果も疑問視されてきた。

 しかも、ワクチンの供給も当初の政府の計画どおりに実施されず、多くの自治体を混乱させてきた。感染症対策の失敗は、新自由主義政策によって効率化を優先させ、公立病院や保健所の統廃合をすすめ、医療や福祉制度を改悪してきた結果である。さらに「自粛」要請によって、在宅勤務、営業時間の短縮などがすすめられきたが、十分な補償がないことで廃業に追い込まれたり、派遣や非正規労働者の雇い止め、解雇などが大きな社会問題になってきた。

 また、感染症拡大予防のための制約が長期化するなかで、女性の自死、配偶者や恋人などからの暴力(DV)の摘発件数が増加している。とくに、社会の閉塞感の深まりを背景にして、感染者や医療関係者、その家族などにたいする差別や忌避が強まり、「自粛警察」や「不繊布マスク警察」による攻撃的な言動が差別や人権侵害につながるなど人権意識の脆弱性も指摘されている。

 この間、菅政権の退陣を受けて、自民党総裁選がおこなわれ、それぞれの候補者が、今後の感染症対策をはじめとした政権構想を訴えてきた。感染症拡大による差別や格差、貧困がこれほど深刻化していても、その点に言及する候補者は皆無であった。また、中小・零細企業への支援、派遣切りや雇い止めなどの不安定な雇用状況にある非正規労働者の補償などにもまったく無関心であり、憲法改悪や日米軍事同盟の強化などを強調するなど、安倍政権や菅政権とまったく同様の政策を列挙するばかりであった。10月4日には、臨時国会が開会され、首班指名のあと、新内閣が発足したが、総裁選での論戦で明らかになったように、人権や平和、民主主義、環境の確立に向けた政策の展開を期待することはできない。

 この間、反人権主義政治をすすめてきた安倍政権のもとでも、「障害者差別解消法」「ヘイトスピーチ解消法」「部落差別解消推進法」「アイヌ施策推進法」などの個別人権課題についての法的措置を実現してきた。それぞれの当事者(団体)や支援団体のねばり強いとりくみの成果である。また、われわれは、「部落差別解消推進法」の制定の成果をふまえて、全国各地で、部落解放・人権政策確立の活動として、自治体での条例づくりをすすめてきた。

 奈良県や和歌山県、たつの市(兵庫県)、湯浅町(和歌山県)などでの「部落差別解消推進条例」をはじめ、多くの自治体で、新たな条例制定やこれまでの人権条例の改正を実現してきた。「部落差別解消推進法」は、いまだに部落差別が厳然と存在することをふまえ、部落差別が許されない社会悪であることから、国や自治体が、部落差別の撤廃に向けてとりくみをすすめることを明記し、基本的方向を示した画期的な法律である。

 法務省は、昨年6月に「部落差別解消推進法」第6条にもとづく部落差別の実態に係る調査結果を公表した。今年3月の衆議院法務委員会では、法務省人権擁護局長などが、結婚や交際では、いまだに部落差別が厳しく存在しているとの認識を示し、教育・啓発の重要性を強調した。また、今後の課題として、インターネット上の部落差別情報への対応策について、総務省や業界団体と連携してすすめることを答弁した。

 インターネット上の部落差別情報にたいする削除要請では、自治体でのモニタリングのとりくみが拡がっている。総務省もインターネット上の「誹謗・中傷」などの有害情報について、「プロバイダ責任制限法」の改定で、発信者情報開示の簡略化をすすめている。また、法務省も同様の対策として、刑法の侮蔑罪に懲役刑や禁固刑を導入する方向で法制審議会に諮問するとしている。しかし、鳥取ループ・示現舎のように、法務省などからの削除要請に応じないばかりか、差別講演の動画配信を予告するなどの確信犯にはまったく対応できていないのが現状である。

 なお、9月27日、東京地裁は、鳥取ループ・示現舎にたいする裁判で、被差別部落の地名リストをウェブサイトに掲載するのは「部落出身者が差別や誹謗中傷を受けるおそれがあり、プライバシーを違法に侵害する」とした判決を出した。また、兵庫県丹波篠山市では、市長や自治会会長などが、市内の地区の動画配信にたいして削除を求める仮処分申請をしたことで、動画サイトの運営会社が動画を削除するなど、自治体での積極的なとりくみもすすめられている。

 しかし、今回の裁判のように、長い年月をかけて裁判で争ったり、自治体が仮処分申請をするなど、日本には人権侵害被害を、迅速に容易に救済できる制度が存在していない。鳥取ループ・示現舎のような悪質な差別言動や、差別や暴力を煽動するヘイトスピーチを許さないためにも、国内人権委員会の創設を中心にした人権侵害救済制度の確立が喫緊の課題である。

 これまでの国内人権委員会設置に向けたとりくみでは、02年に小泉内閣で閣議決定され、国会に提出された「人権擁護法案」、12年に民主党の野田政権で閣議決定された「人権委員会設置法案」があるが、いずれも廃案になっている。

 とくに「人権擁護法案」ではマスコミ規制や、人権委員会を法務省の外局とする人権委員会の独立性など、多くの問題点が指摘された。われわれも法案の抜本修正にとりくんできたが、廃案になった。その後は、政権交代後の安倍政権の反人権主義的な政治がすすめられるなかで、人権や平和の確立に向けた政治勢力の結集に全力をあげてきた。

 このように部落解放・人権政策確立のとりくみは、中央―各都府県実行委員会が一体となった中央集会や中央行動を積み重ねながら、ねばり強い闘いのなかで、ようやく「部落差別解消推進法」制定を実現してきたのである。今後は、「部落差別解消推進法」制定をはじめとした個別人権課題での法制定の成果をふまえ、国内人権委員会の創設を中心にした包括的な人権救済制度の確立をめざすとりくみの強化が求められている。

 国内人権委員会の設置については、01年に人権擁護推進審議会がとりまとめた「人権救済制度の在り方」のなかでも急務の課題として強く要請されている。また、国連人権理事会普遍的定期的審査(UPR)では、07年の第1回審査、12年の第2回審査をはじめ、17年の第3回審査でも国内人権委員会の設置を求める勧告が出されている。さらに、日本政府が批准・加盟している条約機関からも同様の勧告が出されており、日本政府は、そのたびごとに「フォローアップ(確認、徹底)することを受け入れる」(17年11月のUPRの勧告にたいする意見表明)としているが、いまだに国内人権委員会の設置は実現されていない。

 このように、国内人権委員会の設置は政治責任であり、さらには国際的な約束事でもある。感染症拡大という困難な情況ではあるが、われわれは、これまでの闘いの成果をふまえ、国内人権委員会設置をふくむ包括的な人権侵害救済制度の確立に向けて全力でとりくみをすすめよう。

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